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Oh, YES! I am CRAZY!!!!

「一人で行くなら、パリとNY、どっちがいい?」
ロンドンのランゲージスクールに通っていた頃、先生とクラスメイトたちとそういう話題になった。
私は心の中で、パリかなぁ…近いし…と思っていたけど、クラスメイトのアドリアーナは言った。
「パリはロマンチックで素敵だけど、問題はパリジャンがいることよね」
先生を含め、ヨーロッパ系のクラスメイト達は、そうそうというふうに大爆笑して盛り上がっていた。
なるほど、パリとパリジャンは、ここではそういう立ち位置なのね、と純日本人の私は妙に感心したものだった。

それから数年が過ぎ、私は一人旅に行くことにした。
題して『ユーロスターの旅』(「題して」というまでもなく、至って普通)である。
ロンドンから出発して、アムステルダム、ベルギーの友人を訪ねた後、パリへ足を延ばして帰ることにした。
が、アドリアーナと先生たちの言葉がその時も忘れられない私は、最後の最後までホテルを取るのを躊躇した。
何しろ、パリはおろか、フランスに知り合いはいない。
フランス語もわからない。土地勘もない。
どうする?どうする?
……いや、逃げない。
私は駅の真ん前のホテルを取って絶対迷わないように準備した。

当日、ロンドンを出発して、アムステルダムの友人を訪ねて数日過ごしたまでは本当に楽しかった。
問題はベルギーのブリュッセルへ着いた後、ローカル線に乗り換えるときだった。
電車のアナウンスがフランス語(か、オランダ語。当時の私にはどっちか聞き分けすらできなかった)で、全く聞き取れないのだ。
チケット売り場の意地悪なおばさんに、〇番線だよと言われ待っていたのだが、アナウンスがかかった後そこのプラットフォームにいた人たちが一斉にどこかへ移動するみたいなのだ。
よくある、いきなりプラットフォームが変わったり行き先が変わったりするやつだなとは気づいたものの、私が乗る電車がそれに該当するのか、私が行きたいところには無事にたどり着けるのか、駅員さんに聞いてみることにした。

すると、立て続けに3回無視された。

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正直、ベルギーには苦い思い出のある私は、今回来るのも迷ったのだ。
最初にブリュッセルを訪れたのは2010年だったか。
電車のチケットを買うのからして苦労した。
白人さんカップルの後ろに並んだ私たちは、自分たちの番が来たので窓口へ近づくと、寸前で窓口の小窓をピシャリと閉められたのだ。
アジア人差別をそれまで受けてこなかった私はかなりビックリしたが、それまでが幸運だったということなのだろう。
チケットも欲しいチケットじゃない物を売りつけられそうだったので、それじゃないと、こちらもかなりしつこく食い下がった記憶がある。
頭に来たので、もらったお釣りをわざとらしくおばさんの前で数えてやった。
くすねられてたら困るからね!
そしてその直後には同行者がスリに遭って、私が犯人と思われる人に「盗りましたか?」と訊くところから始まって、最終的に私はブチ切れるわ、同行者は凹みまくるわ、翌日は日曜日だもんだからお店から何から何まで全部閉まってるわ、散々だったのだ。

だから、またブリュッセルで3回無視されようが、間違った情報を教えられようが、今更驚きはしない。
驚きはしないけど、違ったところへ連れていかれてしまっては困る。
どうしよう。
とりあえず、私は民族大移動のようにプラットフォームを移動するその集団について行ってみることにした。
そして、とりあえず、来た電車に乗ってみた。
一か八か。
電車のシートに座って私は、これからの自分の行く末を慮るしかなかった。
(ちなみにこの時、ヨーロッパはiPhoneよりブラックベリーという携帯の方がまだやや人気がある時代。今みたいにSNSで簡単に連絡を取るとかGoogle mapで調べればいいとか、精度の高い翻訳機とかそういう時代ではない。
携帯の使用頻度がもともと高くなかった私は、節約のために pay as you go というクレジット式の携帯電話しかもっていなかった)

さて、私が電車を降りた頃にはすでに辺りは真っ暗だった。
その駅前にはホテルやお店も何もない。
うわ、この駅で合ってるのか?
一瞬心臓がギューっとなって、一気に脳みそへの血流が多くなったような気がした。
「Ellie?」
そのとき名前を呼ばれて目を凝らしてみてみると、知らない男の人が車から降りてくるところだった。
友人の旦那さんだった。
うわ、この駅で合ってた…よかった、と、自分の強運に最敬礼したい気持ちになった。

そんなこんなで、ベルギーで友人夫婦と数日過ごし、私はそのままパリへと向かった。
正直、2度目のベルギーもきつかったから、パリへ行けることは逆に気持ち的に楽だった。
私はパリで大きな駅の1つ、北駅で降りた。
降りた瞬間に右も左もわからない。
看板も読めない。
でもここから先、ロンドンに帰るまでは一人で何とかしなければならない。
パリにはスリが多いと聞くし、ジプシーもいるらしい。
地図なんか出していたら観光客だってすぐにバレてしまう(小さいとはいえスーツケースを持っているのだから、地図云々に関わらず見た目からしてバレていただろう)。
とりあえず、(自然なふるまいを演じて)こっちに進む!
どちらにしろホテルは駅の目の前だ。
片っ端から1つずつホテルが見える出口を探せばいい。

「…………」

ダメだ。全部の建物の作りがレンガとか重厚感があり過ぎて、どの建物が何なのか全然見当もつかないのだ。
これは人に聞くのが早いか。いっそのことタクシーか。
すると、運がいいことに人の好さそうな小太りのおっさんが話しかけてくれた。
「ここ、このホテルに行きたいんだけど」
私はプリントアウトしてきたホテル情報の紙を見せて聞いてみた。
「知ってるよ、ちょっと待ってて」
おじさんは近くに泊まってたタクシーの運転手さんに話しかけて、こっちこっちっと私に手招きをした。
歩きながらおじさんは、ボランティア活動をしていると語って、ボランティア証明カードを私に見せてくれた。
恵まれない子供たちの支援が主だそうだ。
そうこうしてるうちに、ホテルの前に着いた。
……ん?ここなの?おっさん、遠回りしなかった?
さっきのボランティアカードも、チラ見セだけしてすぐにポケットへしまっていたし、何か怪しい!!!!
案の定、おっさんは「恵まれない子供たちに」募金してほしいと言ってきた。
キャッシュないよというと、キャッシュマシンを案内された。
私は引き出すふりをして、「日本のカードだから拒否られた。だから無理」と断って、しつこいおっさんに、マジ無理だから!とそのとき持ってた5ユーロを渡してホテルに逃げ込んだ。
後ろから、「もっとくれよ」的な言葉が聞こえてきた。
部屋へ着いた私はPCを広げて、日本やロンドンにいる友達にメッセージを送った。
早く帰りたかった。
タクシー運転手に話しかけていたのは、ホテルの場所を確認していると見せかけてただ世間話していたに違いない。
ボランティアの証明カードだって、図書館のカードか何かだろう(それからだいぶ後になって発覚するのだが、それは健康保険証カードのようだった)。
てことはあの5ユーロはおっさんの今夜のビール代になるに違いない。
ホテルだって結局出口は合っていて、ちょっと道路を渡って見てみたらホテルに気付けてた距離だ。時間にして15秒くらいか。
その徒歩15秒のホテルを探すのに5ユーロもだまし取られたことにショックだった。
こんなところに3日もいる計画にしてしまったことを呪ったし、パリに来たことも後悔していた。
気が付くと、3時間が経っていた。
このまま明後日までホテルの部屋に引きこもってるわけにはいかない。
行こう。
私はパリに来たらベタに過ごすと決めていた。
ノートルダムに行ったり、教会を廻って恋愛成就のメダルを購入したり、カフェのテラスでコーヒーを飲んで過ごしてるうちに、テンションが上がってきてしまった。
楽しすぎる!!!
本当は夜遊びもしたいけど、一人旅だし、言葉分からないし、もう嫌な思いはしたくないし、夜はホテルでゆっくり過ごした。
どちらにしても次の日は早い。

次の日はルーブル美術館へ行った(だから、ベタに過ごしたかったんだってば)。
近くのカフェで大好物の巨大マカロン2つとコーヒーを買って朝食にし、一通り見て回った。
美術には何も精通してないので、特に感動もなにもなかったけど、一応モナ・リザは見なくちゃ、とお兄さんに場所を聞いた。
すると、すでに通り過ぎてしまっていたようだ。私は元来た道を戻ったけど、それも当然。
モナ・リザは知名度のわりに存在感が薄い小さな絵だった。

そうやって私は、徐々に精神を回復させ、なかなか冒険心をくすぐる旅となったことに大満足だった。
ロンドンに帰った私は、ついでにロンドンに来たばかりの頃にお世話になったホストマザーの家に寄った。
「旅行はどうだった?何か飲む?」と聞かれ、迷わず紅茶をリクエストした。
ベルギーでもフランスでも、紅茶が少なかったからだ。
私は旅の話をホストマザーにしたけど、思い余もよらないところで話の腰を折られた。

「パリに行ってきたの?一人で? Crazy!!!」

どういうつもりで彼女がそう言ったのか私はわからない。
パリのようなロマンチックな場所に一人で行くなんて crazy という意味なのか、それともやっぱりパリジャンのいるパリに一人で行くなんて Crazy という意味なのか、私は聞きそびれてしまった。
だけど私はそれを、今でも誉め言葉として心の中で大事にしてる。
そうして私のパリへの一人旅は、今では武勇伝のように楽しかった青春時代に1ページになったのだ。

そう、やってみて、よかった!

P.S. 人生で一番怖かった日のことも書いてます。よかったら読んで下さい。
https://note.com/ellie_ythier/n/n0c4a32231ecb

#やってみた大賞

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