「CHIP WAR」1:軍民連携だが、国家体制ではない
本マガジンの創刊号として、2022 年 10 月 4 日に出版されたばかりの新作(日本語訳まだなさそう)「Chip War: The Fight for the World's Most Critical Technology」から始めさせていただきます。
この本の著者であるChris Miller氏は、タフツ大学の国際史の准教授です。
「New York Times」 の書評を借りると、この本の筋書きにはノンフィクション スリラーのように浮き沈みがあります。
この数年間国際社会で一番大きなテーマの一つである米中対抗、その焦点となっているのは半導体です。Millerの言葉によると、第二次世界大戦は鉄鋼とアルミニウムで戦い、冷戦は原子爆弾によって引き起こされ、現在の中国と米国の競争はコンピューターの計算能力を比較するものであり、最も直接的なものは半導体です。
中国は世界最大の半導体使用国です。 2021 年には、中国は半導体輸入に 4,000 億米ドル以上を費やすことになり、これは石油の輸入費用の 2 倍以上です。 もちろん、中国は国内で使用するためだけでなく、輸入した半導体の 65% ~ 70% が、iPhone などの輸出用のさまざまな電子製品の製造に使用されている。 中国は世界一のメーカーであり、世界一の半導体需要家でもある。
但し、中国は半導体の研究開発及び生産をコントロールできない。
かつてトランプ大統領の時代、彼は中国のファーウェイと ZTE だけを制裁対象としたが、現在のバイデンは中国半導体の使用、研究開発、生産を全面的に抑圧している。
当たり前ですが、中国人はこの状況に納得しない。 しかし、中国が独立して完全に半導体をコントロールすべきだと言うなら、それは難しすぎると思います。現実は、アメリカすらできない。
そうです。世界最強の米国でも最先端な半導体チップを生産することはできない。
世界で最も先進的な半導体は、台湾のTSMC に製造されている。 TSMCは Fab 18 という工場があり、5nm チップの製造と 3nm チップの試作を行っており、それは人類史上最も高価な工場です。 たとえば、アップル製品の主力 CPU は A シリーズと M シリーズであり、一つのチップには 100 億個、さらには 200 億個以上のトランジスタが搭載されている。 アップルはチップを設計したが、それらを製造する能力がなく、すべて TSMC によって製造される。
アメリカは、単一企業である TSMC が世界中すべてのハイエンド半導体の生産を独占していることに、深い懸念を抱いている。
台湾海峡の政治情勢を言わなくても、地理上、台湾は地震地帯に位置している。 突然の地震により TSMCが生産を停止した場合、たっだ1 週間だけであっても、全世界の損失は計り知れない。今全世界で生産されている GDP のほとんどが半導体を使用しているため、数千億ドル規模の産業が関与している。
しかし、半導体の製造はTSMCだけでもできない。半導体を製造するため:
まずはチップの設計、設計用ソフトウェアはアメリカ製です。
設計に使用されたARMアーキテクチャは、もともとイギリスの会社に属していたが、現在は日本の会社(ソフトバンク)に買収された。
設計が完了した、製造は台湾で行われる。 しかし、TSMC はゼロからチップを製造することはできず、必要な原材料は超高純度のシリコンウェーハであり、チップを製造するための特別なガスも必要であり、これらは日本からしか輸入できない。
チップの製造には露光機が必要であり、露光機を作れるのは世界で5社しかない。そのうち日本1社、アメリカ3社ありますが、最高級の極紫外域に到達できる露光機を製造できるのはオランダのASMLのみです。
チップがうまく生産された後も、パッケージングとテストが必要ですが、これは通常、東南アジアで完了する。 その後、完成したチップは中国に送られ、そこでさまざまな電子製品に組み込まれ、世界中の顧客達に届く。
問題はお分かるのでしょうか? こんなに重要なものなのに、その製造プロセスが僅か数社の少数企業にコントロールされている。これらの企業は互いに依存し合っている: 製造できる企業は、他社の露光機を買わなければならない;露光機を作れる会社はチップの製造ができない。これらの企業は、いくつかの国や地域に散らばっている。 バイデンは、アメリカが独自にゼロから半導体を製造することを強く望んでいるが、残念ながらできないのです。
では、半導体業界はなぜこのような局面となったのでしょうか? それは長いながらおもしろい物語です。
第二次世界大戦後、アメリカ人は、将来の最も重要な軍事技術は、もはや誰がどれだけの鉄鋼を生産できるかではないことに徐々に気づいた。ミサイルの時代が到来し、ミサイルの誘導には計算が必要です。 以前、飛行機を使って爆弾を手動で投下するのは基本的に運に任せることだった。現在、軍はその場でミサイルの計算を行うことを望んでいるが、十分な計算能力がない。
初期のコンピューターは、かさばる真空管を使用していた。大量電力を消費するし、エラーも発生しやすいし、計算効率も悪かった。 米国のミサイルも真空管を使用していたが、非常に効果的ではなかった。 それでも、如何にコンピューターの計算能力を向上させるか、米軍の中わかる人がいなかった。
物事はしばしば偶然なできことで進化する。
Bell研究所のWilliam Shockleyという物理学者が、1945 年に偶然に「半導体」を発見した。 ベル研究所の研究では、補聴器やラジオなどで電流を増幅する「トランジスタ」を半導体で作ることができると示された。
Shockley はさらに研究し、1948 年にトランジスタを「スイッチ」にした。スイッチを作ることは、コンピュータのCPU で使用できることを意味する。Bell研究所は、見通しがはっきりしていなかったため、あまり注意を払わなかった。
Bell研究所は記者会見を開き、私たちがトランジスタを発明したと発表したが誰も気にしてなかった。「ニューヨーク タイムズ」はそれを載せたのが46ページだった。
しかし、Shockleyはトランジスタが素晴らしい未来があると信じていたので、自分で会社を設立し、非常に強力な若者を採用して半導体を製造した。だが、Shockleyは科学研究が得意ですが、管理が苦手です。その後、歴史上「traitorous eight(裏切り者の8人)」として知られる8人はShockleyの半導体会社から「離反」した。この 8 人はカリフォルニア州のシリコンバレーに行き、そこでFairchild Semiconductor という新しい会社を設立した。
裏切り者の8人は後に伝説となり、シリコンバレーの創設者と言われている。そのうちの 1 人は、後に「ムーアの法則」を提唱したGordon Mooreだった。 8 人の中で最も強力だったのは、後に「シリコンバレー市長」と言われた立役者のRobert N. Noyceだった。
トランジスタは真空管よりはるかに小さく、電力も節約する。トランジスタが真空管を置き換えなければならないことは誰もが理解していたが、問題はどうやってそれを実現するのか? これほど多くのトランジスタを配線でつなぐのは非常に複雑な作業です。山ほど多くの配線をどうやって管理するか?
その時、ノイスの天才的な洞察が訪れた。彼は、トランジスタとトランジスタ間の接続を同じ基板に彫刻し、追加のワイヤがいらない。そうなると、合理的に設計さえすれば、トランジスタが多すぎることを恐れる必要はない。
そうです。これは「集積回路」、また「チップ」とも呼ばれるものです。
当初、集積回路の製造には、従来の配線方法の 50 倍の費用がかかった。巨大な市場を秘めていることは容易に想像できるものの、当時パソコンがまだ普及しておらず、大企業でもパソコンを持っていなかったので、マーケットは一体どこでしょうか?
ちょうどその時、ケネディはソ連と宇宙競争するため、アメリカが月面着陸を目指していた。
月探査機には、リアルタイムのナビゲーション計算を行うためのコンピューターが搭載されている必要がある。 当時流行っていた真空管を使うと、冷蔵庫くらいの大きさにしなければならず、宇宙船全体の消費電力よりも多くの電力を消費してしまい、現実的ではなかった。
Fairchildは、私たちが集積回路を発明したので、コンピューターを軽量化して省電力化したことができた。それを試してみませんか?と提案した。 NASA はテストして採用した。結局、Fairchildの集積回路がアポロ 11 号に使用された。 そのコンピューターの重さはわずか 70 ポンドで、サイズが1 立方フィートだった。
Fairchildは月面着陸プロジェクトで大金を稼ぎ、いきなり数千人の従業員と年間売上高 2,100 万ドルの大企業まで成長した。彼らは今後、米軍のあらゆる電子製品に自社のチップを使用されることを想定していた。
事実もそうです。その後、半導体チップは米軍のさまざまなミサイルに使用され、Fairchilが空に舞い上がった。すると次は当然、トランジスタの数を増やしてサイズを小さくする方法を考える。これには新しい製造方法が必要です。
1957 年、米軍の研究室にいた若い化学者、Jay Lathropはある考えを思いついた。人間は非常に小さいものを見たい場合顕微鏡を使うが、顕微鏡を逆さにして大端から光を入れると、大きなものを縮めることもができないのでしょうか?Lathropの手法は、今や私たちが「リソグラフィ」と呼ぶものです。リソグラフィーにより、トランジスタを 10 分の 1 インチまで小さくすることができた。リソグラフィーの原理はカメラの原理と似ていて、最初からコダックの感光技術をそのまま使っていた。
Lathropは1958年にTexas Instruments(TI)に入社し、実践を始めた。彼らは、既存の材料の純度と精度が要件を満たすことができないことに気づき、それらを自分で見つけて製造する必要があった。TIにとって唯一の方法は試行錯誤であり、高効率のリソグラフィ方法を見つけるために多くの実験が行われた。 このような仕事をするには、技術に精通したマネージャーが必要です。
1958年の中国では大規模な製鉄運動が起こっていた。同じ1958年には、ある中国本土で生まれ、ハーバード大学とMITを卒業した青年がTIに入社した。彼は固体物理学に精通し、物理的な直感を使って最適な実験パラメーターを見つけることができる。彼は管理も非常に上手で、管理が厳しくて、TIの従業員が彼のことを少し恐れていた。 彼が管理していた生産ラインは、数か月で生産能力が25%増加し、TIは彼に集積回路ビジネス全体を管理させるよう采配した。
この青年の英語名はMorris Changであり、漢字は張忠謀です。
張忠謀は1985年に台湾に誘われ産業技術研究所の社長に就任し、ついにTSMCという半導体会社を設立した。
リソグラフィ技術のお陰で、Fairchildの半導体事業は飛躍的に成長した。米軍は引き続き全面的に彼らを支持していた。1965年には、Fairchild生産したチップの 95%が米軍に供給された。とはいえ、Robert Noyceは軍に近づきすぎることを望んでおらず、Fairchildが独立企業であり続け、米国国防部が同社の研究開発計画に干渉することを望んでいなかった。そのため、Noyceはチップの民間市場を開拓するための努力を惜しまなかった。
普及させるため、Fairchildは継続的に価格を下げる戦略をとり、チップの単価を20ドルから2ドルに下げ、最終的に原価よりも低くなった。
その結果、アメリカでコンピューターの年間販売台数は1957年の千台から1967年の18,700台に増加し、民間市場が開かれた。ベンチャー キャピタルは、相次ぎシリコンバレーに目を向けてきた。
この時、Fairchildの管理は少し時代遅れていた。従業員は高い給与を得ることができるが、ストックオプションを与えられなかった。お金持ちになりたいのは万人共通なので、結局、Fairchildが崩壊し、創業者8人は枝葉を広げ、それぞれ自らの会社を立ち上げた。この時代は彼らの想像以上良い時代だったことが後に分かった。普通にお金を稼ぐのではなく、彼らは超お金持ちとなることができた。
その中、NoyceとMooreが共同で設立した新会社はIntelです。
最後に、アメリカにおける半導体産業の初期発展を要約すると、4つの特徴がある:
1 つ目は、テクノロジーがマーケットの需要を上回ることです。アメリカ政府が最初に半導体が必要だと言ってから半導体技術が出てくるのではなくーー物理学者が半導体技術でブレークスルーを起こして、しかも最初はその意義が世間に知られてなかった。その後ユースケースが現れ、マーケットが形成された。
2つ目は、米軍の支援が不可欠であるが、主導ではない。アポロ計画でも、次のミサイルオーダーでも、また軍の研究所でリソグラフィ技術を発明したことも、米軍は半導体産業の促進に大きな役割を果たしてきたことは事実です。人類の歴史で繰り返して証明されたように、最先端のものは常に戦争で使用されるものです。技術であろうか管理であろうか、軍は常に最先端の組織でなければならない。但し、軍は支援するだけで支配しようとはせず、ハイテク企業は独立性を保ち、最終的に民間用にしっかりと力を注ぎ、高度な技術を普及させる。
3つ目の特徴は、物語が意外に満ちていることです。半導体を発明したShockleyは半導体会社の運営方法を知らなかった。Fairchildはあれほど業績を上げたが、シリコンバレーの発展についていけなかった。キーポイントを的中したヒーロー達は、後に何か間違ったことをしてしまって、自分が開いた時代が自分を置き去りにするストーリーばかりだ。
4つ目の特徴は、アメリカの起業環境が極めて自由であることです。あなたの会社は良い会社かもしれないが、もっと良いアイデアがある限り、私は独立して自分の会社を立ち上げる。このような繰り返しはどんどん新しいイノベーションの波につながることが分かった。
これは、事前に上から下まで降ろした計画済みの大規模なプロジェクトではなく、米国の両党の良い政策に依存するものでもなく、国家体制の成功ではない。
アメリカはアメリカのやり方があり、他の国も独自のやり方がある。たとえば、旧ソ連と日本はそれぞれ異なった道を歩んできた。それについて次回で説明します。
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