大藤佐紀

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大藤佐紀

書いた小説をアップしていきます。 普段はYouTubeやニコニコ動画にてゲーム実況動画を上げている人間です。

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〔初作品 第14話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 「寂しいのなら、猫を飼えばいいじゃない」  山田さんはケロリとした顔で言い放ちました。かのマリー・アントワネットもこんな表情であの名言を言っていたのかもしれません。  樋口さんはコーヒーを音を立てずに啜りました。 「これも何かの縁ってやつかな。そうさせて貰いますよ」  微かに口角を上げてそう言い、私たちも同じように微笑み返しました。 「良かった。じゃあ

    • 〔初作品 第13話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

      1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  唐突に訪れたボス代理の時間でしたが、それは長くはありませんでした。山田さんが溜め息が会話の口火を切ったのです。 「神尾ちゃん、里親なれないわよね?」 「里親?」私はオウム返しに聞きました。 「ええ、実はね…」  彼女曰く、山田家の一人娘であるシャロちゃんが突然妊娠し、つい先月に3匹もの子供を産んだそうなのです。大きな屋敷で一匹玉のように可愛がられてい

      • 〔初作品 第12話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

        1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  甘いコーヒーを肴に私は引き続き樋口さんのお話を聞きました。今度はボスも加わっています。 「じゃあ奥さんはウチのカレーをそんなに気に入ってくれてたんですね」 「恐らく。レシピを教えたりしたのかね?」  ボスは首を左右に振りました。 「そこは企業秘密ってやつでして。再現できていたのならきっと奥さんの味覚が優れていたという事でしょう」 「確かに妻は料理が得

        • 〔初作品 第11話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 「居眠りとは感心しないな」  目を擦る私にボスがそう詰りました。どうやら、勤務中に睡魔に襲われたようでした。  カウンター席から身体を捻って時計を見ると午後2時。人類が一番眠くなる時間帯です。 「ごめんなさい。どうか減給だけは」 「寝るだけで褒美が貰えるのは猫くらいのものだ」 「ああ、生まれ変わったら猫になりたいってずっと思ってたんです」私は伸びをしま

        〔初作品 第14話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

        • 〔初作品 第13話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

        • 〔初作品 第12話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

        • 〔初作品 第11話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第10話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 「奥さんからこの店の事を聞いていたんですか?」  ボスはカウンターの棚から取り出したグラスを丁寧に拭きながら樋口さんの話を聞いています。使ってもいないグラスを何故、と思いましたが、こういった時、仕事をしている風を出す為にここに置いてあった物かもしれません。 「何となくだけどね。いつか一緒に行こうなんて言われたが、それは叶えてやれなかった」  樋口さんの

          〔初作品 第10話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第9話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  その日最初のお客さんが来たのは午前十時、開店から一時間ほど経った後です。  ベルが鳴ると反射的に私はそちらを向くだけでしたが、ボスは即座に「いらっしゃいませ」と迎え入れました。私とボスの経験の差が出たようです。  六月だというのに夏を感じさせるような強い日差しを背に、初老の男性がゆったりと入ってきました。彼は店内をぐるりと見渡し、迷うこと無くカウンタ

          〔初作品 第9話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第8話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 翌日の朝、筋肉痛になった足を大きく動かし、私はいつものように店のドアを開きました。私に負けじと高らかに鳴るベル、店内にはいつも通りの光景が広がっていました。 「いらっしゃ…神尾か、おはよう」 「おはようございます」  眠そうなボスだけがいるお店。開店前なので照明は付いておらず、ロールカーテンの隙間から朝日が差し込むのみです。この優しい日差しと朝に

          〔初作品 第8話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第7話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  私が抱っこしたのはシャロちゃんで間違いなかったようです。何故なら連絡から五分もせずに到着した山田さんがその名前で呼んだからです。  ああ、シャロちゃんと駆け寄る姿は派手な出で立ちも相まって映画やドラマでよく見る感動の再会のシーンのようでした。対するシャロちゃんは彼女を無言で見つめてジッとしているのみでしたが。 「ずっと大人しくしてましたよ、賢い子です

          〔初作品 第7話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第6話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  表札を勢いよくひっくり返し「CLOSED」の文字を確認すると、私たちは店を後にしました。  まだ朝の九時だというのに日差しは強く、暑さはすっかり夏のそれでした。こんな気温の中長旅に赴くシャロちゃんは大したものです。 「ボス、何かアテがあるんですか?」  店を出てから迷わず西に進むボスに私はそう問いかけました。 「いや、山田さんと反対方向に進ん

          〔初作品 第6話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第5話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 「あれ、出勤は午後からじゃなかったか?」  翌朝、店のドアを開けて飛び込んできた景観はいつも通りそのもので、私の来店によって起こされたボスだけがぽつんと佇んでいました。 「今日は学校がお休みで暇だったので」 「そうか、今日は何して遊ぶか」 「遊んでも良いですけどお給料は出して下さいね」  ボスはククと笑うと、厨房の方へ行きました。 するとコーヒーマシン

          〔初作品 第5話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 第4話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915 「ごちそうさまでした。とてもおいしかったです」 「また来るぞ」  食事を終えて、私たちは席を立ちました。もっと早く知りたかったと思うほど居心地が良く、おいしいお店で私はすっかり幸せな気分に包まれていました。しかも、 「金はいいよ、またな」  なんと黒木さんはタダでいいと仰るのでした。流石に申し訳ないですが、手ぶらの私に出来ることなどありません。

          〔初作品 第4話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 3話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  私とボスがホットコーヒーを飲んでいると、『ミミズク』の店主、黒木さんがタマゴサンドをくださいました。実は朝もお昼もご飯を食べていなかったので、遠慮する余裕が無かったのです。 「すみません、お金なら後で返しますので」 「気にするな、学生に取り立てるほど心も財布もひもじいわけじゃない」  ボスのご厚意に思わず頭を深く深く下げました。一人暮らしを始

          〔初作品 3話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 2話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          1話目のURLはこちらになります→https://note.com/eiyoshiblog/n/n648fbb125915  外に出ると、予想以上に暑い日差しが街を刺すように照らしていました。去年の五月はこんなに暑い時期だったかと、これは毎年のように思っているような気がします。  午後三時頃、「Rコール」を出てすぐに私たちは自販機の前で止まりました。「戦の前には水分補給をば」と、ボスは小銭を取り出しています。  財布ごと店に置いてきてしまった私はお茶を奢って貰いました。

          〔初作品 2話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

          〔初作品 1話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に

           ランチタイムを少し過ぎた頃、カフェ『Rコール』は今日も閑散としていました。従業員の一人としては看過できない由々しき事態です。 「ボス、私宣伝大使にでもなるべきでしょうか」  ボスはカウンターに寄りかかって欠伸をしています。猫のように寛ぐ彼からは店を繁盛させるという気概を感じられません。 「うーん、なんでこうも人はやってこないのかねぇ」  呑気にそう言うのです。人は皆静かで落ち着くカフェを求めているのではないのかと悪態をついています。 「静かすぎるというか地味という

          〔初作品 1話〕一日の始まりと世界の終わりを一杯の珈琲と共に