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DJのライブ配信は著作権法に違反するのか

1.はじめに

 コロナ禍の影響から、DJのライブ配信イベントが多く行われており、その影響からか私が以前に書いたコラム「DJプレイを適法にする著作権の権利制限規定」が読まれているようです。


 皆さんに読んでいただいていることは嬉しいのですが、このコラムを引用しながら誤った内容の記載を行う記事やTweetが散見されます。
 また、コラムを読んだ方から、個人でDJのライブ配信をして良いのか?という相談が私に多数寄せられています。
 そこで、DJのライブ配信が著作権法との関係で許されるのか、ライブ配信に絞って、できる限り簡潔(それでも長くなってしまいましたが・・)に整理してみたいと思います。
 末尾には、私によく来る質問についての回答も記載しておきます。


2.DJ配信の著作権法上の問題点は何か


(1)処理が必要になる二つの権利
 DJのライブ配信においては、通常、自分以外の第三者が権利を有する楽曲を使用することになります。
 ここでいう「権利」とは、著作権と原盤権(正確には著作隣接権として規定される「レコード製作者の権利」といいますが、ここでは原盤権と呼ぶことにします。)のことをいい、DJのライブ配信においてはこの二つの権利の処理が問題となります。

 著作権とは、楽曲の曲(メロディ、ハーモニー、リズム、テンポなど)や歌詞に関する権利のことをいいます。
 原盤権とは、固定された音、つまり、CDや電子データに収録された音源に関する権利のことをいいます。
 DJ配信を行う場合、楽曲の曲や歌詞を使用するだけでなく、固定された音そのものを配信して使用することになるため、両方の権利の処理が必要となるのです。

 著作権の中には、楽曲をインターネット配信する権利(公衆送信権)が含まれています。つまり、楽曲の著作権者の承諾なく楽曲を配信することは出来ません。
 また、原盤権者も、この固定された音をインターネット送信する権利(送信可能化権=レコードを端末からのアクセスに応じ自動的に公衆に送信し得る状態に置く権利)を有しています。つまり、原盤権者の承諾なく音源を配信することも出来ません。

(2)著作権の処理
 楽曲の著作権は、JASRACやNexToneといった著作権管理団体に対して楽曲の著作権使用料を支払うことで処理することが可能です。
 DJ配信を行うために必要な許諾は、公衆送信権とそれに伴う複製に関するもの(通常、「インタラクティブ配信」と呼ばれています。)であり、演奏権に関する許諾では足りません。
 つまり、演奏権に関してJASRACに利用料を支払っているクラブやライブハウスから配信を行う場合であっても、これとは別にインタラクティブ配信に関する使用料を支払わなければなりません。
 もっとも、YouTube、Instagram、Twitchなどのプラットフォームは、JASRACとの間で包括契約を締結しているため、これらのプラットフォームを利用する場合には、個々の配信者がJASRACとの契約を締結して使用料を支払う必要はありません。

 ここで注意したいのは、JASRACへの使用料の支払いで使用が可能になるのは、JASRAC等に委託されている楽曲(以下「管理楽曲」といいます。)のみであるということです。
 売れ線でないジャンルの楽曲や、レコードでしかリリースされていない楽曲など、JASRAC等に委託されていない楽曲(以下「非管理楽曲」といいます。)は多く存在します。
 これら非管理楽曲については、レーベルやアーティストなどの著作権者本人から直接許諾を得なければなりません。
 JASRAC等の管理団体に権利が管理されているかは、管理団体が提供しているデータベースにおいて確認することができます(JASRAC:J-WID、NexTone:作品検索データベース)。

(3)原盤権の処理
 原盤権については、著作権におけるJASRACのように多数の楽曲を集中管理している団体が存在しません。そのため、一つ一つの楽曲について、それぞれの原盤権者から直接許諾を得なければなりません。
 原盤権者が許諾してくれるかは原盤権者次第ですし、許諾に伴う使用料がいくらになるかも原盤権者次第です。実際に、音楽出版社の中には、動画共有サイトにおける使用を一律に認めないという運用をしているところもあるようです。
 また、そもそも原盤権者が誰かが分からないこともあります。

 一部のプラットフォームにおいては、原盤権者との間で包括契約が締結されており、当該原盤権者が権利を有する楽曲を使用することができます。
 例えば、ニコニコ動画において原盤の使用が許諾されている楽曲はここから検索ができます。しかし、この限られた少数の楽曲のみから楽曲を選択してDJ配信をするということは現実的ではないでしょう。

(4)黙示の承諾があると言えるのか
 このように、著作権と原盤権を全て権利処理することはとても大変です。もっとも、権利者が全てを包括的に事前に承諾してくれていれば、これを一気にクリアできます。
 そこで、DJのライブ配信について、著作権と原盤権の権利者が黙示に承諾しているとは考えられないでしょうか。

 確かに、ダンスミュージックの範疇にある楽曲を制作してリリースする場合、その楽曲が将来的にDJに使用されることは事前に想定されていると思います。
 また、特に有名なDJがプレイした場合のプロモーション効果からすれば、是非ともDJのライブ配信において楽曲を使用してもらいたいと考える権利者もいるでしょう。実際に、たくさんのDJ動画がYouTubeなどに長期間にわたって公開され続けており、権利者が承諾しているであろうと考えられるものも存在します。

 しかし、クラブの現場でのDJプレイに楽曲が使用されること、これがインターネットで配信されることとの間には、楽曲が使用される態様やこれにより楽曲が耳に入る人数など、質的に大きな違いがあります。
 また、楽曲がDJプレイに使用されることを想定していることは、楽曲を無償で使用することを許諾していることを意味するわけではありません。
 さらに、DJの知名度によってプロモーション効果の大小は様々であり、このメリットを一般化することはできないでしょう。
 以上からすれば、権利者がDJのライブ配信における使用を包括的に事前に承諾していると評価することは困難だと思います。

 原盤権を有するレーベルが、SNSの公式アカウントにおいて、自身が権利を持つ楽曲が有名DJにプレイされている動画を好意的に紹介しているような場合もあります。このような場合であっても、あくまでこの動画におけるこの楽曲の権利の使用を承諾していると評価し得るに過ぎず、この楽曲について一般的にDJ配信における使用を承諾しているとまで評価することは難しいと思います。

 なお、管理楽曲の場合には、そもそも楽曲の公衆送信のためにJASRACなどへの使用料の支払いが必要なわけですから、殊更にDJプレイにおける利用においてのみ無償での使用を承諾しているとは考えられないでしょう。


3.結局どうすればDJのライブ配信を適法にできるのか


 例えば、個人でYouTubeでDJのライブ配信を行う場合には、
 ① 使用する全ての楽曲の原盤権者から、原盤権のライブ配信での使用について承諾を得る。
 ② 使用する楽曲の中に非管理楽曲がある場合には、各楽曲の著作権者から、ライブ配信での使用について承諾を得る。
という処理が必要になります。

 また、仮に事前に承諾を得ていなかったとしても、全ての楽曲の原盤権者と非管理楽曲の著作権者が事後的に承諾をしたといえる場合には、原盤権と著作権の侵害がないということになるので、適法と言えるでしょう。
  
 このように、DJのライブ配信をホワイトに行うことは、非常に多くの法律的なハードルがあります。
 私もDJのライブ配信をよく見ていますし、正直に言えば、実際に自分でライブ配信をしたこともあります。ですので、この多くのハードルをなんとか超える手段が欲しいと考えています。
 この手段は、配信者側からすれば①と②の権利処理を容易にする仕組みであり、その仕組みは同時に権利者側がDJのライブ配信による使用料の分配を受けられる仕組みということになるのではないでしょうか。

 例えば、原盤権を集中管理する団体が存在したり、非管理楽曲の使用が何らかの団体への使用料の支払いを条件に(非管理楽曲の著作権者はこの団体に使用料支払いを請求できる)自由に行えるというような法律があったり、YouTubeのContents IDのような技術がもっと正確に進化し、かつ、広く普及すれば・・・と想像しています。
 ①と②の権利処理を試みているサービスがいくつか存在するようですが、全楽曲の著作権と原盤権を処理できるものではなく、まだ決定的なものには至っていないようです。

 DJのライブ配信による収益化が、コロナ禍により経済的苦境に立たされているDJ やクラブにとっての大きな救済策の一つであることは間違いありません。
 これを機会に、楽曲の自由な利用とこれに伴う利益の分配について新しい法律的なルールを策定するタイミングが今まさに来ているのではないかと思います。
 誰もが自由にDJのライブ配信ができ、これにより権利者に利益がきちんと分配されるルールが確立されることを願います。


4 よくある質問とその回答


① YouTubeは権利処理されていると聞きます。配信して良いのでは?
 YouTubeがJASRACと包括契約を締結して権利処理をしているのは楽曲の著作権だけです。
 原盤権については権利処理がされていませんので、配信者においてこれを行う必要があります。
 この点はJASRACのウェブサイトに詳しい説明があります。
 
② 視聴者からお金を取らなければ良いのでは?
 DJのライブ配信が著作権法上適法であるか否かと、収益化の有無は無関係です。
 非営利・無償・無報酬である場合に許諾を不要とする規定もありますが(著作権法38条1項)、認められているのは上演、演奏などであって、公衆送信は対象になっていません。
 また、私的利用の場合に著作物を複製できるという規定が著作権法に存在しますが(著作権法30条1項)、その対象は複製のみであり公衆送信は対象ではありません。

③ 権利者の承諾を得ずにDJのライブ配信をしたら逮捕されるんでしょうか?
 著作権侵害行為のうち、(1)侵害行為の対価として財産上の利益を得る目的を有し、(2)著作物を「原作のまま」公衆送信するまたはそのために複製する行為であり、(3)権利者が得ることが見込まれる利益が不当に害される場合には、著作権者の告訴なくとも検察官が公訴を提起することができます(著作権法123条1項、同条2項1号)。

 投げ銭などDJ のライブ配信により収益を得る目的が認められる場合、⑴と⑵には該当するのではないかと思われます。もっとも、ライブ配信だけであればアーカイブに残らないため、音源の販売により発生する利益を害するという関係にあるか、つまり、⑶に該当するかについては疑問が残ります。
 そのため、いきなり検察官が公訴を提起するということは考え難いのではないかと思います。
 また、仮にそのような可能性があるとしても、実際に逮捕されるか否かはまた別の問題です(ここから先は刑事訴訟法に関する説明になるので、割愛します)。

 もっとも、刑事上の責任がないことは、民事上の責任がないことを意味しません。
 権利者の承諾がない場合には、損害賠償責任を負う可能性があります。損害賠償の算定に当たっては再生回数なども考慮されることもありますので、思わぬ金額の賠償義務を負ってしまうこともあります。

④ 実際に著作権者から損害賠償請求されることなんてあるんでしょうか?可能性が低いならやってしまっても問題ないのでは?
 仮にYouTubeでDJのライブ配信をした場合、法的には、使用した楽曲のうち非管理楽曲の著作権者および使用した全楽曲の原盤権者が、配信者に対して損害賠償請求権を有することになります。
 権利者が損害賠償請求を行っても配信者が素直に支払いに応じない場合、権利者としては裁判などの法的手続きをとるしかありません。
 しかし、法的手続きをとるためには相応のコストがかかります。このコストと損害賠償の金額を比較して、法的手続きをすることまではせずに諦めるという判断も当然あり得ます。

 ここから先は個人の価値観の問題になると思いますが、現実に損害賠償請求をされる可能性が低いのであればやってしまえ、万一損害賠償請求をされたらその時は仕方ない、という考え方も一つあるでしょう。
 もっとも、楽曲の権利を権利者の承諾なしで使用することは、配信者の出費がなくなることだけを意味するのではありません。その裏返しとして、権利者が本来受け取るべき利益が不当に失われているということをも意味することは、DJをする者としては認識しておくべきだと思います。

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