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月響(げっきょう)7



「ハナが出てきたからティッシュかなんか欲しいよーウグッ」

とついに私が云ったので私達は鷹の台の駅に向かって歩き出した。

マー坊の脚はもう良くなっていた。

鼻がヤバイ私はなんとか色々こらえて歩いた。

何かを我慢しながら前進するのって難しいナとか、なるべくナリタ君と関係のないコトを考えながら。

駅前の薬局で保湿成分が配合された特別デカいティッシュをひと箱買い、鼻をかみまくった。

ティッシュを入れてくれたポリ袋に鼻かみゴミを入れたら好都合だった。

私達はどちらともなく駅に向かい切符を買って国分寺行きの電車に乗った。

この路線は単線で駅も五つしかない。

二つ隣が国分寺駅だからすぐに着いてしまう。

私はマー坊とまだ別れたくないから電車から降りたりなんかしない。

マー坊もなんにも云わない。

再び電車がゆっくりと動き出す。


国分寺ー恋ヶ窪ー鷹の台ー小川ー東村山

東村山ー小川ー鷹の台ー恋ヶ窪ー国分寺

国分寺ー恋ヶ窪ー鷹の台ー小川ー東村山

東村山ー小川ー鷹の台ー恋ヶ窪ー国分寺


何回往復しただろう。

最後の方には平行移動じゃなくなってきて垂直移動しているような感覚で、まるでエレベーターに乗っているみたいだった。


一階ー二階ー三階ー四階ー五階

ハイッ

四階ー三階ー二階ー一階

って。


マー坊は小川駅で降りなくてはならないし私は国分寺駅でおりなくてはならなかったけど、二人とも全くその気はなかった。

私達は変わりばんこに膝枕をして泣いた。

終点の駅に着くたびに枕と涙をなんとなく交替した。

私がぐしゅぐしゅぐじゅぐじゅ泣いてティッシュを浪費して普通の倍くらいの大きさのティッシュの箱が完全に空になった時、私達はそれぞれの家に帰ることにした。

ティッシュのくずでいっぱいのポリ袋はサンタのプレゼント袋のようにモコモコパンパンで破裂せんばかりでなんかヤバかった。

そこらへんのゴミ箱には入らない大きさだったので責任をもって私が持帰ることになった。

今日私達はほとんど口をきかなかったけれど泣いてる相手を抱いたりさすったりしてやるコトは会話に近い。

私が膝に頭を乗せて泣いてる時、マー坊は使い終わったティッシュを捨てやすいようにポリ袋の口を開けてスタンバリながら背中をゆっくりゆっくりさすり続けてくれた。

マー坊が膝に頭を乗せている時、私は相変わらず顔面を手で押さえつけてほとんど涙を流さないマー坊のうなじのふるえを膝小僧で優しく受けとめ、お腹のあたりを力強く抱きしめてあげた。


今日私はいつもより体温が高くてすごく良かった。

マー坊は涙を流さないのではなく、カラダに涙をめぐらす術を知らないのかもしれないとふと思った。

車窓に感じる寒さを冷え切ったマー坊の腹や背中に感じながら私は祈る。

マー坊の幸せを、そしてミサキの幸せを。



次葉へ



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