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高地トレーニングとレシピ

昨年、ドイツで行われたアディダスのロードレース後、イエゴン・ヴィンセント選手に「今回、集まった選手、なんかむっちゃ速いんですけど、力の差って感じるものですか?」と聞いたところ、「彼らはこのレースのために直前まで高地トレーニングで仕上げてピークをあわせてきているからね。ぼくは日本の大学生だから授業もあるし、そもそも(コロナで)日本から海外に出ていくことすらできなかったから。ピーキングの違いであって差はさほど感じないんですよ。」と答えてくれた。

3月に行われたTHE TEN。当初はバウワーマンTCからたくさんの選手がエントリーしていたけれども、実際には走ることはなかった。合宿地が大雪にみまわれて、レーススケジュールにあわせて高地から低地へと移動すると交通がストップしてしまうので、高地でのトレーニングを優先させることに。すでに帰国が決まっている日本人選手は当初よりも予定を早めて下山することになったのだと。

国内外いろんなレースに出かけてはいろんなトレーニングの話を聞くと、どこもやっていることはとてもオーソドックスなものだという。ただ、目的意識が高いから、練習の質が高い。当然、最初はついていけない選手が大半。すぐに結果が出ないことに耐えきれずに脱落する選手も多いが、ただ、それを何年も続けているうちに、それが当然となり、いつしか、その質の高い練習ができるようになってくる。みたいなことだ。

ただ、最近、なんとなくわかってきたのだけれども、練習は大差ないけれども、タイムや結果を狙おうと思ったときの高地トレーニングに、それぞれのコーチや選手の勘所みたいなものがありそうだという印象をもった。

その高地トレーニングなのだけど、筆者は陸上選手ではないが、その効果は計り知れないと断言できる。高地トレーニングは効く。マジで効く。いまにして思えば「あれが高地トレーニングだったのか」と思い当たる経験があるからだ。違ったら申し訳ないけれども「高地トレーニングの効果」について書いてみたい。

大学生のころ、バックパッカーだった私は長期休みのたびに、中国を旅するという生活をしていた。中国の田舎のほうに行くと宿も1泊100円程度だったし、ビールも大瓶2-30円くらいだったりして、日本で暮らすよりも安上がりだったからだ。

大学3年のころから、雲南省の大理という街が気にいって、休みのたびに1〜2ヶ月はその街に住み、世界中から集まったバックパッカーたちと朝は人民解放軍退役老人会とバレーボール。昼寝をして、夕方から地元師範学校チームとサッカー、夜は宴会。という健康的なのか怠惰なのかよくわからない日々を過ごしていた。ちなみに大理の標高は1900メートル。サッカーグランドはさらに山奥にあったから、2000mくらいか。なにせ、宿の背後にあった裏山が標高5596mある玉龍雪山という名峰であった。アルバカーキが標高1600m。フラッグスタッフが2100mだ。現地の人に「ハイキングに行こう」と誘われて山を登ると頂上からチベットが見えた。そんな環境で毎日、バレーとサッカー、宴会というルーティン。さすがに最初の1週間は二日酔いも相まって走るとゲーゲー吐くほどに苦しいのだが、そのうち地元の大学生とも走り負けないくらいに高地に順応した。

そういうシーズンを3回ほど繰り返した大学4年の春。帰国のために雲南省省都昆明から香港へ飛んだ。ちなみに昆明も標高1900mくらいある。香港について驚いた。なんと、海抜ゼロの香港の空気が重すぎるのだ。頭がズドーンと重くなって、身体が重くて重くてしょうがない。その日はゲストハウスの2段ベットの上でうんうん苦しみながら寝た。

そして、ここ香港でも世界中から集まったバックパッカーたちとサッカーチームを結成して、地元の草サッカーチームと対戦することになった。暑い香港でのサッカー。不摂生なバックパッカーたちが次々と倒れていくなか、なぜか、自分ひとりだけ延々とボールを追いかけ続けることができるのだ。ここが大事なのだが、速いのではなく、ただただ「延々とそれなりのスピードで走り続けることができる」のだ。どれだけ走ってもきつくない。これまで味わったことがない感覚。そこから半月くらいは日本に戻っても無双状態であった。(ただしディフェンダーとして笑)

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