25本目 霞ヶ関出向物語②
1.怪獣のもとで
去る令和2年7月。
国家公務員の異動時期。
班の屋台骨だったT参事官、H参事官補佐、そして民間から出向していたIさん。
3名が異動対象に。
次はどんなキャリア官僚がやってくるのだろう。
優しい人だといいな。
いくらでも優秀な人から学んでいきたいな。
どんな経歴の人だろう。
趣味は何かな。
7月中旬。
平伏丁寧な、お爺ちゃん。
『参事官の日内(仮名)です。よろしくお願いしますねぇ。』
気になったのは、50代前半にしては、+15歳くらいの風貌。
元の所属の部下だろうか。2名を従えて、引越作業。
『そこに置いてくださいねぇ』
その空間には、どことなく、なぜだろう。
粘質が生まれる感触があった。
2.機械じかけの参事官
9時30分
自席でコーヒー豆を挽き始める。
9時45分
給湯室でコーヒーをマイポットに淹れる。
12時30分
給湯室で紅茶をマイポットに淹れる。
18時00分
マイポットを片付ける。
18時15分
帰宅。
寸分の狂いもない。マイルールが強い。
7月中旬の出来事。
『いかとんくぅん。A区域の評価書の30ページに書いてあることなんだけどねぇ。』
正直、約100ページもの評価書のすみずみまで読んだことなんて無い。
というか、そんな暇はない。
日内参事官(以下、ヒナ)が、自席の前にパイプ椅子を持ちだす。
『座ってくださいねぇ。』
持論展開。知識整理。
約2時間
『ふぅん。いかとんくんは、評価書は読んでない、ということなんですねぇ。わかりました。』
場が凍る。
その後、次々と他メンバー5人が餌食に。
どうやらヒナは、異動した直後の週末に
30区域の評価書をすべて読み込んだようだった。
3.スケジュール感
『いかとんくぅん。規制改革のスケジュール感は、どうなってる?』
『はい。8月上旬には実務担当者レベルの協議、8月下旬には書面協議を作成。9月上旬には各省協議を予定しています』
『ちがうよ。』
『いかとんくん。1日単位での、スケジュール感が欲しいんだ。
1日単位で何やるか。スケジュールを、私の机の上にあるようにして欲しいなぁ。明日の朝の時点で。』
4.押さないよ。ハンコ。
残業時間は紙管理。
本来は1日ずつ確認するものだが、一月に一回、一括で参事官の押印を貰っている。
『丸谷さぁん。ちょっとぉ。』
東北の自治体から出向で来ていた丸谷さん。
出向2年目。
丸谷さんはコロナ関係の業務も兼務している。
そのため、必然的に残業時間は多い。
『この時間数はねぇ。ちょっとねぇ。』
黙って残業申請の紙を見つめる。
『(ハンコ)押したくないですねぇ。』
『なんでこんなに残業多いんですかねぇ。』
『どうしてこんなに多いか、ボクに説明してくれる?』
『ボクは知らないよ。初めて知ったんだから。キミがこんなに残業しているってこと。』
1時間の問答の末、渋々ハンコを押すヒナ。
5.1ヶ月たったある日
嫌で暗い日々は、時が経つのが遅い。
この時期は本当に遅かった。
8月に入ると、周囲の人間に変調が。
『〇〇市からの出向の子、今週いっぱいで地元に帰るんだって』
表情が暗くなる周囲の出向者。
言動も段々と暗くなる。
『もういやや…』
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