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THE LAST DECADE(「日本エレキテル連合文化祭2023」出展作品より抜粋)

このコラムは、2023年9月3日に開催された「日本エレキテル連合文化祭2023(日本エレキテル連合をテーマとしたファンアート展)(何だソレは)」に出展した冊子から抜粋したものです。

 社会人生活も長くなり、それなりに毎日なんとかやっている。住む街も好みの服も聴く音楽も、隣にいる人も変わった。それでも私は、10年前に出会ったお笑い芸人のことを、性懲りもなく追いかけている。

 日本エレキテル連合を知ったきっかけは、2013年と2014年をまたぐ大晦日の、とあるテレビ番組だった。

 その当時、私はまだ実家で暮らしていて、大晦日には母とふたり連れ立って、近所のお寺まで参拝に行くのが恒例行事だった。未成年で、深夜に外出する機会はまだ少なかったから、鼻腔いっぱいに満たされるキンと冷たい冬の夜の匂いや、境内で参拝客に振る舞われる熱い甘酒、新年のカウントダウンやゼロになった瞬間に『あけましておめでとう』と恭しくお辞儀をする人たちの声や表情を楽しみにしていた。

 除夜の鐘を撞いた後でなぜか貰える、みかんやカップ麺。それらを両手に抱えて家に帰り、コートを掛けるついでに、何気なくテレビのリモコンを手に取る。ゆっくりと映し出された画面の中に、彼女たちはいた。孤独な独居老人と、白塗りのセクサロイドに扮して。

 およそテレビで見たことのない、奇怪なふたり。私はその姿を目にした瞬間、背筋が泡立つような感じがした。

 え、なにこれ、めっちゃ怖いんですけど。なに? 誰? でも、目が離せない。どういうこと? っていうかこれって、お笑いの番組だよね……?

 もう寝るからね、と寝室に向かう母に適当に返事をしながらパソコンの電源を入れて、ひと目見たら忘れることのできない強烈な印象のコンビ名を検索窓に打ち込む。

 日本エレキテル連合。

 当時のWikipediaにはまだそこまでの情報がなく、程なくしてYouTubeに辿りついた。彼女たちの動画がまとまっているらしいチャンネルの中から、目についた動画の再生ボタンを押してみる。ちなみにこのときなんとなく選んだ動画は、私を彼女たちの沼に落とすまでの時間を、半年ちょっと遅らせることになるのだが(「人形以外劇」シリーズの、ボールペン上司にセクハラされるサイコロOLの動画だった。このときの私にはまだちょっと早かったみたい)。

 ただ、完全にトラウマを植え付けられたこと、そしてYouTubeに彼女たちの公式チャンネル「感電パラレル(通称「感パラ」)」があるという知識を得たことは、その後の展開のためによかった。

 二度目に彼女たちに興味を持った詳細なきっかけについては省くが、再び感パラにアクセスした夏には、日本エレキテル連合はじわじわとその存在を知られるようになってきていた。大学の、永遠に続くかのような夏期休暇の真っ只中にいたことや、法律の資格学校のダブルスクーリングを終えたこと、当時の交際相手と海を隔てた遠距離で、途方もなく暇だったことが功を奏したのだと思う。「感パラ」に公開されている動画を、むさぼるように全部見た。たったの二日で、そのあとの10年間を、まるっきり変えられてしまった。

 夏の終わり。日本エレキテル連合の存在がすっかり日常に根付き、彼女たちの情報は何でも調べるうちに、Twitterで日本エレキテル連合の活動を応援しているファンのコミュニティが形成されていることを知り、有名なファンのやりとりを、悪趣味ではあるがこっそり覗き見するようになった。

 ライブやイベントのレポートを書いてくれる人、好きなポイントを熱量高く語る人、出演情報をまとめてくれる人などがいて、それは燻り始めた火を大きく燃え上がらせる薪のようになった。

 大学の講義が再開し、再び都内のキャンパスまで片道一時間ちょっとかけて通うようになった私は、持て余した通学時間で、日本エレキテル連合専用 のTwitterアカウントを作成してみることにした。

 新参をあたたかく迎え入れてくれたファンの人たちと出演番組の感想を話したり、毎日更新される感パラの供給に感涙したり、人生初のお笑いライブで間近で推しを見て(そ、存在している……)と思ったりしているうちに、年は明けて2015年。年間100回以上、彼女たちの活動を追いかけるために、日本各地へ足を運ぶ数年間が始まった。

 そして今。私は10年前に出会ったお笑い芸人を、性懲りもなく追いかけている。

 日本エレキテル連合の活動を追いかけてきたこと、これからも追いかけられることを、心の底から誇りに思う。目新しいものや人は毎日たくさん生まれて、エンターテイメント業界の支配図はめくるめくうちに変わる。彼女たちが大衆の陽の目を浴びた先には「流行語大賞」があったけれど、それでも本来、流行りや廃りとは離れた場所にいる人たちだと思う。

 日本エレキテル連合は廃れない、なぜなら変わり続けているから。ふたりの中に、いくつもの違う魂が宿っているから。コントという形式で披露される百通りの人生の中には、現実の社会ではすれ違うことのなさそうな人もいれば、自分と似たところがある人もいる。大勢のタレントさんが「日本エレキテル連合」というプロダクションに所属しているみたいだな、と思う。それか、遠い所に住む友だち。最近会えていないあの子は元気かな、と考えたりもする。

 出会ったときの彼女たちの年齢に、もうすぐ追いつく。これまでの10年、ふたりの活動から、たくさんの幸せな感情を受け取ってきた。私から彼女たちにあげられるものは、きっとそれほど多くはないけれど、後ろからそっと拍手と歓声を送りつづけながら、ふたりが自分たちの好きなことでずっとずっと胸を張っていけるような、そんなファンであり続けたいと思う。

 これからの10年も、よろしくお願いします。あなたたちは、かっこいいです。

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