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オデュッセウスを追いかけて(3)

 神話の世界に憧れて旅したギリシャ。2004年夏、英雄オデュッセウスの故郷といわれるイタキ島を訪ねた時の思い出です。

オデュッセウスの面影

 イタキ島3日目。早起きして、6時15分のバスでスタブロスという町へ向かう。あまりバスの本数がなく、朝に弱い2人なのによく起きれたものだ。朝から開いているカフェでフルーツヨーグルトを食べ、目的地の美術館へ向かう。

 白い門の横に「MUSEUM」と書かれたこじんまりとした建物。8時頃だったと思うが、開館時間の表示がなく、電話番号を書いた貼り紙がある。電話をしてみると、いつもは8時30分(その後9時からと言われた)にオープンすると言って、係の人が来てくれることになった。
 30分ほど待っただろうか。てっきりギリシャの人が来るだろうと思っていたら、40〜50代くらいだろうか、イギリス人の女性と研究者風の若い女性が現れた。アイルランド出身の人がこの島で発掘したことから、イギリスの調査団が今も発掘を続けているらしい。

 オデュッセウスのものと思われる三脚台や子孫繁栄の意味を持つ雄鶏の絵皿などが展示されている。近くの洞窟から出土したものだという。『オデュッセイア』の中にはイタキ島へ戻ってきたオデュッセウスが、宝物を洞窟に隠す場面がある。美術館を出て、その「Polis Cave」という洞窟のある場所を見に行った。

 歩いていると、犬がずっと付いてきた。私たちを先導するように前を行く。

カメラ目線

 歩きながら眺める海がとてもきれいだ。しかし目指す洞窟の場所は遠く、登り坂はつらかった。途中の公園にオデュッセウス像があったのに気づかず通り過ぎてしまった。

英雄のさまざまな顔

 オデュッセウスゆかりのものを見ることができ、感慨深い。何しろ私がギリシャに興味を持ったのは、オデュッセウスの冒険の旅を描いた『オデュッセイア』とギリシャ神話がきっかけなのだ。
 イタケー(イタキ)の王オデュッセウスは、トロイの木馬の策略を考え、トロイア戦争を勝利に導いたギリシャの英雄。戦争終結後、故郷へ向かう途中、海の神ポセイドンの怒りを買い、さまざまな困難に遭い、10年かけてイタケーへ帰る。子どものころ、映画好きの父が映画で見たというこの話を私たちきょうだいに話して聞かせ、子ども向けの本も買ってくれた。

 腕力を武器に戦う英雄たちと違い、知恵と策略を用いるところがカッコいい。と思っていたのだが、大人になって改めて本を読むと、違う一面が見えてくる。何年経っても故郷に帰ってこないオデュッセウスは死んだものと思われ、彼の妻ペネロペイアは、その財産を狙う大勢の求婚者から結婚を迫られていた。
 島に戻ったオデュッセウスは、彼の館で横暴の限りを尽くしていた求婚者たちと戦い、勝利を収める。戦いの場面では、子どもが読むにはどうかと思うくらい、残虐な描写もあった。大人になって『オデュッセイア』を読んでちょっとがっかりしたのは、故郷や妻を懐かしみながらも旅の途中で出会った女性(女神)たちと恋をしたとあること。「オデュッセウスよ、おまえもか」という気分になる。

 数年前、偶然、書店で見つけて買った『キルケ』(マデリン・ミラー著)という本は、彼を恋人にした魔女キルケが主人公の小説だ。オデュッセウスの残虐で狡猾な一面を見せながら、それでいて魅力的に描いている。

 私が大学生の時、フランス語の授業で、オデュッセウスの話がテキストに使われていた。私のフランス語は赤点ギリギリだったのだが、この授業だけは問題なかった。なぜならテキストをろくに読めなくても話が分かるから。
 オデュッセウスは、旅の途中、岩だらけの故郷の島を何度も懐かしむ。その島を自分の足で踏み締める日が来るなんて、子どもの頃は想像もしなかった。

ウニとビーチ

 ずいぶん歩いたので、カフェでひと休みする。スイカと「ラヴァニ」というイタキ名物のお菓子を食べた。シロップに浸した弾力のある生地は、小麦粉ではないみたい。もしかしたら、セモリナ粉などを使っているのかもしれない。

 再びバスに乗り、キリニという町へ向かう。バスの車窓から見える海は、深さの違いなのか深い紺色とエメラルドグリーンに分かれている。

 バスを降り、近くのビーチで遊んだ。透明な水の底には黒いウニのトゲトゲが見えるので驚いた。魚の姿も見える。そういえば、前に旅したミロス島というエーゲ海の島でも、ウニがいた。民宿の部屋を見せてもらった時、まだその部屋を使っている人たちの荷物が置いたままで、ウニを食べてみたのか、黒い殻があった。

 バスの時間もあり、食事する時間がなく残念。港のそばのヴァティという町に戻り、部屋で缶詰などを開けてランチにした。これはこれでなかなか楽しい。

 日が暮れてから近くのビーチへ写真を撮りに行き、タベルナ(食堂)へ向かった。イギリスの調査団が発掘していることも関係しているのか、イギリス人観光客が多い。

 タコのマリネと魚のグリル、シーフードスパゲティを注文した。ギリシャのパスタはアルデンテではなくやわらかく茹でてある。朝早くからよく動いた1日だった。

 オデュッセウスの像は、もしまたイタキを再訪する機会があれば、そばで見て写真を撮ろう、と思ったけれど、その機会は今のところない。

バスの車窓から。右側に銅像が写っている

(Text:Shoko, Photos:Shoko&Mihoko) ©️elia

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