十和田の冬 #虹のくじら

冬の木にふれてごらん、すごいよ
ぱちぱちしてる
どくどくしてる
春へ向かうエネルギーがそこに
しまってある
その奥に、夏へ向かうエネルギーも、あるよ
その奥の奥に、秋へ向かうエネルギーも、あるよ
でも冬の木は、しゃべらない
じっとだまって、曇り空を見ている
寒そうに　なすすべもなく　立っている

でもぼくは知っている
このあとのめくるめく変化を
春になり　枝がはえ　めぶき
夏になり　葉が　おいしげり
秋になり　その葉を色づかせる
そしてまた、このいま目の前のあなたになる
孤独でなすすべもないあなた
曇天を見あげる　さむざむしいあなた
でもあなたはいま
黙って準備をしている
春の準備　夏の準備　秋の準備
変化のための準備
そのなかでいちばん大切なこと
それは
春がくることを
つよく信じるという準備だった
それは強い強い　準備だった

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『虹のくじら（美術出版社）』に収録されている内容です。