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ベルセルクについて。

作者の三浦健太郎さんが亡くなって、もう何ヶ月も過ぎた。
未だに信じられない。
あれだけの密度、あれだけの圧倒的な説得力のある世界観、キャラが生き生きとし、言葉が熱と力を持って、生と死がしっかり混在している漫画を私はベルセルク以外に知らない。
一枚絵はもはや絵画の域に達し、それでいて見やすくてすっと入り込める。
人物像の個性ははっきりしていて感情移入しやすい。
伏線の張り方も秀逸で、1巻から全く世界観がブレてないことによって物語を安心して楽しめる。
絵に、コマの一つ一つに、一言一句に、魂が込められているのだ。

とりあえずここは意味深にしとけ!
ここはこういう描写にしとけばいいだろ!
みたいなライブ感や妥協は無い。
全てが一つに収束していく様は実に小気味が良い。

1〜3巻で一気に読者を惹きつけ、ベルセルクの世界に引き摺り込み、そのあとは淡々と黄金時代編と呼ばれる主人公ガッツの誕生から変貌までが描かれる。
その所々に出てくる言葉たちは、哲学書に載っていても別に不思議じゃない。
13、14巻辺りで主人公は1〜3巻に張り巡らされた伏線を回収し、変貌を遂げる。
よくあるような「覚醒」ではない。「変貌」だ。
様々なものを、非常に残酷な形で奪われ、殺意で自分を塗り潰さなければ動けない状況状態に追い込まれる。
特に13巻はトラウマになっている人も多いだろう。
漫画なのに、2次元なのに立体的。故に並の衝撃ではなかった。
ちなみに、話題になってるから13巻だけ読もうって人がいるとしたらオススメしない。
1巻から読んでこその13巻なので。

とまぁそこまでがやっと序章のようなもの。
14巻くらいまで読んで夢中になったら、もう読む手は止まらないだろう。

そこからも名シーン、名言続きだ。
心にグサグサ刺さる。
章や編、話のタイトルもいちいち格好いい。

一体どれだけの知識が三浦健太郎先生の頭の中にはあるんだろう、どれだけ画力のレベルが上がるんだろう、と最新話を読むたびに思っていた。
今回の最新話もそうだ。
340話を越えて、やっと終章へと舵きりしてきたなという印象的なシーンで終わった。
最終話じゃない、最新話収録!でよかった。

逃げ出した先に、楽園なんてありゃしねえのさ。

祈るな!手が塞がる!

ただ一人、お前だけが、俺に夢を忘れさせた。

密かに、木々の虚が、草葉の影が、波の狭間が、風の囁きが、井戸の底が、屋根裏の暗がりが、密かに、いつの頃からか、静寂は、ただ静寂であることをやめていた。

なんて、挙げればキリがない。
言葉も、モノローグ的なものも、全てが印象深い言葉で彩られている。

ただ、残念なことに単行本になるに当たって削除されたページや話や台詞が結構存在する。
作者の意向だと思うが、非常に勿体ない。
有名な「深淵の神」との対峙する話、モズグス(敵)の所へ塔の上から駆け降りていくガッツの独白シーン、ある場所でのグリフィスのセリフ、などなど、ヤングアニマル本誌を追っかけていたものからすると「え!?何で削った!?」となる所が多々ある。
特にガッツが断罪の塔の上から仲間たちの元へと駆け降りながら「因果だ?運命(さだめ)だ?そんなものは関係ねえ、斬る。全部叩っ斬る!」などと言いつつ黒い風のように使徒もどきたちをズバズバと叩き伏せ、モズグスの所へ行く所は圧巻だった。
ガッツが、キャスカを救うかゴッドハンドもどきたちと戦うかの選択を迫られる葛藤のシーンからの繋がりだったので、削られたのは残念だ。
というように、ベルセルクはかなりブラッシュアップを重ねて単行本化されている。
いつの日にかこういった欠番になってしまったものを、本誌そのまま再録という形で日の目を見せてほしい。
見比べて楽しみたい。

ベルセルクは本当に一番好きな漫画だ。
語らせたら2000字程度じゃ足りるわけがない。
他に数多の漫画や小説、絵本など読んできた私が一番好きと高らかに宣言出来るほどの安定した素晴らしい作品だ。
一番というか、そもそも比べられるものがない。
異質な存在。
漫画というか伝記に近い。
画力に目を奪われがちだが、そもそも言葉の力が群を抜いている。

醜く、卑屈であざとい、怯えるもの。
憎みながら、すがるもの。

卵型の使徒のセリフだが、言葉のチョイスが素晴らしい。

お前本当に人間か…?
何なんだよお前ぇ!!!

覚えちゃいまい、貴様らが遊び半分で食い散らかした人間一人一人のことなんぞ、覚えちゃいまい!

ロストチルドレン編で対決するに至ったロシーヌとガッツとの会話。
ロシーヌは子どもながら非常に凶悪で、色々あって使徒(ヒトを捨てた超常のもの)となり、人間を虐殺しまくっていた。
そんな所へ人間の身でありながら使徒は全員ぶっ潰すと決めたガッツと出会い、叩き潰される。

このように人の弱さと強さ、それを上から目線で我関せずといった神々的な立場の使徒やゴッドハンド(神に近しい存在であり、敵)、それらの描写が本当に的確で格好良く、たまらないのだ。

時代背景や城や甲冑、武器の一つ一つまで丁寧に描かれており、そんな力強い言葉たちがより引き立つ。
今週号の寄稿された文章に書いてあったが、コマ一つ一つが別の世界を覗く窓であったらいいと三浦健太郎先生は仰っていた。
言い得て妙、まさにその通りだから。
常に覗かせてくれた。
血生臭く、生と死に溢れ、妖精や怪物や魔法が存在する世界。ボロボロになりながらも生き進んでいく一人の男が住む世界を。

なんて、熱く語り過ぎてしまった。
昨日、9/10にスペシャルなヤングアニマルが発売されて、書かずにはいられなくなって書いてしまった。
まだ手に入るのならば、漫画ファンを自負するのならば、是非手に入れてほしい。
どれだけの漫画やゲームやアニメや世界やメディアに影響を与えて、どれだけ愛された天才だったか、きっと巻末の漫画家さんたちのコメントを読むだけでも伝わると思う。

推敲もなく、一気に思ったことを走り書きしてしまった。
読みにくかったら申し訳ない。

本誌の表紙に描いてある言葉をそのまま引用させていただく。

言葉は無粋、ただ感謝のみ。

ありがとう、三浦健太郎先生。
ベルセルクは私の人生の教科書の一つです。

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