no.53 実現 ― コラボレート(協働)II
企業文化
プロデュース・成長に向かない文化
企業文化に影響を与える6つの要素、特に、人、報酬、組織に関する一例として、日本企業に多く見られた年功序列による人事制度を考えてみよう。この概念はまだ日本企業の多くに存在していて、人事のバックボーンでもある。
勤続年数の多い者は、権限や役職で優遇される。先輩社員の下には経験の浅い若者が所属する。
もちろん、これは単純化された考え方だ。たとえば、同じような職場経験を持つメンバー間では、組織の目的への個々のメンバーの貢献も重要であり、貢献度の高いメンバーはより高いステータスを持ち、リーダーの地位にまで登る。しかし、会社の勤続年数に差があれば、成績優秀な人が上に上がるとは限らない。
また、終身雇用に則りながら、日本企業の機能的な人事制度を整備するために、独自の制度が作られた。日本語では、この制度を「職能資格要件制度」と呼んでいる。
この考え方は、個々の労働者のランクに応じて報酬を決定するというもの。そして、個人のこのランクは、組織内の個人の履歴を調査した結果、特定される。人事部門は、その人が実行したタスク(およびそのアカンタビリティ)に基づく、職場での個人の履歴がその人の能力を証明すると想定している。
繰り返しになるが、日本企業の場合、このシステムに従ってランク付けされると、その資格は半永久的に維持され、それに比例して、その人の報酬が決定されるという考えだ。
日本の高度経済成長の時代(1954~1973)、会社の利益の継続的アップという大きな流れの中で、チームメンバーへの報酬が確保できたとき、この仕組みはうまく働いた。しかし近年、経済が停滞し、競争が厳しくなり、会社の業績が安定せず、この仕組みは次第に機能しなくなっていった。そして、会社の人事コストに過度の負担をもたらした。年功序列人事制度もこの職能資格要件制度も、基本的に終身雇用の考え方に基づいており、これが日本の企業がゲマインシャフト文化に傾倒する大きな理由になっている。
これら日本の人事制度は、企業のはしごを登る、2種類の人材を生み出す傾向をつくった。
日本では、人はこう考えたい――組織においては威厳があり、洞察力が高く、勇敢で公正な心を持った人が権力の座に登る。そして、過去においてこれはおおよそ真実であり、近代の日本の急速な成長の主要な要因だった。
彼らは論語や孫子など東洋の古典を学び、上級管理職の経験則を学ぶために経営塾に通った。また、国と国民を豊かにする、日本の産業に貢献する目的を構築し、国民の威信を高め、最終的に企業の責任を負うことになった。これらの人々は、第二次世界大戦後も日本企業のさまざまな挑戦でリーダーシップを発揮し、現代日本の繁栄を築いてきた。
もう1つは、日本の伝統的なゲマインシャフト文化を利用して、自分の力を拡大し、私利私欲を追求して昇進する、単なる利己的な人である。できるだけ上司の目にとまろうとし、信用されようとし、簡単にこなせる仕事だけをレパートリーにして、表面上は良い結果を出す。挑戦することを躊躇し、困難な仕事に関する危険を回避する。彼らは、影響力のある利害関係者の個人的な関心を調査するのが得意であり、彼らのために短時間で確保できる勝利を勝ち取ろうとする。強い変化や自己犠牲を必要とする目標や目的には目を向けていない。彼らには、会社の長期的な成功に必要な勇気も興味もない。これらの人々は、プロデュースのテーマを設定したり、それにコネクトしたり、それに貢献したりすることには興味がないのだ。自分自身を成長させようとせず、惰性で生きている。彼らは自分の特権と取り巻きを失わないように気を配る。欲と野心で構成されている人々である。このような人たちも、日本の組織で上に上がれる可能性があると言える。
ここで挙げた2 つのタイプは、互いに大きくかけ離れた典型的な例だ。現実には、上記の優れたリーダーと後者のわがままなリーダーの間にはグレーゾーンがある。
2つのタイプは両極端であり、多くの上級管理職や中間管理職はそのグレーゾーンに位置している人達。そして、これは長い歴史を持つ日本の企業組織の特徴だ。しかし、プロデュースの実現を目指す組織の上級管理職に、後者に近いタイプの人がいると困るのである。
後者のようなリーダーが組織を支配すると、彼/彼女は自分の間違いや失敗を認めず、それを隠蔽したり正当化しようとして、組織のメンバーに圧力をかける。さらに悪いことに、彼らはそのために無駄なお金や時間を使っている。お世辞や耳に心地よいことを言うだけのメンバーが組織にとどまり、勇気を持って正当な意見を持つメンバーは、さまざまな方法で罰せられるか葬り去られる可能性がある。そして優秀なメンバーはチームを離れていく。
この種の文化は、いかなる状況においても避ける必要がある。目的を実現するための理想的な組織とはかけ離れている。そこには人間の利己的な欲望の塊が渦巻いており、このような文化ではプロデュースに値する価値は見いだせない。
ローレンス J. ピーター による「ピーターズ プリンシプル」(54)という本があるが、これも組織の問題を指摘している。
ピーター氏によると、社会学的ヒエラルキーの法則によれば、組織内の各人的資源は次のような方法でヒエラルキーを登る、とする。人がヒエラルキーのいくつかの段階で達成した成果は、その人をヒエラルキーの次のレベルに押し上げる力として機能する。あるレベルの職務要件を満たすことができる人は、次のレベルのポジションにステップアップする。そして、最終的には自分の力では満足のいく成果をあげられない限界にまで達してしまう。
別の言い方をすれば、その人が達成すべき責任がヒエラルキーに明記されており、それを成果として挙げることができれば、その人は次のレベルに上がる。職能資格要件に基づいた報酬が保証される。
逆に言えば、以前のポストでOKで、連続してヒエラルキーを登っている人が、あるポジションに留まるとすれば、そのポジションでの成果が満足のいくものでないということである。その役職に必要な業績基準を満たすことができない人だけがその役職に留まる。
この問題を解決するためには、組織のメンバーは、割り当てられた任務のタスクを実行するだけでなく、次のレベルの目標を達成する能力を獲得するための、十分なモチベーションを開発する必要がある。
あるいは、問題なく仕事ができるレベルまで降格するか、辞任して別の人にその地位を譲らなければならない。
これらの問題を解決するために、 私がMBO (Measure By Outcome)と説明した、新しい人事制度が必要になったのだ。世界規模の経済の要求にこたえるために、最近日本の進歩的な企業ではこのシステムが推進されている。
プロデュース・成長に適した文化
繰り返しになるが、私の約50年のビジネス経験からいうと、プロデュースを達成するための組織は、まず機能的な組織でなければならないということだ。ゲゼルシャフト、機能体組織の基本的な考え方は、これがバーナードの理論で述べられている有効性と効率性を追求するための組織だということである。
機能的組織とは、競争環境が存在する組織である。そして、この組織の焦点は、組織ごとに独自に設定された目的を達成することだ。家族や地域社会などの組織はゲマインシャフトと呼ばれ、メンバーの満足と友情が不可欠である。しかし、ゲゼルシャフトではメンバーの満足と友情はプロセスに過ぎず、組織は人々の感情的な側面よりも、戦争に勝つ、プロデュースを完成させるなどの望ましい目的を達成する必要のためにあるということなのだ。
前述の稲盛和夫は、著書「ガキの自叙伝」の中で京セラの再建について語っている(55)。彼が経営する京セラは、オイルショックの際、受注が激減した。組織の人々を解雇してはいけないという信念で運営していたが、「少人数の仕事に普段のメンバーを割り振ると、現場の空気が緩む。私が思うに、仕事の数が半分なら、人の数も半分でなければならない。」
ゲゼルシャフトでは、場の空気を緩めず、ゴールに向かって継続的に人々の最大の貢献を求めるという考えが重要だ。この文化を育む原則は合理性。人間味や感情で最終決定を下し、調和を優先する組織ではだめなのだ。そのためには、妥協しない心構えが必要。 「真・善・美」という価値観が根底にある組織であっても、プロデューサーは経営においてこの合理性を手放してはならない。
また、客観性の高い<情報>を人の評価や仕事の報酬の基準とすることが不可欠だ。経営陣は、機能体を創造し維持するために、組織内に公正で競争的な環境を作る必要があるのだ。
ゲゼルシャフトを作る際に、リーダーまたはプロデューサーが特に意識する必要があるもう1つのポイントは、最高の結果を要求することである。
プロデューサーは、そこにたどり着く明確で具体的な基準を示し、組織として最良の結果を目指す必要がある。
ソニー創業者の盛田昭夫氏は、著書「学歴無用論」で次のように述べている。(56)「会社は楽しい場所である必要はない。会社での活動は遊びではありません。社員は会社で働いてお金を稼いでいますが、そのお金で会社の外では幸せに暮らしてほしいと思っています。」
人は学歴が高いほど、自分の活動に楽しみを見出そうとする傾向がある。
しかし、私が満足と友情について説明したように、これらは二次的であり、目的に向けた目標の達成が優先されるべきである。
さらに言うなら、そのメンバーに割り当てられた責任は、彼らの前向きなやる気によってのみ実現されるのではなく、彼らの活動の結果としてもたらされるべきである。これは確実に結果を出すための重要で基本的な考え方だ。結果によって評価する必要がある。(M.B.O)
マネージャーは、能力、意欲、そして結果を達成するために必要な考え方を備えたメンバーに責任を割り当て行動を要求する必要があるのだ。
リーダーシップは、この機能体の創造と発展のためのものである。リーダーは、前述の6つの要素を活用して組織文化をデザインし続けるのである。
6つの要素がどのように導入され、相互に影響を与え合い、組織の文化を生み出しているか ――この文化に基づいて、組織外のパートナー(サプライヤー、ビジネスパートナー)や顧客との人間関係や協力関係が生まれる。
機能組織であるゲゼルシャフトでは、結果が数値に基づき明確に表現されることが重要だ。芸術の世界では、業績は「善悪」「好き嫌い」「新旧」などの主観的・感情的な言葉で表現されることが多い。しかし、ゲゼルシャフトでは、測定可能な数値で、指標の具体的な成果で結果を説明する必要がある。
結果が芳しくない場合、経営者は、この不満足な結果の原因となっている文化的問題を、6つの要素を調整して解決する必要がある。
人は当然、組織の目的に貢献し、真善美のために結果を出そうとする。これが行動科学のY理論であり、マネージャーが彼らの成長を後押しし、やる気を起こさせることができれば、満足のいく結果が得られると説明されている。
一方、X理論は、人は生まれつき怠け者であり、マネージャーが適切に管理しないと、何をすべきかについて集中力を失うと考える。マネージャーは、人々が従うべき厳しい規則を作るべきである。それが理論Xだ。
これらについては、ダグラス マグレガーがその著書「企業の人間的側面」(57)で説明している。
XorY、いずれにせよ、組織の目的を明確にし、その解釈を継続的に伝達する必要があるのだ。人々が互いに協力し合うためには、プロデュースの価値観である「真・善・美」の浸透が必須である。
参考文献
54: 「The Peter Principle」Laurence J. Peter & Raymond Hull (Buccaneer Book)
55: 「ガキの自叙伝」稲盛和夫著(日本経済新聞出版)
56: 「学歴無用論」盛田和夫著(㈱朝日新聞出版)
57: 「企業の人間的側面」ダグラス・マグレガー著(産業能率大学出版部)