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小説「実在人間、架空人間」第十七話

『では実在人間、架空人間のルールを説明致します』

 そう言って軽く咳払いをした。

『七人の実在人間と二人の架空人間が存在します、その二人の架空人間は君達の中の二人からランダムに選ばれて、私達二人が憑依します。その二人を二時間以内に見つけて、テーブルの上に置いてある銃でその二人を殺してください』

 そこまで話すと少しの間が空いた。

『えー、その銃ですが、弾は一発しか込められていませんが、銃を自身の首より上、鼻先まで持っていき、手持ちの銃に対して名前をフルネームで70デシベル以上の音量で発声してから、両手で銃を持って撃てば必ずその名前を呼ばれた者の額に命中するようになっています、距離は関係ありません、要するにあれですね、そうやって撃てば即死します』

 そういう事か、と妙に納得してしまった。

 置いてあるデジタル時計があった理由も、時刻が00:00のままだったのも、椅子の数もぴったり合う。もはや常識といった概念が欠如しているこの世界での私の体験が、この意味不明なゲームがこれから行われていくのだろうと理解できた。

 よくあるフィクションの話のようなもの、この日常にあった創作物のコンテンツから抜き出されたようなこの説明は、ある意味では解り易かった。かといってやはり、実際に言われてみるとふわふわとしていて非現実、漫画やアニメのように叫んだり驚いてみせたりが出来ない、ただただ聞き入るだけだ。

『憑依された架空人間二人を無事殺すことができれば、君達の勝利、無事にこの世界から君達の世界へ脱出できます、敗北の条件は、架空人間が一人でも生き残っていて二時間が経過すれば、そちらの負けとなります』

「ちょ、ちょっと待ってや、憑依された二人はどうなるんや?」

『ご安心を、憑依された二人はこのゲームから弾かれます、ゲームが始まる頃には君達の世界に戻っている事でしょう、ルールブックにも書いてあります』

 さらにフェクテイシャスは続けた。

『では続けます、実在人間七人の内、一人に対してある能力を付与します、その能力は一度だけ一人に対して憑依されているか調べる事ができます。その際にも70デシベルでその判別したい相手のフルネームを発してから、判別お願いします、と発言して下さい。判別お願いします、という発声は声の大きさに左右されません、ここまでは宜しいですか?』

 皆は何も言えない、しばらく沈黙が流れた。

『…宜しいという事で、ではこちら側の能力について説明致します。架空人間は誰か一人を乗っ取る事ができます、これは架空人間側二人が持っている能力で、一人一回ずつ持っている能力となり、実在人間を乗っ取って消費されます。乗っ取っている間は架空人間側がその場で停止します、つまりはまったくもって動けなくなります。固まると言えば解り易いでしょうか、その場で気絶ではなく言葉通り固まります、見た目は不自然となるでしょう』

 ということは、架空人間側の心理からすれば目の前で乗っ取るなら少しの時間だけか。

『ただし、架空人間側は乗っ取った状態でないと銃を使えません』

 BGMがフェードアウトしていく。

『そろそろ開始時間が迫っていますので、ルールの説明は以上となります、ここからは質問は一切受け付けません、詳しいルールはルールブックをご確認下さい』

 それを聞いて人特有の割り切れない要素が入った事に後悔した、もっと質問をしていれば答えてくれただろう。実際フェクテイシャスは質問には必ず反応していたし、必ず回答していた。しかし、これは現実と大差無い要素とも捉えられ、かといって、もはやこの世界におけるものが分からないのだから戸惑いが生まれ、私を含め、皆もただただ聞く事しかできなかったのだ。

 ある意味では目立った行動も危うい、全員がある意味では敵であるこれから始まるこのゲーム性においてその敵を増やす行為、つまり敵に回る可能性もある。かといってこれ以上知れない要素は損でもある、どちらが正解だったのかは、これから明確になっていくだろう。

『それでは実在人間、架空人間、スタートです』

 BGMが完全に消え、木々のざわめきが目立った。その風によって木々が揺れる音を聞き入れるようにして皆は沈黙、一人として微動だにしない。抜け殻のような、無気力のような、一言でも発してしまえば死んでしまうのではないかといった、そういった妙な空気感がこの場を支配しているようだった。

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