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つづく


相も変わらず
実家はなぜこんなにも重力が大きいのだろうと感心しながらも、リビングのカーペットから右半身が全く剥がれないことに失望している。

つい数日前までずっとせわしなくしていて「昔は季節を追っていたはずなのに、今じゃその季節に追いかけられてるのなんでや!つらいねん!はやいねん!」とどうしようもないことにピィピィ喚いていた自分が、今では可愛いまである。たった1週間も経たない内にお前は実家に蔓延した重力に感心し、活動も思考も止めて腐っている。
挙げ句の果てには四度寝をしてトイレの夢を見るが、今目の前にある便器が夢の世界のものか現実のものか分からなくなり混乱したまま用が足せず大変困っていた。
あと寝過ごして熱海まで行くキモ夢も見た。

実家の家具や家電の一部が新しいものに変わっている。見慣れた実家の景色に似合わず浮いていて、なんだか他の家具たちに仲間はずれにされているような気がする。せめて緑色の節電と書かれたシールくらいは剥がしてやることができれば良いのだろうけど、すまない。私はまずこのカーペットから自分の右頬すら剥がすことができないほど非力なのだ。

実家の窓から見下ろせる一軒家たちはこの時期になると競うようにベランダに色とりどりの装飾をしていたはずが、今年は極端に少なかった。電気代の高騰によるものだろうか。こうして目を瞑っていると対照的な昨日の景色が浮かんでくる。

この一年で親の声よりも聴いたアーティストの声、高騰した電気代など物ともしないような巨大で煌びやかな装飾。千葉県の幕張メッセで開催される国内最大級の年末音楽フェス「カウントダウンジャパン」のことである。
コロナウイルスが蔓延する前の2019年の開催を最後にしばらく離れていたが、それまで毎年のように一緒に行っていた幼馴染から誘われた今年、断る理由がなかった。

2019年

20年以上隣にいると何も変わっていないように思えるが、写真に映る姿は確かに歳を重ねている。

2023年(昨日)

ずっと幕張メッセに閉じ込められてた?

これは偏見だが、学生時代にフェスによく行っていた私にとって参加者は若い層だと思っていた。そのため、今回は自分たちよりも若い世代の参加者がほとんどと予想し多少の恥ずかしさから服装も落ち着いたもので行った。
すると幼馴染の姿があの時と全く変わっていなかったので、ずっとこの場所にいたような錯覚をしてしまった。フェスが久しぶりだったので勝手を忘れとりあえず手に取った服装が過去と同じガチガチのものだったようだ。でもそれで良かった。

変わっている、変わっていないと感じることがあることがこの歳になってとても幸せだ。
それは今日まで関係が絶えることなくつづいてきたものにしか芽生えない感情。

夜を越えても、季節を越えても、年を越えてもつづいてきたつながりを両手いっぱいに抱きしめたまま今年一年を終える。
それが来年変わっていてもそうでなくても良い。
それがずっと私の財産なのだから。

良いお年を。
そして来年もまたよろしくお願いします。


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