復讐
※注意:犬に対してちょっとひどいショートショートです。可哀想な目にあったりはしませんが、人によっては不快になるかも。
今日くらい、いいや。
私の犬じゃないから、いいや。
犬がマンションの植え込みにフンをした。何か言いたげな瞳がこちらを見上げてきたが、無視してリードを引っ張る。
あれはちょうど三週間前のこと。残業を終えて家に帰ると、彼氏との愛の巣から金目のものがごっそり消えていた。
50万のタンス預金、就職祝いにおばあちゃんがくれた真珠のネックレス、他にもゲーム機やら食洗器やら、とにかく色々消えていた。がらんとした暗い部屋の中、この犬、以前彼氏が外から拾ってきたこいつだけが、ぴすぴす鼻息を立てながらお座りしていた。
強盗でも入ったのだろうか、彼氏は人質にされたのだろうかと半狂乱で警察に電話したが、その5日後に私の友人と腕を組んで歩いてる彼氏を街で見かけ、ようやく自分が捨てられたことに気づいたのだった。
私から何もかも奪って行ったのに、この犬だけを残されても困る。散歩も餌やりも彼氏だったから、どう世話していいかわからない。かといって動物を捨てるのも犯罪にあたりそうだし、しょうがなく育てている。とりあえずいいドッグフードを与えているし、毎日散歩に連れてってるし、一昨日なんかトリマーにも連れて行った。こんなに頑張っているんだから、フンを放置するくらい許してほしい。
同棲用に借りた2LDKに帰りつき、ただいま、と口に出してみる。犬がワンと鳴いた。物のない広い部屋は恐ろしいほど声が響き、孤独が骨身に染みてきて自然と涙が溢れてくる。相手の居場所は分かっているけど、お金を返してと詰め寄ってしまえば今度こそ本当に関係が切れてしまうようで怖かった。そのまま玄関にへたり込み、声を上げて泣き出したときだった。
ピンポン。
部屋のインターホンが鳴った。
こんな時間に家に来るのは彼しかいない。やっと戻ってきてくれた。あなたには私しかいないって、ようやくわかってくれた。
ぐちゃぐちゃの顔のまま、半狂乱でドアを開ける。そこには上下グレーのスウェットを着た女が仁王立ちで立っていた。
「どなたでしょうか」
初めて見る女だ。驚きと落胆にくじけそうになったが、私は何とか声を絞り出した。女は眉を吊り上げると、キンキンした声でまくしたてた。
「あんたがその犬に毎日ウンコさせてるマンションの住人!今日は文句を言いに来たの」
「どうやって家がわかったんですか」
「ごみ捨てに行ったら、目の前でちょうどあんたがウンコさせてんのを見たのよ。最近毎日同じとこにあるから、絶対は犯人コイツらだってぴんと来てね。そのまま家までつけさせてもらったわ」
「それって犯罪じゃないですか」
「ウンコ放置する方が悪いでしょ」
まっとうな指摘にぐうの音も出ない。私だってフンを放置するのが褒められた行為ではないと分かっているけど、辛いものは辛いからしょうがない。この犬を山に捨てに行かないだけで偉いのに、その上フンの処理まで求めないでほしい。辛い事情も知らずに責め立ててくる女に腹が立ってきて、悔しくて、また涙が止まらなくなる。心配したのか犬が私の足にすり寄ってくる。事の元凶のくせに、うざったい。
「泣かないでよ。私が悪者みたいじゃない」
「私にも事情があるんです。今は辛すぎて、フンを拾ったりできないんです。ご迷惑をおかけします」
「他人の玄関先にウンコ放置しても許される事情なんてある?言ってみなさいよ」
「じつはかくかくしかじかで…」
女は勝手に犬を抱き上げて、背中を撫でながら仁王立ちのまま私の話を聞いていた。私はできるだけ哀れっぽく、悲惨に、なんなら金額を少し盛って痛切に訴えた。どんな冷血人間だって私を哀れむだろうと自信を持って言えるほど。すべてを聞き終わった女は静かにうなずいた。
「気の毒だけど、それは私に関係ないから」
「あなたには人の心がないんですか?どうして皆私にイジワルするんですか。何も悪いことやっていないし、頑張って生きてるのに、神様はどうして」
「ウンコ放置するのは悪いことでしょ。とにかく、明日以降も放置したら警察に通報してやるからね」
女はかがんで犬を床に置き、頬を掴んで撫でさすった。犬は気持ちよさそうにクンクンと鳴き尻尾を振った。お前も別の女に行くのか。
「どうせなら彼氏に迷惑かければいいじゃん」
犬から目線を外さず、女が呟いた。
「彼氏の家を突き止めてさ、そいつの玄関先にウンコしてやりなよ。隣人にはまあ気の毒だけど、こっちの知ったことではないし」
「そんなことできません」
「じゃああんたはこのまま他人の家にウンコを置きっぱなしにしていくわけ?そのうちの誰かは私よりやばくて、家についてくるだけじゃ済まないかもよ?」
私の後をつけて家にまで突撃してきた女の言葉はさすがに説得力があった。
「これ以上不幸になりたくないんだったら、復讐する相手を間違えないで」
無駄にかっこいいセリフを残して女は去っていった。スウェットのお尻の部分に、卵のパックを開けるときにでる細長いゴミが引っ付いていた。
「私はどうすべき?」
犬に話しかけると、心なしか困ったような瞳でこちらを見つめてきた。私は彼氏に復讐すべき?
「お前、拾ってくれた恩人の家の前にウンコできる?」
犬はクンクンと鳴き、私の手のひらを舐めた。肯定と受け取ってもいいのだろうか。それにしても復讐の相棒の名前が犬ってのも味気ない。復讐、リベンジ、ヴェンデッタ…
「今日からお前の名前はデッちゃん。いいね?」
ワン、と犬が元気に返事をした。
ここのところ忙しく、全然パソコンに向かえませんでした…
最近なんか花粉やばくないですか。目も腫れるし肌も荒れるし、ついでに歯のセラミックは欠けるし、推しのライブは落選するし。
くたくたで満身創痍で、家ではとてもやる気が出ないので、今日は退勤後パソコンを持ってマックにダッシュしました。
マックカフェでアイスオレンジフレーバーラテのLサイズを頼んだら想像以上にでかかった。セラミック欠けのため、片方の歯でばかり噛んでいたせいで顎関節症が悪化し、痛みでものがうまく噛めずカロリーが欠乏していた体にたっぷりのホイップクリームが一気にしみ込んで、喜びで涙がこぼれました。今週末の歯医者が待ち遠しい。
てかこれは微妙に実話混ぜてて、最近うちのマンション近くにある川の看板の下にいっつもウンコ放置するやつがいるんですよ。私は夜にそこをランニングすることが多いんですが、暗い中だとウンコを踏む危険性があってめっちゃ迷惑してたんです。そんでこの前気を付けながら走ってたら、可愛いシーズーを連れた綺麗目なOLさんがまさに看板の下でウンコさせてる瞬間に出くわしまして、見た目からそんな常識ないタイプとはとても思えない女性だったからびっくりしました。
もちろん面と向かって注意なんてできるはずもなく、きまずい気持ちで駆け抜けました。私のアンダーアーマーのシューズが泣いてました。
(久しぶりだからとりとめのない自分語りをたくさん書きました。今日だけで何回ウンコって言ったかな)
それでは皆様、また今度~~