イマーシブシアター『藍色飯店』がとてもよかった(前編)
2021年11月11日~12月8日に大阪で開催されたイマーシブシアター『藍色飯店』がとても良かったので、自分なりにどのあたりが良かったかちょっとまとめてみようと思います。
ちょっと書きたいことが多すぎて、終演から1ヵ月以上経った今も十分に整理できなかったので、とにかく思いついたことから書いていこうと決めました!なので、今回は前編ということで。
将来再演される事があるかもしれませんので、物語そのものには(公式で書かれているものを除いて)触れない書き方をしますが、自分が感心した部分の説明で、本作のイマーシブシアターとしての工夫には触れざるを得ないため、まったく白紙で『藍色飯店』を楽しみたい方がおられたら、ご注意ください。
また、ホテル内は公演終了後に自由に撮影できたのですが、写真についても初めて観る方の体験感をできるだけ損なわないものに絞ってアップします。
『藍色飯店』とは何か
HOTEL SHE,がプロデュースするイマーシブシアターシリーズ『泊まれる演劇』の最新作になります。
『泊まれる演劇』は、直接参加型、オンライン型の双方で何作も制作されていますが、今回の『藍色飯店』は、直接参加型の3作目になります。
それまでの『泊まれる演劇』と物語的な繋がりは特にないので、『藍色飯店』だけ参加してもまったく問題なく楽しめます(一部、分かる人が分かる過去作ネタはありますが)
ホテルという場と世界観
『藍色飯店』は、かつて閉館されたホテルが再オープンし、招待状の届いた人間だけがそこに足を運ぶことができる、という設定です。
登場人物もすべて藍色飯店に滞在している存在であり、参加者と同じ宿泊者なのです。
そこには、イマーシブシアターの特徴としてよく言われる、舞台と客席間を隔てる「第四の壁」が取り払われただけではなく、過ごす場所と時間すら共有される没入感を提供しています。
これはホテル全体を完全に『藍色飯店』の舞台として構築でき、かつ宿泊型イベントとして開催できる『泊まれる演劇』ならではの没入感で、他のイマーシブシアターではなかなか真似ができないポイントです。
しかも、外からやってきてチェックインし、ホテルに滞在し、チェックアウトして外の世界に戻っていくというホテルでのあり方が、物語の設定と密接に関係しており、朝になって自分がチェックアウトする行為すら物語体験に感じられてしまう構成は見事だと思います。
『藍色飯店』のメインモチーフは「時間」です。公式サイトにも
「時間を忘れたホテル」
「時を忘れるような極上の滞在を楽しむことができる」
「館内を散策しようとフロントに向かうと、そこには“時を忘れた部屋を巡る旅”への切符が用意されていた」
といった表現があちこちに書かれています。
実際の参加者も、チェックイン後、スマホや時計など「時がわかるもの」をフロントに預けることで“時を忘れた部屋を巡る旅”をスタートさせることになります。
これは「時間を忘れて」「時間を気にせずに」イマーシブシアターに没入してほしい、ということかなと最初思っていましたが、お芝居が進むにつれて、「時が止まること」「時が進むこと」が物語の中心としても意味を持っているのだということが分かってきます。
1回で物語体験をどう伝えるか
イマーシブシアターの弱点として、特に自由移動型の場合、1回の参加では取りこぼすイベントが多数発生しやすいという問題がありました。イベントによっては、物語の中心となるものがあったりして、それを見逃すことで、そもそもどんな物語が分からなくなる危険性も出てきます。
その問題点解消のために、イマーシブシアターではいくつかの方法が考えられてきました。
●ある程度自由移動を制限する
ルートそのものを完全に固定したり、全員が必ず見るイベントを多めにする手法です。
ただし、固定度が高くなるほど自分ならではの体験感は低下するため、イマーシブシアターとしての楽しさが弱くなる危険性があります。
●ループ構造を入れる
『Sleep No More』や『スパイは3度、ベルを鳴らす』のように1回の公演で同じ時間を繰り返すループ構造を入れると、1回目と違うルートを選ぶことができるので、カバーできるイベントが広がります。
ただ、この構造の場合、1ループあたりの公演時間はどうしても短くなるので、じっくりと物語を描きにくいという欠点があります。
それに対して『藍色飯店』ではある工夫を入れました。
それは、同じイベントシーンを何度も繰り返すこと。
これによって、例えばAとBという場所で起こるイベントがあって、A→Bというルートで来た人も、B→Aというルートで見た人も、必ず同じイベントを観ることができます。
見る順番は自由だが、イベントは何度も起きるので、物語の中心となるイベントを見逃す危険性を大幅に抑え込むことができる上に、見る順番によって体験感も変わるような物語の工夫もされています。
しかし、この方法にも問題点があります。
なぜ同じイベントが何度も発生するのか、という物語的な違和感
時間的にも空間的にも切れ目が分かりにくく、体験が混乱してしまう危険性
イベントが変わらないと、一通り見終わったあとはすることがなくなる
1の「同じイベントが何度も発生する違和感」については、物語設定そのものに触れるために具体的には書きませんが、同じイベントが繰り返されていてもおかしくない世界設定を持ち込むことで解決しています。
2の「切れ目が分かりにくくなる問題」については、発生するイベントの多くをホテルの各室内にすることで、まず空間的に区切ることに成功しています。
観客が部屋の中に入るまでは何が行われているかが見えないため、うっかり目にして混乱する危険を排除している訳です。
また、1つの部屋に入れる人数の上限を決めているので、上限を超えた場合は、部屋の前で今部屋の中にいる観客が出てくるのを待つ形となり、この観客の入れ替わりがイベントが繰り返される時間の区切れ目の役割を果たしているのです。
3つ目の「一通り見終わったあとはすることがなくなる」については、同じ室内を使いながらも、物語の進行に合わせて発生するイベントをあるタイミングで変化させています。
といっても、どんどん変化するというよりは、主なイベントを一通り観たくらいの経過時間で変化が起きるので、ほどよいタイミングでまた同じ場所を訪れる意味が生まれています。
特別イベントの保証
イマーシブシアターではよく「1 ON 1」と呼ばれる、特定の人だけ(その名の通り、多くは1人限定)が体験できるイベントが発生します。
『藍色飯店』の場合は、1人限定というイベントは(私が見た限りは)なかったようですが、逆にあるタイミングである部屋にいた時に発生するというものが多く、参加者はたいていどこかの部屋に入っていることが多いため、何らかの特別イベントをほぼ体験することができます。
「1 ON 1」はどうしても選ばれるかどうか運的な要素があったり、VIPチケットのみで発生するといったものもあったりするのですが、『藍色飯店』では、よほど運が悪くない限りは、なんらかの特別イベントを1~2回は体験できるのです。
しかしながら、特別イベントはほぼ同時期に複数発生するため、一度の参加で全てを体験することはできません。それが複数回参加するためのモチベーションにも繋がっています。
ということで、まだまだ書きたいことはありますが、続きは後編までお待ちください(できるだけ早くアップできるよう頑張ってまとめます💦)【2022/01/26追記】「後編」ではなく、「中編」になってしまいましたが、続きはこちらですw
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