井の中の不幸な蛙と幸福な蛙

10年ぐらい前まで、人は知識があればあるほど、世の中をより解像度高く見る事が出来、より幸せに近付けるものだと信じていたのだが、どうもそうではなかったらしい。
ただ、井の中の蛙であっても幸せになれるケースとなれないケースがあり、前職で見聞きした事というのはまさしくそれだったと思う。

非常にわかりやすい例なので何度もネタとして擦ってしまうが、前職のお局というのはまさしく不幸な蛙だった。
卒業後就職した会社にそのまま20数年在籍し、名目だけながらも一応役職を与えられ、平均的な日本の正社員女性よりは高い給与を獲得しているのだが、社内では冷遇され四面楚歌。
ほとんど全ての男性社員と険悪であり、みなしおじさんとして邪険に扱われるが、男性ほどの待遇を得られず、日々ゴミのような会社だと毒づきながら生きている。

彼女にもう少し知識や知恵があったなら、40前に会社を見限っていただろう。
また、もう少し広い見識があれば、それでも日本女性の中では良い方であると気付くだろう。そして、ポジティブな視点から仕事に対するアプローチを変える事が出来るはずだ。
しかし足下しか見えない為に、自分の待遇の悪さ(あくまで会社内比だが)を嘆く事しか出来ず、いつまでも会社が自分を引っ張り上げてくれるのを待ち続けている。
これは井の中の蛙であるがゆえの不幸な蛙だ。

前職というのは、知名度が高く評判の悪い3K企業のグループ会社(デスクワーク専門)だったのだが、本体の恩恵をこれでもかというほど受けており、財政的にはかなり恵まれていた。
これまで在籍した中では、過去最高に利益率の高い会社だったと思うが、本体から島流しに遭ったワケ有り人材の溜まり場であり、社員の大半が役職付きだった。

そのためか、財務状況が良くとも会社経営のレベルは非常に低く、執行役員に至るまで全員が平社員の頭脳しか持っていなかったと思う。
グループ会社に過ぎないとは言え、年商3桁億円の会社でありながら、予算以外に策定された目標が何もなく、何ひとつ戦略もないような会社が他に存在するものだろうか…?(余談だが、転職後すぐ経営戦略発表会に参加する事となり、そのマトモ過ぎる内容に目眩がしていた。)

さらにマネジメントはおろか、アンガーマネジメントすら出来ない人が多く、精神疾患か?と思いながら見ていたのだが、そうした理由もあって流されてきたのだろう。
とは言え、8割が管理職という環境では、役職者同士で怒鳴り合うという色々と気まずいシチュエーションになってしまい、あれでも本人たち比ではかなりマシだったのかもしれない。

そんな体たらくの、さほど有能でもない男たちがお局の職位をどんどん抜いていき、平均よりはるかに高い給与を得ている事実は彼女に精神的苦痛をもたらしただろうが、そういう社風なので仕方がない。
在籍年数(大卒からひと筋だと尚良)と性別が重んじられる会社なのだ。
惰性で在籍し続けているだけの、決して有能とは言えないごく普通のお局に勝ち筋はなかった。

一方で、それほど能力のない男性にとっては、楽園のような会社だったと思う。
彼らのほとんどは転職経験が無く、あっても20代のうちから在籍しているため、たいして他社を知らずに年月を経てきたのだ。
おそらく、役員たちにあまり能力がないという事にさえ気付けなかっただろう。上から下まで能力が低く、役職がついてもマネジメント研修の一つもないような環境で、何を学べるというのだろうか。
職位は自分より下の階級の者を怒鳴れる権利としか認識出来ていなかったのではないだろうか。
当然ながら有能な者は出ていくので、そうした会社に2〜30年残り続けた者となると横並びで無能にならざるを得ない。
しかし彼らにはそれなりの自負があり、しばしば己の能力の高さについて語りだすのだ。

無知とはなんと幸せな事だろうか…。
彼らはこのまま定年まで、井の中の蛙であり続けるべきだろう。

入社してすぐ、異様なほどの業務のゆるさと異常なほどの階級意識、頻発するパワハラ、あってないような業務目標と好財務状況…というチグハグさを目のあたりにして驚愕したものだが、こうした無能の楽園というのは各地にひっそり存在しているのかもしれない。


ひとつ断っておきたいのが、無能の楽園はあっても良く、それで成立出来ているのであればそれはそれで全く構わないと思う。
必ずしも皆、有能でなければならないとか、意識高く仕事しなければならないとか、キャリアを意識しなければならないという事はないだろう。
但し、無能の楽園にも格差はあり、全ての無能が救済されているワケではない。

(追記)あまり他者に対して無能無能と言っているとアレなのだが、要するにそんな会社に入っている時点で私自身もたいした事がないというのは百も承知している。
たいしたことがないので無能の楽園に辿り着いてしまったのだ…。

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