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小説「実在人間、架空人間」第二十一話

 全員が椅子に腰掛け、まずはルールブックを確認していこうと私が提案した。

 理由として一番知りたいことは架空側は我々人間側と同条件かを知るべきだと判断したから、この同条件というのはこのゲーム上における公平さがあるかどうか、仮に架空側が優れているなら人間側が知らない『何か』を把握してしまえるという意味に直結する。

 そうであってもそうでなくても、どちらにせよその基本となる部分を一旦整理した方が良いと考えた為だ。

 0、ゲーム全体の説明

『人間側と架空側に別れ、実在側二名に架空側が憑依し、二時間の時間制限の元スタートする、この時憑依された二名はこの世界から省かれ、元居た世界に戻される』

 1、勝利条件

『実在側からランダムに選ばれた二人に憑依した架空側二名をこの世界の銃で撃ち、弾を命中させる』

 2、敗北条件

『架空側全てをこの世界の銃で撃てずに二時間が1秒単位で過ぎればゲームオーバー、この時0.00秒までが最小値となっている』

 3、この世界の銃

『一丁の銃に対して弾は一発、発動条件を満たさなければ撃つことができない、発動条件は以下の通り』

 (1)『鼻先を銃に合わせた状態を保つ事、この時、銃の持ち手の底を自身のかかと裏の骨に対して直線上角度50°までの水平に保ち、銃という物体の後方にある引き金の根元から直線上角度5°以内、直線上110.25cm以内に鼻先を持ってくる事』

 (2)『両手のどの部分でも良いので必ず両手で銃を触れている状態を保つ事』

 (3)『70デシベル以上で対象者の名前をフルネームで発声する事、これは銃の引き金の根元から測定された数値に起因する』

 (4)『(1)と(2)の全ての条件を満たした状態で(3)達成から1秒以内にトリガーを引く事』

 (5)『弾が放たれれば対象者の額に必ず命中し、弾は炸裂弾となり対象者の前頭葉、あるいは前頭前野付近で炸裂して脳全体の約7割を破壊する』

 ただし架空側は乗っ取った状態でしかこの世界の銃を撃つことが出来ない、この時、実在側と同条件で撃つ事ができる、乗っ取りに関しては下記にある項目6から『架空側の能力付与』を参照。

 4、ゲームの初期設定の値

 (1)『架空側は実在側が把握している以上のことは知れない状態でスタートする』

 (2)『架空側は実在側上位二名の知能と同等とし、実在側の知能指数はゲーム内で数値化し、0.00が最小値、100を最高値とし、その実在側の平均値に対して3で割った数値を架空側二名に平等に割り振った状態とする、余り1が出た場合は小数点以下を切り捨て、一番知能の高い架空側に振り分けられる』

 5、実在側の能力付加

『実在側からランダムに選ばれた一名に対し、能力を0.01秒を最低値としてスタート直後に付与され、一名を一度だけ識別でき、架空側かどうかを調べることができる、以下の条件から発動する』

 (1)『識別したい対象をフルネームで70デシベル以上で発声する、この時、唇の皮周辺から測定される』

 (2)『(1)の条件を満たした上で「識別お願いします」と発声する、デシベルの値は最低値0.01デシベルから(2)の条件を満たす』

 6、架空側の能力付与

『架空側両名共に一度だけ乗っ取る事ができ、実在側を乗っ取る事で消費され、同時に乗っ取る事はできない、乗っ取っている間はその場で元の架空側の者は身体の全てが発動時のまま固定され、その場で停止する、なお発動時の固定が始まる最低値は0.01秒』

 7、架空側が乗っ取っている間の状態

『乗っ取っている間でも元の架空側がこの世界の銃で撃たれれば、架空側は消失し、乗っ取りも解除される、解除時の開放が始まる最低値は0.01秒。乗っ取っている間は実在側の記憶と架空側の記憶は統合されず、実在側の思考は架空側には一切知られることは無く架空側が乗っ取った相手の支配権を得る』

 8、架空側の状態

『架空側が何らかの理由で身体が消失、あるいは脳が消失、あるいはその両方が消失する事があっても、架空側の敗北にならない。その場合、その消失した架空側に対してこの世界の銃で撃たなければ架空側は消費されない』

 以上が『実在人間、架空人間』のルールであり、この世界では1~8のルールを破ることはできなようになっている。

 ルールブックを開いて全て読んでいったが、どうやら架空側も実在側とゲームそのものの把握は同条件だと解った。そして、先崎の銃は架空側に対してはまったくの無力であり、この世界の銃で撃たなければ勝ちは獲得できないことも判明した。

 架空側が比較的有利とも取れ、実在側の勝利は厳しいものだと感じた。

 知能指数が架空側が上である以上、こちらは劣勢な状態で戦わなければならない、よってチームプレイという不確定要素から閃きの要素が重視されることになると考えた。この場合、自身の味方である実在側の把握も架空側の知能の高さによって把握しずらく、そこで自然と差が出るとみていいだろう。

 消費された時間は20分、タイマーは1時間39分50秒を示している。

 劣勢だと把握したのちに、時間だけが消費されている。

 そう考えてからその不安を誤魔化ごまかす為に二呼吸ゆっくりと吸っては吐き、次に深呼吸をした。息を吸って肺が持ち上がる感覚と脳が圧縮さていく感覚、息を吐いて正位置に戻される感覚とその吐いた息はこの世界を漂っているという意識、それらが私はここにいるんだとこの世界を肯定させ、と同時に命を感じさせる。

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