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フルのための5000m

「自分は記録にはとらわれない市民ランナーだ」と思ってきたのだけれども、やはり年に1度はフルマラソンを走ることによって、身体が鍛えられていたのだということを最近、痛感している。2019年はパリマラソンを走るつもりが、ボストン・マラソンの取材で走れなかったので、最後に走ったのは2018年4月のロンドン・マラソン。丸3年、フルマラソンを走れていないことになる。

そうするとどうなるか?とにかく走力が落ちる。それなりにジョギングはしてはするが、フルマラソンを走るための準備ではない。あくまでも健康維持のためである。あまり記録にはとらわれない市民ランナーの自分でも、レース3ヶ月前から練習代わりにハーフマラソンを数回走り、30km走などもいれる。タイムを狙うというよりも、それくらいやっておかないと、最後まで止まらずに走りきれないからだ。

年に1度。フルマラソンを走るために身体をしあげ、そして「もういっとき走りたくない」くらい本番で走ることで、自分の肉体や走力が維持できていたことに気づいた。ダラダラとジョギングばかりしていると、身体もボヨンボヨンになるし、それだけでなく、なによりも速く走ることを身体が忘れてしまうのだ。

涼しくなった9月。ようやくダラダラと長く走ることをやめることにした。びっくりするくらい落ちた走力を取り戻すために、時間や距離は短くても、途中で歩いてしまってもいい。ダラダラ走るのはやめにして、自分に刺激をいれるために速く走る。影響を受けたのは、この夏、オリ・パラ並みにしびれたホクレン北見での川内優輝の5000m13分台だ。

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「落ちたスピードを取り戻す」ホクレン期間中の川内優輝の気合は凄まじかった。士別、深川、網走と転戦しながら(成功と失敗を繰り返し)ラストチャンスとなった北見で見事13分台を叩き出す。

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新谷仁美選手がヒューストンハーフで日本記録を出したとき、「10000mのためのハーフ」という位置づけで走ったと聞いた。10000mの中間走をもっと効率よく楽に走るために10000mのレースペースよりも少し落としたハーフマラソン日本記録更新ペースで長い距離を走りきることでランニングエコノミーを向上させる狙いがあった。

川内選手がプロ一年目となった年、酷暑のためスローペースになることが予想されたドーハ世界陸上マラソンの対策として、公務員時代と違い、自由に使えるようになった時間で距離を踏みまくった。強靭な足はできたが、その代償としてスピードが失われてしまった。一緒にドーハの沿道で見ていた金哲彦さんが、そのフォームをみて「彼のいいところが失われたようだ。」とつぶやいていたのを覚えている。

川内選手の5000mは新谷選手とはアプローチは逆だが、まさに「フルのための5000m」である。5000mを13分台で走れるよう心肺やフォームといったトータルで身体を作り変えることで、フルマラソンを走る上での土台のスピードを向上させようとするものである。

2021年は春先から中距離にもチャレンジ。

このときの5000mは14分36秒21である。

数多くのフルマラソン大会が中止や延期となるなか、「フルのための5000m」として市民ランナーはOTTなどを活用してもらいたい。公認レースだとヴェイパーは履けないが、非公認だとヴェイパーでトラックを走ることができる。この秋、OTTでも「フルのための5000mと1000m」という企画をやってみようと考えている。

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