見出し画像

なぜ、あの人はミスを繰り返すのか?

なぜ人はミスをしてしまうのか?

しかも、同じようなミスを繰り返してしまう。ミスをしたくてしているわけじゃないのに……。

僕は8年間、大学病院で医者をしていました。医療の世界は「ミス」に対してシビアではあるのですが、それでも、ミスを繰り返してしまう医師というのは一定数いるんですよね。

そしてミスをする人が、必ずしも「手先が不器用」なわけではないんです。逆に、手術のうまい医師が特別に器用なわけでもありません。

ミスをする「理由」は別のところにあるのです。

ミスをするかどうかは「振り返り」で決まる

ミスをする人はいつも同じミスをするし、逆にミスをしない人は、ほとんどしない。医療の世界に限らず、これはどの世界でもいえることだと思います。

では、両者の違いはなんなのか?

根本的には「振り返り」をどれだけしているかだと考えています。

ミスを繰り返す人って、仕事が「やりっぱなし」になっていることが多いです。つまり「振り返り」をしていない。

僕は「循環器内科」を専門にしていました。主にやっていたのは「カテーテル治療」。心臓に管を通して患者さんの疾患を治す治療です。

先輩からカテーテルの技術を学ぶなかで気づいたのは、ミスをしない人ほど「振り返り」にかけている時間が長いということです。一度の手術を終えたら、振り返ってプロセスを改善する。そして次の手術の前に「今回は、どういう手順で仕事を進めるのがいいか?」というシナリオを頭に描くーー。

ミスが多い人に限って、やたらとカテ自体は大好きだったりします。人の症例をバッと奪って、たくさんカテをやっていたりするのですが、そのあと振り返らない。「カテをやること」ばかりに目がいってしまっているんです。

そういう人は同じ失敗を繰り返してしまうし、施術時間も長い。何年やっていても下手なままなんです。

「うまくいったとき」こそ振り返れ

「振り返り」をするうえで、重要なポイントがいくつかあります。

まずは、作業の「スタート」から「ゴール」までの道のりを、あらためて俯瞰してみることです。個々のプロセスに捉われすぎず、全体像をちゃんと頭にイメージできるようになるまで振り返る。そのうえで「どのルートで進むのがベストか?」を自分なりに考えます。そしてまた次の実践をする。

オペやカテでいえば、患者さんの検査結果をパッと見ただけで、瞬時に「どうやってオペを進めていけばいいか?」というストーリーが浮かぶようになるのが理想です。

もうひとつは「成功したとき」こそ、この振り返りを徹底すること。そして、そのプロセスをできるだけ「言語化」することです。

仕事で失敗したときは、みんな反省して「振り返り」をちゃんとやります。ただ「成功したとき」って、意外とほったらかしにしがちなんです。

カテをやっていると「理由はわからないけど、たまたま大成功した」みたいなことがあるんです。そのときに「よかったー」で終わりにしちゃう人と「なぜうまくいったんだろう?」と徹底的に考える人がいます。仕事のクオリティが高いのは、圧倒的に後者です。

たしかに成功体験にはアート的な要素も多いので、それをそのまま再現しようとしても難しい。

ただ、よくよくそのプロセスを振り返って、深く考えてみると、その裏には成功した「根拠」が眠っていることがある。そこをキャッチして、人に説明できるレベルまで解像度高く「言語化」する。そしてそれを「型」にするのが重要です。

この「型」の引き出しをどれだけ増やして整理整頓できるかが、ミスを減らすうえでの肝だと考えています。

仕事のクオリティは「環境づくり」が9割

では「振り返り」をしたうえで、ミスを防ぐには何に気をつければいいのか? ここからはより具体的に、注意すべきポイントを見ていきます。

ミスを繰り返す原因の1つは「環境づくり」にあると考えています。

やはりミスが多い人は、治療を始める前に、まわりの「環境」が整っていないんです。道具の置き場所が決まっていない、手術台のまわりが整理整頓できていない、自分の立ち位置や、患者さんの腕のセットの仕方が定まっていない……といったこと。ひどい人だと、術中にみんなが手を出すところにハサミを置いてしまったりする。

当然ですが、それではパフォーマンスは上がりません。

ミスをしない人に共通するのは、こうした環境づくりがすごく上手なことです。「何をどこに置くか」「自分がどこに立つか」といったルーティーンが、自分の中で明確に決まっています。もちろん、手術台のまわりも整理整頓されている。

ヘタな人ほど「いかにカテをうまくやるか」に頭がいってしまいがちです。環境づくりを「プラスα」だと思っている。これはビジネスでも同じだと思います。「多少机のまわりが散らかっていても、仕事ができてりゃ大丈夫でしょ」みたいな。でもそれではダメなんです。

自分のパフォースを最大化できる環境、土壌が作れていると成功率は格段に上がりますし、スピードも早くなります。

そしてなぜそれができるかというと、やっぱり毎回カテのたびに「振り返り」をしているからです。振り返って改善するなかで、自分にとってベストな環境づくりを身につけていく。

ミスなく仕事ができる人は「道具の置き場所」1つとっても、その裏にはすさまじい量の思考の累積があるんです。

いわば、仕事に入る前の「準備」の段階で、仕事の結果は9割がた決まっていると言ってもいいかもしれません。

オペレーションは「引き算」せよ

「ミスを防ごう」と考えたとき、やりがちなのは工程を「足し算」してしまうことです。ダブルチェックを取り入れたり、ルールをどんどん増やしたり……。

でもそれはあまり意味がないと思うんです。

大事なのは、むしろオペレーションを「引き算」していくこと。

というのも「足し算」して余計な工程が増えていくと、そのぶんミスをする確率も高くなるからです。ミスをする人の多くは、行き当たりばったりで手数が多い。

「どこを目指しているのか」のゴールが明確になっていなくて、場当たり的に「必要かも」と思ったことをやってしまう。僕も慣れていないときはそうでした。

そうではなく、まずは「ゴール」までのプロセスを明確にして、そこに至るまでの「最短ルート」を考える。そして「要らない工程」を省いていく。そうやって手数を最小限にしていくと、ミスする確率も下がりますし、仕事のスピードも上がるはずです。

とくに医療業界では、正確さはもちろん、仕事のスピードも重要なんです。オペやカテの時間が長くなるほど、患者さんの体への負担が大きくなり、合併症のリスクも高まります。

僕も医者時代には、いかにオペレーションを「引き算」するか。そのことについてはものすごく考えましたし、それが早く、正確に仕事を進めることにつながったなと感じています。

チャンスを得られるのはどんな人?

医療の世界では、部下に仕事を「任せる」ハードルは高いです。

他の仕事だと、任せてみてダメでも上司が引き取ることができる。でも医療だとそうもいきません。あたりまえですが、患者さんの命にかかわることなので、任せてみて「失敗しちゃいました」では済まされません。

そのためミスをしがちな人にはチャンスが回ってこなくなりますし、そもそもミスを「しそう」な人にも、チャンスを与えづらい。 

そして「任せられるかどうか」の判断は、日ごろの細かい業務の中でするしかないわけです。

ではチャンスを得るためには、何が必要なのか?

雑用をはやく、正確に打ち返す

勤務医時代に気づいたのは、チャンスを得られる人に共通するのは「雑用」をこなすのがうまい、ということです。

たとえば本当に初歩の初歩でやるような、議事録をとったり、プレゼンで使う資料を作ったり、といった事務仕事。上司から「これやっといて」と言われたときに、パッと早く正確に打ち返す。これができる人には、自然とチャンスが回ってくる傾向がありました。

いまは経営者として、仕事を「任せる」立場になったからわかるのですが、細かい仕事のクオリティが高い人には「大きな仕事を任せても大丈夫だな」と思えるんです。大きなプロジェクトーーたとえば医療の世界でいえば、大事なカテーテルの治療などーーを任せても、きっといい仕事をしてくれるだろう、と予測できる。

逆に、数分単位で終わるような小さい仕事で「今日コレやっときます」と言ってやらない人がいますよね。そういう人には大きな仕事は任せづらいんです。

手術は「準備」がいちばん難しい

たとえば医療業界でいうと、オペやカテをやる前には、膨大な準備が必要なんです。

そしてそれは、ほとんど雑用に近いオペレーションの連続です。

たとえば手術の日程調整。「この日は麻酔科の先生の日程が空いているか?」といった、メンバーのスケジュールを確認します。「誰をどこのポジションに入れるか」をパズルのように調整しなきゃいけません。

また手術をする前には、患者さんに3泊4日くらいの「検査入院」をしてもらう必要もあります。そのときの入院のスケジュール調整や、手術前にやる検査のオペレーションも整える必要があります。

手術前には「術前評価」といって、10個くらいの検査が必要なんです。その検査から術中のリスクを算出する。そこで「あっ、この人にこの手術をしたら、体がもたなそうだからやめよう」といった判断をすることもあります。そうした検査結果をちゃんと整理しておく必要があります。

そして治療が終わってから、退院するまでの患者さんのフォローも重要です。そうした諸々のプロセスを含めて、はじめてオペやカテができるんです。

オペやカテをみんなやりたがるのですが、こうした「準備」「アフターケア」が実はいちばん重要だし、大変なポイントなんです。いわば料理でいうところの「仕込み」みたいな感じだと思います。華々しい仕事ではないけど、それがないと美味しい料理は作れない。

そして、そこを率先して確実にこなせる人には、自然とチャンスが回ってくるようになります。「お前はこの患者の下準備を全部やったから、執刀までやってみろ」みたいに、オペやカテを任せてもらえる。もしくは、重要な論文のテーマを与えてもらえたりするんです。

「クソ仕事」をどれだけ丁寧にできるか

「キャリアアップしたい!」「成果を上げたい!」と思う人が、陥りがちな罠があります。

それは、ついつい「大きな仕事をとりにいこう!」と、遠くのことばかりに目がいってしまうこと。

毎日、毎日、やらなきゃいけない仕事は膨大にふってくる。でも、その中で「自分のキャリア」に繋がるような重要な仕事は、ほんの一部でしかない。だから、だんだんと目の前の「小さな仕事」が雑になっていく……。

その気持ちはわかります。まさに、20代のころの僕がそうでした。

でも実は、いっけん「クソ仕事」に見えるような、足元の仕事にこそチャンスは眠っているんです。

僕自身、あるとき上司に指摘されてから、資料づくりや日程調整などの「小さい仕事」こそ、丁寧に、素早くやるようにしました。すると、結果的に良い論文のテーマをもらうことができたり、カテーテル治療の機会をもらうことができたんですよね。それが僕のキャリアにとって、大きな転機になりました。

大きなチャンスが回ってくる人は、センスがいいとか社内政治がうまいというのもあるかもしれませんが、決してそれだけではないんです。

細かい仕事だとしても、どれだけ立ち止まって、一つひとつを丁寧にやっているか。「ケアレスミス」と呼ばれるような小さなものも含めて、ミスをせずに仕事ができるかどうか。

それが上司やお客さんからの「信頼」に繋がって、結果的にチャンスを得られるようになる。意外と見過ごされがちですが、これがけっこう大事なポイントだと思うんです。


最後まで読んでくださり、ありがとうございます!Xでの発信にも力を入れ始めましたので、よろしければフォローしていただけると嬉しいです!