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OTT(オトナのタイムトライアル)って何だ?

2013年から市民ランナー向けのトラックレース。「オトナのタイムトライアル」をはじめました。最初は「市民ランナーがトラックを走るなんて」という声もあったのですが、いつしか「OTT」と略して呼ばれるようになるころには参加者や関わる人達も増えていき、もともとは友達が集まって作り始めた草レースも、一般社団法人OTTとして運営していくようになりました。数多くのマラソンやロードレース大会が中止や延期となり、ランナーとして走るだけでなく、観戦したり、ボランティアとして大会を支える機会が失われつつある2021年。OTTでは数多くのトラック・レースを開催することで、「走ること」を続ける機会を増やしていこうと考えています。そのあたりは「SMALL RACEという考え方」としてこちらを読んでいただくとして。

2021年は2月28日と3月21日に世田谷区大蔵運動公園陸上競技場で開催します。まもなく2月分のエントリーを締め切るところなのですが、ついつい8年もやっていると、皆が自分たちのことを知っていると思ってしまいが。ち。ですので、そもそも「OTT」ってどういう経緯で産まれ、どうやってここまで広がってきたのか?ということをお伝えしておこうと思います。同じような考えで日本中で草トラック・レースは作れるはずなのです。

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エントリー合戦にあきあきしてた。ならば自分で作ったほうがいい
第1回オトナのタイムトライアルが開催されたのは2013年7月21日のこと。市民ランナーの聖地でもある、代々木公園・織田フィールドで開催されました。当時、どんな大会でもエントリーに応募者が殺到。「走ることへのハードルがあがったなあ」と、みんなで走った駅伝大会の打ち上げがきっかけでした。「こんなにエントリーが大変だったらさ、もういっそ自分たちで作ったほうがいいよね」という話題から、理想のレースとは?ということを話しているうちに、「トラックレースならなんとかできるんじゃないか」「おお、できるかもできるかも!」と、盛り上がった酔っぱらいの戯言をその場にいた、法政大学で箱根を目指していたWEB製作者の川北さん、そして京大陸上部出身でNumberDOの編集者であった涌井さん、当時、サラリーマンをやりながら、プライベートで日本中で行われる競技会や駅伝大会を追いかける箱根駅伝オタク集団EKIDEN Newsを主宰していた西本の3人が引き続き、検討するというところからはじまったのでした。いまにしておもえば、運営の川北。編集の涌井。企画の西本。とうまい具合に3人の得意分野がわかれていたのがよかったのかもしれません。3人で代々木公園事務所にくじ引きにいき、当たりを引当てたときは「お客さんが集まらなかった場合は会場費を3人で割り勘しよう」ということに。開催日まで、残り一ヶ月。せっせとサイトをつくり、計測屋さんをあたり、エントリーサイトと交渉して、手伝ってくれそうな友達に声をかけているうちに申し込みが100名を突破!「これで赤字じゃない!」と大喜びしてました。多いときには1000人くらいの方がエントリーする大会までに成長しました。(これ以上は組数が作れないんで増やせないんです)

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宣伝費をかけないということ
参加Tシャツを配ったり、手厚いドリンクを出せるわけではないので、エントリーフィーを低めに設定したせいもあって、チラシやポスターといった宣伝ツールがつくれないことが判明。告知はお金のかからない、口コミとSNSだけとなりました。お金がかかるサービスはできないけど、手弁当でできるサービスはがんばろうと、レース中の写真や動画を参加者にも無料で共有できるようにしました。それらの写真や動画がSNSで共有されていくことによって、さらに口コミが広がっていくことに。お金が無かったことで考えた苦肉の策がかえってよかったのかもしれません。

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陸上ファンの最高の夢とは自分のレースを作ること
毎年、日本のトップがしのぎを削る日本選手権。その会場が満杯になることはありません。いっぽうで、東京マラソンの競争倍率は毎年、とてつもない倍率となってます(毎年、申し込んでますが、もはや走れる気すらしてない笑)EKIDEN Newsメンバーの間では「こんなに走る人が増えたのに、日本で一番を決める大会にみんな興味がないんだろ?」と、市民ランナーと陸上ファンの間に流れている深い溝が話題となっていました。「草野球をする人がプロ野球の面白さがわかるように、マラソンを走る人こそ、トラックのスピードに憧れと尊敬をもってくれるはずだ」と。インターネット陸上界(というのがあるのです)で知らぬ人はいないといわれるEKIDEN MANIAさん。年間の陸上試合観戦数は150試合をこえるという強者です。そんなマニアさんが、ある時、ポツリといいました。「陸上ファンの最高の夢とは自分のレースを作ることなんですよねえ」と。そこで、このオトナのタイムトライアルでは、ぼくらEKIDEN Newsメンバーにとって「日本最高のトラックレース」。毎年、5月に宮崎県延岡市で行われる「ゴールデンゲームズ in のべおか」(GGN)そして、夏に北海道を転戦しながら行われる、ホクレンディスタンスチャレンジでぼくらが感じた良いところを、この大会に投入しようと動き始めたのです。

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GGNとホクレン
ぜひ、Youtubeなどでレース映像を観ていただきたいのですが、どちらのレースも競技場全体のムードで好記録を出すということに特化したレースです。GGNは旭化成のお膝元、延岡で行われます。会場は大音量で選手のピッチをあげる音楽が流れる中、宗兄弟がインカムマイクをつけて、ラップタイムを読み上げて、選手に檄を飛ばします。面白いのはトラックの周囲を看板で囲われており、その看板を観客はバンバン叩きながら応援します。看板を叩くバトンのようなものを宗兄弟自ら、コースを周りながら配ります。そのバトンの正体は「サランラップの芯!」旭化成らしいですよね(笑)いっぽうで、ホクレンは涼しい夏の北海道で好記録を狙うというレース。ホクレンで日本選手権やインカレの標準を狙うランナーたちが必死になって走るレースなのです。

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市民ランナーが日体大に出ると早朝レースに
トラックの記録会として、日本で一番エントリー数は多いのは日体大記録会。秋のトラックシーズンは箱根駅伝やニューイヤー駅伝の選考にもかかわり、高校生たちは14分台を出して、関東の陸上強豪校への進学切符を狙うとあって、とてつもなくレベルが高いトラックレース。この日体大記録会にも陸連登録をしていれば、市民ランナーもエントリーが可能です。ただ、あまりにもレベルが高すぎて、設定タイム別に組分けされるため、サブ3ランナーくらいだと早朝のレースとなってしまうのです。これもトラックレースの敷居の高さにつながっている一因だと考えたぼくらは5000m30分切り(1キロ6分ペース)からエントリーできるようにしました。ハーフやフルマラソンのように時間をかけたトレーニングをしなくても、気軽にレースを楽しめるようにしたいと思ったからです。そして、公認レースにしないことで、子どもからお年寄りまで誰しもが気軽にエントリーできるようにしました。立ち上げた当初は「公認じゃないなんて…」と敬遠される方も多かったのですが、今では中高大の陸上部員達もレースに参加するようになりました。

ペースメーカーたちのこと
市民ランナーの方に陸上選手の凄さをわかってもらうには、スピードやフォームだけでなく、彼らが身につけた「正確なペース感覚」を味わってもらおうと思いました。最初にペースメーカーとして手をあげてくれたのは、東京大学陸上部のみなさんでした。陸上部としては強豪とはいえない彼らが、こんなに正確にペースを刻むことに、みなさん驚いていたのが忘れられません。OTTでペースメイクをしたことがきっかけで、東大陸上部ファンが急増。箱根駅伝予選会ではOBでもない市民ランナーからも応援が飛ぶようになりました。第一回目からペースメーカーとして参加してくれている伊藤和麻選手は早稲田大学競走部出身。当時はサラリーマンとして参加してくれました。そのまま競技を続けると記録が伸び始め、ついに実業団住友電工へ。今では陸上部主将に。オトナのタイムトライアルの話題が広がっていくにつれ、箱根駅伝青学優勝メンバーや、実業団トップ選手、パラリンピアン、そして、競歩選手がペースメーカーとして参加してくださったます。ぜひ、観ていただきたいのが、競歩ペースメーカーたち。キロ4で歩く選手をぜいぜいハーハー市民ランナーが追いかける姿は壮観です。

声援がなければただの距離走だ
「GGNやホクレンはトップ選手だから声援が飛ぶんであって、市民ランナーに声援なんて飛ぶかなあ」。はじまるまではそんな心配もしてましたが、杞憂に終わりました。なんと、「走り終わったランナーたち」がトラックに集まって声援を送り始めたのです。走り終えたランナーこそが、一番きついことを知っている。だからこそ、熱い声援が飛ぶ。ランナーは自分の組を走り終えたら、すぐに帰るのではなく、後の組を応援していく。そういう循環がうまれはじめたのです。ですから、急遽、「3レーンまで入ってランナーに近いところで応援してください!」とアナウンスをしました。観ている方はスピード感を間近で味わえますし、走っている側には熱い声援が飛ぶ。相乗効果で自己ベストがうまれる環境ができたのです。

救護班のこと
織田フィールドのような人気のある競技場を押さえるのは至難の業。毎月、抽選会が行われます。そのため、OTTはくじの競争相手が少ない真夏に開かれることが多かった。「レースやるんだから、お医者さんいれないといけないよね」と、念のため、知り合いのお医者さん(熊倉さん。専門は精神医学)を救護係として呼んでいたところ、第一回目から、熱中症で倒れるランナーが続出。救急車も出動することになり、一人奮闘するハメとなった熊倉さん。「これじゃ!ダメだ!」と、2回目からは熊倉さんが中心となって、陸上が好きな看護師やドクター、そしてトレーナーが集まり、救護班を結成。万全の体制がとれるようになりました。

ボランティアのこと
参加人数が500人を超えそうになったころから、友達の手弁当だけではまかなえない規模となり、ボランティアスタッフを募ることにしました。すると、箱根駅伝や陸上が好きな女性ファン達が率先してボランティアとして参加するようになり、100名を超える規模のボランティアスタッフが集まることに。これまで陸上や駅伝を外側で観てるだけだったファン達が運営や選手への応援に積極的にかかわっていくことで、出場者、観客、ボランティアが一緒となってムードを作り上げていく大会になっていきました。おじさんのランナーにもここまで黄色い声援が飛び続ける大会はなかなかないかもしれません。

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デサントの北原さんと日本陸連
3回目のOTTが無事終わったとき、「すごいレースを作ったな!お前、ゴールデンゲームズ知ってるか?」と声をかけてきた、小柄な男性がいました。OTTのペースメーカーやボランティアへのウェアのサポートとしてこられていたデサントの北原さんという方です。「知ってるもなにも、かなりパクリました」と、正直に話すと、「お前!ゴールデンゲームズを知ってるのか!」と、かなり驚いている様子。どうやら、この北原さん、宗さんと一緒にゴールデンゲームズやホクレンといった、ぼくらが参考にしていたレースを作り上げていった張本人だったのです。その後、ホクレンの会場に行くと、「お前、本当に北海道まで来てるのか…」とさらに驚いた様子。翌年、ゴールデンゲームズにいくと「ちょっとこい」と、連れられていくと、そこには宗さんが。そこで、北原さんが宗さんに「こいつらはかくかくしかじかで」と説明をしはじめ、その場で旭化成の選手をOTTのペースメーカーに出場させる確約をとりつけるのです。そうして、やってきたのが村山紘太選手や鎧坂哲哉選手。

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北原さんの活躍はここにとどまりません。「よし、お前、日本陸連行くぞ」と日本陸連でも「こいつらはかくかくしかじかで」と説明をはじめ、なんと、OTTを日本陸連と共同開催までもっていくのです。日本陸連がかかわってくれたことで、より市民ランナーと陸上界をつなぐレースとして進化していくことになりました。そこに現れたのが日本陸連のエンジョイ職員こと畔蒜洋平さんです。

「横田真人さんから中距離版のOTTができないか?」と相談を受けたんですけどねえ?そんなことってできますか?という畔蒜さんの一言がきっかけとなり、2017年夏にトライしてみたのが、OTTミドルディスタンス。800mや1500mといった中距離を中心にプログラムを組みました。ペースメーカーには800m元日本記録保持者の横田真人さん、そして現日本記録保持者、川元奨選手らも参加。市民ランナーとトップ選手が本当につながる大会となり、いまや横田さんは一般社団法人OTTの理事のひとり。このミドルディスタンスとOTTを発展させてできたのが、「東京陸協ミドルディスタンスチャレンジ」

4月に第二回目が駒沢陸上競技場で行われます。

こちらは陸連登録者を対象として公認記録会。こちらの運営にもOTTのスタッフやボランティアたちがかかわっていきます。ここで走るエリートランナーたちが、OTTでは市民ランナーをペースメークする。そういう循環がうまれてくると、ぼくらもうれしいです。

ということで。2月28日のOTTエントリー締め切りはまもなく。
こちらよりぜひお申し込みください。

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ツイッターや「今日の一枚」では掲載するタイミングをうしなった写真やテキスト、これからやってみたいことなどを、ここでこっそりとはじめています。ちょっとびびって月10回と書いてますが、一日10回更新する日もたまにあると思います(笑)情報誌のようなことを期待している方はやめておいたほうがよいかも。ツイッターやオープンなネットとは違ってクローズドかつバズらない場を作ろうと思います。

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月刊といいながら、一日に何度も更新する日もあります。「いつかビジュアルがたくさんある陸上雑誌ができるといいなあ」と仲間と話していたんですが…

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