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ワインコラム34:ルソーのジャングル

タイトルデザイン
Ryoko ☆Sakata

12才の時に衝撃を受けた絵があった。 
中学入学時に渡された美術の教科書の表紙の見開きに、その絵はあった。最初の印象は一面のグリーン。良く見るとそれはジャングルで、オレンジ色の美味しそうな木の実もある。
それはアンリ・ルソーのジャングルの絵だった。
ルソーは、ジャングルをモチーフとした絵を何枚か描いているが、それがどの作品だったかというのは思い出せない。

とにかく、その温かそうで湿度を帯びた深い緑色のジャングルに、12才の少年は魅せられたのだ。
見ていると何だか楽しくワクワクしてきて、自分もその絵の中に入って行きたい気がしたことを、覚えている。

興味を引かれた絵を見た時に、その絵と同化するような感覚が、時々ある。 「その絵の中に入って行きたい」。「その絵の中に自分は居る」。あるいは、「その絵の中にかつて居たような」等々。

ルソーのジャングルの中へ私は入って行きたかったのだ。そこに入って、そこの温度、湿度、匂い、木の葉を触った触感などを体感したかったのだ。

その絵の中にかつて私は居たような気がする。そんな絵がもう一つあった。 小学生の時に何処かで見たような記憶があるのだが、あまりにも昔のことなので、それが実際に見た絵なのか、頭の中に繰り返し表れるイメージなのか定かではない。

それは暗いトーンで、腰あたりまである植物(作物)が何列かあり、上部左手に小さな小屋が在る。その小屋は、作業道具などを入れておく小屋であろう。

そんなイメージが頭の何処かにあるらしく、何年かに一度浮かび上がるように出てくる。最初に見た時から、なんとなく懐かしい気がしていた。
まさに「その絵の中にかつて居たような」感覚なのだ。

10代には時々そのイメージは出て来たが、40才を過ぎた頃からは、その頻度は数年に一度に減っていた。
「此処は何処だろう?」。「懐かしい気持になるが、私か私の先祖が此処に居たことが在るのか?」・・・・・・。
以前からイメージが浮かぶたびに考えてきた。
しかしこの風景に思い当たる場所は無かった。

先日、テレビでブルゴーニュ特集をやっていたので、ボーッと見ていた。なだらかなコートドールのぶどう畑を見たとき、「アレッ」と思った。これはまさしくあのイメージ通りの風景ではないか。小さな小屋も在る。
アタフタしてしまった。 
これはどういうことだ? 先祖はフランス人なんて聞いたこともないし。私の顔はどう見てもアジア人そのものだ。私が将来、ブルゴーニュワイン好きになることを予知していたのか?

しかし冷静に考えると、ぶどう畑に似てはいるが、イメージの中の植物はもっと密度がありそうなので、むしろ茶畑に近い気がする。茶畑であっても、謎は謎のままだが。

ルソーは、一度もジャングルには行ったことはないという。それらの絵は、人の話や写真をもとに想像で描いたものだろう。それ故、リアルというよりは、夢の中のような印象を与える。

私の中にある風景も夢に出てきたものかもしれない。


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