これからのデジタル版ボードゲームの権利を考える
というMatthew Dunstan氏のTweetを見た。今更言うまでもないことではあるが、Matthew Dunstan氏は2013年にDoWのRelic Runners (2013)でデビューしたゲームデザイナーで、初期の作品としてはElysium (2015)やCosta Rica (2016)、最近の作品ではSpy Connection (2021)やMy Shelfie (2022), The Guild of Merchant Explorers (2022)あたりが有名だろうか。
それはさておき、ここからはじまる一連のスレッドが大変に興味深く、意義のあるトピックであると感じたので、以下に訳出する。翻訳紹介を快く承諾してくださったMatthew Dustan氏に感謝。ただし以下の意見は氏の個人的な意見であり、かつ議論の出発点とでも言うべきものである点については御留意いただきたい。今後さらに議論が深まることを期待している。また、翻訳は必ずしも原文に忠実ではないので(大意を捉えた上で読みやすくなるように、と思ってはいるがどこまでできているかは甚だ心許ない)、興味がある方は上記のTweetからご自身でスレッドを辿っていただきたい。
これも書くまでもないことではあるが、以下の文章で“ボードゲーム”としているものは広義のボードゲームであって、カードゲームやダイスゲームその他を含んでいる。
要約すると、「デジタル版の権利についてはこれまであまり問題になっていなかった」「BGAによるペイ・パー・プレイモデルの登場により、新たなビジネスモデルが生まれている」「これについて、パブリッシャーとデザイナーはもっとしっかり考えるべきではないか?」ということになるでしょうか。
一方でこれに対して、Alderac Entertainment Group (AGE)のCEOであるJohn Zinser氏は、
とした上で、「過去10年はボードゲームの黄金期だったが、今は9ヶ月前に比べても厳しい」「これが一時的なものなのか、反動なのか、ニュー・ノーマルなのか、私もわからない」と書いています。
実際にボードゲーム・バブルは20年前から言われながらも拡大路線が継続していたわけですが、コロナ禍をきっかけに、製造・輸送コストの増大、世界的な生活費の高騰、さらには対面でのゲーム機会の減少によるデジタル版への以降が逆風となっていることは否定できないでしょう。ユーザーのライフスタイルの変化もありますが、特に中小パブリッシャーにとっては厳しい状況が今後しばらくは続く中で、デジタル版ボードゲームにどう向き合うかは将来の課題というよりは今取り組むべきの問題なのかもしれません。
一方でイギリスの新興ゲームパブリッシャーDranda Gamesの設立者(の一人)、Simon Bilburn氏は、デジタル版のロイヤリティはローカライズ版のサブライセンス契約のロイヤリティと同様に扱うべきではないのか?(半々である合理性はないのではないか?)という指摘をしていて、これはこれで一定の理があるように思えます。現状海外ローカライズのサブライセンスについてはデザイナーのロイヤリティは20-50%程度のようで(先述のCardboard Edisonの調査を参照)、これもデジタル版を含めて整理する必要があるのでしょう。デジタル版(BGA版)を「デジタルプラットフォームへのローカライズ」と捉えるのはちょっと面白いと思うのですが、初期投資コストは同列に扱えないしそこまで単純化するべきではない気もしますが。
ここからは私個人の感想なのですが……
面白い。これってNetflix対DVDストア、というよりも、Spotify対CDショップ、だと思うんですよね。というかSpotifyとミュージシャンの関係性の問題に近いのではないでしょうか。日本でも最近話題になりつつありますが、Spotifyを始めとする音楽ストリーミングサービスがミュージシャンに十分に還元していない、という批判は昔からあって、プラットフォームとレコード会社の取り分の比率、レコード会社の取り分の中でミュージシャンに還元される比率、についてはいろいろと議論があります。また、ロイヤリティは「配信された回数(の比率)」によって決まる(そういう意味でペイ・パー・プレイという表現は正確ではない気はしますが)のですが、この計算方法も不透明ですし、配信回数自体がプラットフォーム側の采配で決まる(広告料を払うことでトップページやレコメンドに出る回数が上昇してその結果配信回数が増えるわけです)あたりの問題も取り沙汰されています。ボードゲームは音楽よりも市場規模がはるかに小さいのでどこまで比較可能なのかはわかりませんが、現状Spotifyを始めとする音楽配信サービスが、必ずしもクリエイターフレンドリーとは言えない(特にインディークリエイターにとって)というのは事実であって、こうした状況に陥らないように、デザイナー、パブリッシャー、ユーザーが皆で考えてより良いコミュニティを目指すべきではないかと思うわけです。
……と書きましたが、これは意図的なミスリードで、この問題にはもう一人のプレイヤーがいるわけです。そう、BGAというプラットフォーマーです。音楽業界との比較で言うならば、BGAとデザイナーの問題としてまずは考えるべきなのではないでしょうか。そして、現状こうしたオンラインボードゲームプラットフォームはBGAの独擅場であること、そしてこのプラットフォームがAsmodeeの傘下にあること、は無視できないポイントです。どれほどデザイナーとパブリッシャーがロイヤリティの分配を議論しても、そもそものロイヤリティを支払うBGA側が暴走したら止められないわけです。そしてBGAが恣意的な配分をしたらどうなるか?恣意的でないにせよ、例えばAsmodeeの関連会社の新作ばかりがトップページに並ぶような状況になったらどうなるか?これは悪意のある推測ではありますが、BGAの存在感が増せば増すほど、BGAがどうあるべきかユーザーが考える必要性も増すのではないでしょうか。音楽業界でさえ配信サービスは寡占状態(Spotifyが市場の3割強を占めている)なわけで、より小規模なボードゲーム業界においてBGAの対抗馬が登場する可能性は低いように思います(とかいってクラウドファンディングにおいて独占状態だったKickStarterの対抗馬が立て続けに2つも登場したわけですけど)。ユーザーによる監視、と言うと言葉が悪いですが、プラットフォーマー(=BGA)の動向についてユーザーも注視し考えていくべきではないかと思います。
それとは別に、例えばパブリッシャーとデザイナーの間の契約が解消した(実際のボードゲームが絶版になった)時にBGA版がどうなるのか、みたいなところも気になります。ユーザーとしては過去の絶版ゲームもBGAで遊べると嬉しいですが、契約上はなかなか難しそうです(パブリッシャーを介した契約をスムーズにデザイナーに移行できるといいですけど、その場合でもアートワークをそのまま使う訳にはいかないでしょうからまたいろいろと手間が……)。翻訳に関してもデジタル版向けにBGAが翻訳権を取得して、コミュニティベースでやっているのではないか、と思いますが、実際に誰がどのように貢献しているのか、気になるところです。参加されている方、是非教えてください。この辺りも、日本語版が出ているゲームであればローカライザーと協力できるといいと思うんですけどね(逆に協力できないと翻訳権絡みで色々気になってしまう……)。
と言いながら、実は私はBGAを使ったことがないので、これを機に参加してみようかな、と思っています。今ちょっと忙しいので少し先になりそうではありますが、年内BGAデビューを目指したいところ。折角の変革期なのだから、体験してみたいですしね。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?