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ワインコラム40:思いがけない人と思いがけない場所で

タイトルデザイン★Ryoko Sakata
写真★Masaru Yamamoto

人は時に、思いがけない人と思いがけない場所で会うことがある。
ブルゴーニュのボーヌで知人と会ったことがある。

その日、パリで昼食の後のんびりし過ぎて、ボーヌの駅に着いた時は予定していた時刻を1時間以上過ぎていた。
ホテルにチェックイン後、ボーヌの町に妻と散歩に出た。実は昼食がことのほか重かったので、歩いて少しでも消化したかったこともある。時刻は7時を過ぎていたと思う。城郭に囲まれたボーヌの町は薄暗く静かだった。

人通りの少ない道に入った時、向こうから3〜4人の人が歩いてきた。
近づくにつれて彼らの話している言葉が日本語らしく思えてきた。すれ違った時、弱い街灯の光のなかから1人の顔が視界に飛び込んできた。
「あれっ! この人は⋯⋯」
見知った人なのだが場所が場所だけに、知人にたどり着くのに時間がかかった。

5歩くらい歩いて、やっと思考の線が繋がり振り返った。
すると相手の人も立ち止まってこちらを見ていた。
「○〇さん?」と私が問うと、
「堀さん?」と返ってきた。
彼は付き合いのある酒屋さんだったのだ。レストランに向かっていたところ       らしい。互いに出会いに驚きつつも、挨拶を交わして分かれた。

高校生の時、松本城の天守閣で、中学の同級生に会ったこともある。

高校3年の時にクラスの友人と1週間をかけて、長野県を自転車で旅したことがあった。
クラスの友人と書いたが、それほど親しかったわけではない。彼が長野県を自転車で廻る旅を持ちかけてきたので、面白そうなので同行することにしたのだ。後から思うと何故私に持ちかけてきたのか謎だが、話の流れでそうなったのだろう。 

私の住んでいた北関東の町から長野の県境まで、直線で80キロほどあった。  その工程を初日で走り、峠を超えて佐久に入る予定だ。初日の峠越えが旅行中最も辛い経験だった。今はそんなことは無いと思うが、当時の山道は舗装されてなかった。街灯は疎らにしかなく、暗いなか石ころだらけの道を2人黙々と、自転車を押していたことを覚えている。

どうにか峠を越え佐久に入ったのは8時近かった。
その夜は幸運にも、お寺の宿坊に泊まることができた。この旅で畳の上で寝られたのは、この日と妻籠の民宿に泊まった時だけで、あとはキャンプ場であったり、川原でテントを張ったりの文字通りの草枕である。

この旅は後々何回か思い返すくらい印象深い旅だった。
幾つかのことが貴重な体験として、私のなかに鮮明に記憶されている。

梓川の川原でテントを半分開けて、横になったままで沢山の流れ星を飽きずに見ていたこと。畑のわきの小屋で雨宿りしていた時、快感にも似た自由を感じたこと。木曽の峠の下りで、後ろのブレーキワイヤーが切れたにもかかわらず、前のブレーキだけでどうにか降りきったこと等々。

そういえば、互いの不満が高じて1日別々に走ったこともあった。

それらの濃いエピソードの中に埋もれがちだが、思いがけない出会いもある。  
今から思うとまさに、サスペンスドラマのようなシチュエーションだった。

松本に寄った時せっかくなのでお城の中を見学することにした。
登りづらい階段を苦労して登りきった。天守閣なのでそんなに広い所ではない。人が居てもせいぜい4〜5人ほどだったろう。そのなかに中学時代の同級生が居たのだ。小説や映画なら「そんな馬鹿な!」と突っ込まれるような舞台設定ではないか。彼の存在と場所が結びつかず、「何故此処に?」と馬鹿な質問しか出てこなかった。

さして親しくも無かった旅の相棒とは、旅行後も特に親密になることも無く卒業してしまった。
その後も会うことは無かった。

今会えば、あの旅について私の忘れていたことを、思い出させてくれるかもしれない。
しかし無理に居所を探すことはしないだろうことも分かっている。私の感じたことだけで十分だ。

それでも思わぬ所で彼と出会ってみたいと思わないでもない。


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