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小説「実在人間、架空人間 fictitious編」第八話

 よし、考えはまとまったから、あとはこの奇策、これをもって僕らの勝利を目指そう、まずは皆に問いかけるところからスタート。

 そう考えて僕は取ったメモを閉じ、本を地面に置いてその場で座ったまま皆に話しかけた。

「俺、色々考えてみたんだけどさ、これって銃を撃てるなら実在側なんだよね、だって乗り移らないと架空側は撃てないんでしょ?」

 ここでのポイントはこのルールを僕が少し理解しているとこ、これがもうひとりの架空人間へのアピールになる。

「俺死にたくないよ、ハクだって殺されると思ったから撃ったんだよ、だからハクは実在側じゃん、ハクは味方なのにさ、何かハクが悪いことしちゃったみたいになってるの変だと思うんだ。松葉さんはそう思ってるからハクを励ましてくれてるんじゃん、でも皆は無視、人としておかしいと思う、言わなくても雰囲気でわかるよ、ハクを邪魔者みたいに感じてるんでしょ」

「いや違うな、ガク、お前は甘い」

 先崎が話をさえぎる。

「ハクは撃ったんだ、それが事実、これがこの世界でなくてもやってはいけない事だと理解できるだろ、通常なら殺人という罪、この世界だから肯定されているだけだ、そんな非道なやつを誰も肯定しない、人としてというならハクの取った行動は人として最も愚かしい行為だ」

「はあ?何言ってんの、ハクは殺されそうだったから撃ったんだよ?ハクは何も悪くない、正当防衛だよ!」

「まあそうかもしれないが、お前はハクに寄り過ぎだ、ハクが取った行動の事実は変わることがない、お前はお前の都合で考えているだけだ」

 そこに有本が続く。

「私も先崎さんに同意します、私達はここに入れられた理由はわからないけど、ここにいる人達のことを私はあまり知りません。皆さんだってそうでしょう、自分が殺されるかもしれない状況でどうしたってそんな人は脅威になります」

「うるさいな、お前そんなこと言うなら架空側でしょ、先崎さんだっておかしいよ!」

 終始おとなしくしていた下地が僕に賛同するように話始めた。

「ぼ、僕もガクさんの言う通りだと、お、思います、こんなゲームが悪いんだと思います、人を人として扱えないからハクさんが悪いんじゃなくて、このゲームが悪いと、思います」

 へー、下地はそういう考えなんだ。

「もうさ、俺、早く帰りたいよ、俺は死にたくない、だから撃って自分が実在側だと証明したい、こんな世界あんまりだよ、悪く無いハクは悪者にされちゃうし、人が死ぬんだよ?」

 感情の高ぶりなのか、自然と目が涙で湿ってくる。

 恐らくこれは本心なんだろうね、僕という島津学という存在が持っている感情、だからこそここでも自然にそう思ってる・・・・から目に涙が溢れる。

 そしてこれはあらゆる感情が入ってる、ただ、今僕が発言したことをそのままそう思ってるだけじゃなくて、それは島津学という存在が感じている不安、恐怖心、そこに人へのこうあるべきだという希望のようなもの、更には虚実も入り混じってる、だってそれが本心なら僕自身が撃ちたいと思う訳ない、殺して自分だけでも助かりたいという虚実が入ってる。

 その感情の高ぶりから涙してるんだ。

 そうしてもうひとりの僕、フィクテイシャスの思惑がぶつかってる、僕と認識しているフィクテイシャス、それはこの島津学を幼いとしている思考、そうして島津学は俺という主観を持ってる。

「俺は先崎さんと有本さんが架空だと思う、人じゃないじゃん、悪くもない人に対してそんなこと普通言えないよ!」

 周りの目から冷ややかな感じが伝わってくる、そりゃそうだよ、僕が実在側であると証明をしたいから誰でもいいから殺したいと言ってるんだから。でもこれはガクの本心でもある、つまりは僕という存在そのものの考えでもあるんだ。

「先崎さんと有本さんはさ、ハクは人間だと思う?」

「俺は実在側だと思ってる、そもそもが架空側は乗っ取らないと銃は撃てない、このことからあの瞬間だけ乗っ取ったとするとその後のハクの態度からしてもおかしい」

「私はまだはっきりしないと思います、例えばハクさんは架空側でもうひとりの架空人間がハクさんをあとから乗っ取ったかもしれないから、初めから全て演技だとしたらハクさんの容疑は消えないと思います」

 あ、こいつ有本ここまで気づいてたか、まずいな……。皆にこのルールの穴を気づかせちゃいけない、架空側を乗っ取った場合に乗っ取りは消費されないってことを。

 でも、ひょっとしてこいつ有本、もうそのことも気づいてる?

「何それ、じゃあハクは架空人間だって言いたいの?」

 いざとなったらこいつをまず殺さなきゃ、次殺すならこいつだな。

「違います、あくまでも可能性の話で安易に判断すべきじゃないと言っただけです」

「はあ?意味わかんない、どうみたってハクはハクだよ、双子の俺だからわかるんだ」

「それは私情だと思います、このゲームはスタート直後から初めに完全に憑依してその人になりきれることができる訳ですから、その記憶も行動も全てにおいて引き継がれて自然に振る舞うことぐらい出来るでしょう」

「違う、ハクはそんなやつじゃない!」

 やばいよこいつ、すげー知能高い、こいつが生きてる状況で次の段階に入ったらこちらの策を封じ込みにかかるかもしれない。印象で人を判断しないこいつの冷静さは今のこの僕の奇策が愚策で終わってしまう可能性がある。

「……ですからそれが私情というものです、ガクさんは一度冷静になった方が良いです」

「うるさいな!」

 僕は銃を取る。その場で立ち上がって有本に一歩二歩と歩み寄った。

「あんまりしつこいと撃つよ」

 そう言って僕は有本に銃を向けた。有本はそれにまったく動じる様子も無かった。

「私が悪かったわ、ハクさんは実在側ですよね、疑って失礼しました」

 うわ、まじでやばい、即座に切り返してきた。

 ここは一旦引いて作戦を練り直そう、大丈夫、僕にはあの策・・・がある。36計逃げるが勝ち、今はその体制を整えるのが先決だね、今回はこれで十分愚者をアピール出来たし、これ以上この議論の場ここにいたらこいつに殺される、こいつはかなりやばい。

 今はこれで良しとしよう。

「何だよ……」

 僕はそう捨て台詞を吐いて後ずさりするようにして元居た木の下に着座した。

 今回の僕の愚言や愚行で実在側への印象を根付けたようにみせて、実際のところは架空側への印象を持たせた。何故ならここで僕が撃ってくれればあとはゆっくりと架空側を探して連携を取ればいいだけだから。

 時間切れで僕らが勝つルールだからこそそれが可能となってる、例え架空側をその後に見つける事が出来なくても、その成功体験は架空側にとって大きな要素になるし、実在側にとっては大差をつけられた印象として残る。

 そのビハインドはこちら側にとって優位に働き、その結果実在側は運に頼らざるをえなくなる。そうなればいよいよ時間が迫ってきたとなったときに先崎の銃と乗っ取りを駆使すれば僕らに負けは無い。

 次はまだこいつらに見せていないこの策・・・を、有本が関与しづらい状況にどう持っていくかにかかってる。

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