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#7-3 初対面

 20席ほど椅子が並んでいるが、中岡の言う通り、まだ誰もいない。拓真は窓側の前から2列目の席に腰を下ろした。学校の授業でも可能な限りこの場所を選ぶようにしている。感覚的ではあるが、話し手の様子と聞き手の反応が客観視できるように思えるからだった。


 開始の15分ほど前には、ポツポツと入出してくる人が増えた。どの人とも目が合って会釈はかわすが、互いに離れた席に座ることを選ぶ。受験の時みたいだな、拓真は心の中で呟いた。

 
 今のところ、会議室には9名の人間が着席している。拓真は、一番前の中央の席に座る男に目がいった。背筋が伸びた姿は凛としていて、腕組みをしながら俯く姿がクールだ。切れ長の目は鋭くて、他を寄せつけない雰囲気すらある。根拠はないが、「サッカーが上手そうだ」と感じた。
 
 あまり注視して目が合っても気まずいだけだな。そう思って姿勢を正そうとした時に、新しい男が入室してきた。大きい。拓真も177cmと高身長な方だが、男の姿は自分よりはるかに大きいように見えた。男は周囲を一瞥し、「こんにちは!」と大きな声を出した。
 
 「みんなちょっと暗ない?せっかく集まったんやから仲よくしよや」
そう言いながら一人ひとりの席を廻り、握手を求めていった。ただでさえ身体の大きい男が、すぐ傍まで寄ってくると、その圧力は物凄いものだ。ましてや、言葉とノリが明らかに関西の人ものだ。勢いがすごい。周囲の遠慮がちな反応とは逆に、拓真は立ち上がり、自ら手を差し出した。

 「よろしく」
 「おお!兄ちゃんノリええな!よろしくな!隣座ってもええか?」
 「もちろん」

 彼の名前は前島ソラトと言った。「空」に「翔」と書くらしい。「かっこええ名前やろ?」と彼は笑った。拓真は自分の名前を告げると、「じゃあ今から兄ちゃんやなくて、拓ちゃんやな」と言われた。

 「教室入った瞬間堅い雰囲気やったからビックリしてんけど、まぁ、最初はしゃーないわな。緊張もしてるやろし。明日までにみんなで仲良くなったらええわ」

 最初は圧倒されたが、いざ近くで話してみると、意外と落ち着いて対話ができる相手に思えた。きっかけは難しいが、始めてみないとわからないものだ。

 「実はな、俺サッカーやったことないねん。みんなめちゃめちゃ上手いんやろ?だから教えてな」
 「そうなの?まったくやったことないの?スポーツも?」
 「正確に言ったら、遊びでフットサルとかだけやってるけどな。ここに来ること決めるまではバスケやっててん」
 「身長高いもんね。教えられることがあるかはわからないけど、できることは協力するよ。なんでサッカーをしようと思ったの?」
 「なんやろ、わからへんけど、今までバスケからサッカーに転向した奴っておらへんやろ?逆はたまに聞くけど。新しいことに挑戦したい思ってん。目立ちたがり屋やからな。でも、ホンマは顧問が嫌で辞めてんけどな。ここだけの話やで」
 「俺と同じだ」拓真は笑った。こんなにも初対面からテンポ良く会話が進んだのはいつ以来だろうか。彼とは馬が合いそうだ。


 拓真のスマートウォッチが振動した。画面は14時ちょうどを示している。空翔との会話に夢中で気がつかなかったが、先ほどよりも着席している人数が増えていた。目で数えると14人だ。遅刻だろうか。各地方から集まるから仕方ないか、拓真がそう思った時に、扉からスーツ姿の男性が入室してきた。

 最初に入ってきたのは金丸健二だ。ネット放送ではもちろんのこと、代表戦やJPリーグの観戦で何度も観たことがある。METUBEの動画が送られてきた時にも思ったが、有名選手と同じ空間を共有することに、少し不思議な気持ちになった。周囲の人々の反応も同じようなものだ。口を開けたまま、金丸が歩く姿を目で追っている。金丸のすぐ後ろには中岡が続いた。METUBEで紹介されたスタッフはここまでだ。


 しかし、入室してくる人の流れは途切れない。金丸と中岡とは少し間隔を空けて入室してきた別の2人からは、ただならぬ気配を感じた。

 浅めに帽子をかぶった青年は、どことなく、日本人ではないように見えた。黒髪だが彫が深く、瞳が大きい。左手にはアルファベットで書かれたタトゥーが刻まれている。
 男は遠慮気味に周囲に手を振りながら中岡の傍に立った。問題はもう1人の男だ。身長は自分と同じぐらいあるだろうか。拓真は男の胴回りの肉づき、胸板の厚さに目がいった。深々とかぶった黒い帽子にサングラス姿では素顔が確認できない。

 胸板の厚い男は金丸と中岡に挟まれるように立ち、白い歯をのぞかせた。

# 8-1  サプライズ   https://note.com/eleven_g_2020/n/nf8837395d525


【著者プロフィール】

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映画監督を志す小説家。日本が初出場を果たした1998年のフランスワールドカップをきっかけにサッカー強豪国の仲間入りを果たすためのアイデアを考え続けている。サッカーとテクノロジーが融合した物語、 11G【イレブンジー】は著者の処女作である。

Twiiter: https://twitter.com/eleven_g_11

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