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素朴な疑問「新型コロナはどこが怖いの?」

見出し画像は6月初頭、ほぼ無人の成田空港で。先月か先々月かはよく覚えていないけど、母に「新型コロナはどこが怖いの? 簡単に説明してほしい」と聞かれた。5分でわかるノリで簡単に説明したことを、トランプさんの感染を機に肉付けて書き留めよう。基本は3つにまとめられる。

◾️重症化する場合はたいてい急変

1つ目は「重症化する場合、自覚症状が出てから死ぬまでの進行は非常に速い」とのこと。SARSが感染初期から発熱で延々と苦しむのに対し、新型コロナは軽い違和感や無症状のままで1週間も続き、安心した矢先にいきなり悪化し、3日以内ICU送りや人工呼吸器をつけないと保たないほどの重症化パターンが多い。

大丈夫だと思ったのに容態急変し、対応に追われて薬やマシンや人力などの医療資源を投入。しかし免疫系の暴走に対し、医療はぶっちゃけ時間稼ぎしかできず、回復できるかどうかは患者の体調・体質・体力次第。救えない場合は徒労で終わる——これが医療崩壊にも繋がる要因となる。

◾️損傷した臓器はほとんど回復しない

2つ目。「肺を中心とした臓器への破壊はほとんど不可逆」であること。

一番よく知られるのが肺の線維化(蜂巣肺)で、ほかに味覚や嗅覚の喪失も症状や後遺症として知られている。本人には自覚症状が一切なく、無症状のままで進行し、無事に回復できたとしても、肺などの呼吸器官に損傷がないとは限らない。損傷したらそれまで。回復しない。

呼吸器官にまつわる(医学の飛躍がない限りは永久的な)損傷とはそれから一生、息をするのに不具合があるとの意味。「子供や若者は罹っても平気」との呑気なこと言えないの原因もこれ。特に子供は免疫系がまだ発達していないから罹りにくいだけで、罹って何か損傷したら、一生そのままなのだ。残りの人生が長い分、後遺症に大きく影響される。後述の「変異しやすい性質」を考えると、「コロナはただの風邪」とか「若者にとってインフルより怖くない」とか「子供はほぼ免疫がある」と言いふらすのは無責任に極まりないのである。小説じゃないんだから、こんな煽りは度を越している。

この「不可逆の損傷」は恐るべきであると証左するのは、台湾では新型コロナを最初から最も恐れているのが医療関係者だということから窺える。特に医師。早い段階で病院の出入りに厳しいルールを設けて対処した。表向きでは「院内感染を防ぐ」というのだが、その時期にちょうど母が入院して看護師たちと話す機会が多く、聞いてみたら「後遺症ヤバいので感染る可能性のある人を職場に入れたくない」と口を揃えていた。

2003年のSARSによる集団院内感染(和平病院病院封鎖事件)も影響があると思うが、入国者が全員、強制的に14日間在宅検疫を実施するとの水際作戦を始めるまでの3月下旬以前に、「海外から入国して14日間経てない方の立ち入りはお断り」との、「症状があったら家で死ねってか…」と思わせて目を疑うような施策をした病院でさえあるほど、「体に不可逆の損傷を受けるリスクを回避したく、医療関係者は感染されるだけでも嫌」のがよくわかる。

◾️変異しやすい未知なるウイルス

3つ目。「人類に認識されたのはごく最近で、感染力の高い上に短期間で変異しやすいウイルスである」と。この半年の間、多くの科学者の尽力によって、かつてないスピードで新型コロナウイルスの仕組みを解明してきたが、まだまだ多くの謎と、時間が経過しないと結論は下せない事項が多く残されている。

事あるごとに比べられるSARSより、無症状や軽症が多いのがわかった。けれど症状が出るまで、他人へ感染る可能性がほとんどないSARSと違って、新型コロナは不快な症状が出る前からウイルスの量が増え、他人にうつすのが可能。「ピンピンと動き回れる宿主に乗ってどこでも行けるぜっヒーハー!」とウイルス視点からすると素晴らしい進化だが、人間からすると感染リスクが増えるわ感染経路が特定しにくいわ、気付いた時はすでにクラスターとかでたまったもんじゃない。

「どうせ臓器だなんて普通に使っても損傷するよな」と、前に言及した「不可逆の損傷」をそう重く捉えずに、医療崩壊でも起こさない限りでは致死率も高くないから「隔離や国境封鎖、外出自粛などで拡散を止めるより、インフル対策のようにワクチンを開発して対応すればいいじゃないか」と思えるかもしれないけど、「拡散しながら素早く変異し続ける」ところが厄介なのだ。

新型コロナウイルスは認識されて一年も経てないから「新型」なので、いま現在では解明できた仕組みこそ少なくないが、未知なる部分も多い。変異しやすい性質があると知っていても、どう変異していくかは正確に予測できない。なのに拡散し続ける。拡散すればするほど、つまり感染した宿主が多ければ多いほど、多様に変異する機会が増える。科学的にも社会的にも春では「こうすれば大丈夫だろう」と思う対策が、夏になって「あれ? ダメだった? 意味がなかった?」になる可能性は絶対にないと言い切れない。営業時間短縮要請とかね。

極端な例を挙げよう。今日まで「(免疫系が成長途上だから)感染の入り口であるACE2受容体の量の少ない子供は罹りにくい」だけど、ウイルスが感染を拡散を変異を繰り返すうちに「ACE2受容体の量が少なくても罹る」ように変化し、子供がバタバタと死ぬようにもなり得る、みたいな話。

まあ。あくまでも極端な例だが。変異して肺の線維化さえ引き起こせない、お年寄りにもやさしい超ナイスなウイルスになる対極な可能性もないわけじゃない。そうだな、なったとすれば台湾で発見できるかもしれない(苦笑)ただ真面目な話、人類現在の科学力ではどちらに転ぶかと予測できないから、人々の命や健康状態をチップにベットするのにリスクが高すぎる。そんな博打に賭けようとするイギリスも、2週間以内で諦めた。

期待されているワクチンも、本質的には「弱毒化/無毒化のウイルスかその一部を体に注入することにより抗体を得る」のだから、安全性確認のために時間が必要で、開発期間ン十年で試験に試験を重ねて、やっとまともに使えるようになったのもザラにある。子宮頸がんワクチンは25年もかかったとかね。「ワクチン打ってから1ヶ月も異常が見られない」とはイコール1年後も大丈夫ではない。

安全性の確保のため、3年も5年もの観察期間が必要なワクチン開発に対し、新型コロナウイルスは日本に入って半年、東京型や埼玉型に変異されたのが確認された。その拡散を止めなければ、変異スピードに今の人類はどうも追いつけないのであろう。

拡散と変異を繰り返しても致死率は低いままか、弱毒化してインフルっぽくなり人類の生活に溶け込むかもしれないが、急にMERSみたいになって猛威を振るう可能性もある。ウイルスに大統領が居て、彼か彼女(?)にインタビュー「これからの進化の方針についてのお考えは?」とかは聞けないから、ウイルスはどう変異して、それによって人々の生活はどこまで変化を与えるのが未だに未知数が多い。なにせ不確かな要素が多すぎる

◾️ウイルスよりも驕った人間が怖い

なお、集団単位でロックタウンや国境封鎖、個人単位で集中/分散隔離などが代表とした、変異する可能性を増す拡散を強制的に抑止し、その変異スピードを削り、攻略すべき「敵=ウイルス」の種類を固定し、分断して抑えて弱らせて消滅させるのに有効な対策であろう。徹底に封じ込めた中国と、徹底的に遮断し切った台湾をはじめ、ロックタウン効果を見せたニューヨーク、厳しい入国や外出制限を実施して死者ゼロまで抑えたベトナム(また制限を緩和する途端に感染拡大したとの事態を含め)、いくつかの国や地域は実証してきた。人類はこのウイルスに対し、全く打つ手がないわけでもないのだ。

しかしこの一手の本質、「拡散を止める」というのは、近代の経済活動との相性がすごぶる悪い。これはまた別の話。

「拡散を止める」「不確かな要素が多すぎる」「方向性を正確に予測するのが困難」などと、「近代的な経済成長」を求めようとすれば、どれも禁断のキーワード。軽く「相性悪い」と言うけれど、実際は食うか食われるかぐらい相対している。むしろこちらの恐ろしさが計り知れぬ。考えるのも嫌なのでまた今度。

以上。一般人によるお母さんのための「新型コロナはどこか怖いの?」でした。

話を結ぼう。正直この半年あまり、ウイルスに振り回される世界を見て、ウイルスがどうこうよりも、 20世紀中盤以降の医学分野の突破、20世紀末にネットワークの発明、科学のすさまじい進歩が人類の寿命を延ばせ、情報の保存や交換を便利となった同時に、人間はこんなにも驕って増長してきたことに落胆する。新型コロナウイルスの出現により、我々は自然に対し、科学に対し、他人に対し、知っていることがこんなにも少ないと判明されたのにも関わらず、ネットでの検索結果や思い込みで、自分たちは何事も知ったつもりでいるから、誤解や混乱を招き、事態がいつまでも収束できない。

まあ、嘆かわしいことを置いといて、新型コロナウイルスと対抗しようと共存しようと、「未知に畏怖を。既知に敬意を。求知心はいつまでも」と保つのが、たぶん一番大事だと思う。あと「他人のためにマスクして、自分のために手を洗う」も大事だね。正直の話、ウイルスは怖くない。無知が故に、尊大な振る舞う人間のほうが怖いのだ。

同情するなら金をくr……あ。いいえ、なんでもないです。ごめんなさいご随意にどうぞ。ありがとうございます。