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英語のそこのところ 第19回 我々らしさを忘れずに、

著者 徳田孝一郎
イラストレーター 大橋啓子

「まったく、1号、2号、3号ね」
 新宿のカフェで一緒に食事をとっていたCatherineがつぶやいた。金髪碧眼、それはそれはきれいな美少女なのだが(美少女に綺麗を重ねるほどきれいってことです)、恐ろしい欠点がある。
「?」
 隣に座った大学生らしい女性のグループに菫色の瞳が動く。
 徳田が目をやるとそれぞれに春らしいひらひらした格好をして、愉しそうに話している。おじさんがあまりじろじろ見ると通報されるので、徳田はCatherineに目を戻した。
「なに?」
 と小声で聞く。
「徳さんは気付かないの? あれ?」
「あれってなに?」
「見ればわかるでしょ、わかんないの?」
「いや、いたって普通の大学生じゃん。愉しそうな」
「なにいってるの。マネキンみたいに同じもの持って」
「え?」
 と、徳田はもう一度大学生たちを見た。
 う~む、たしかに、3人ともヨーロッパの有名なブランドの鞄を持っている。
「LV1号、2号、3号だわ。しかも、3人とも同じような格好して、中身も大量生産品なんじゃないかしら」
 Catherineの毒舌が炸裂する。恐ろしい欠点というのはこれだ。遠目に見るだけならかわいらしい女性なのだが、話すと次から次に『率直な意見』が飛び出す。たいがいの日本人男性は恐れをなして逃げ出すという仕組みになっている。
「でも、鞄はかたち違いだし、服も色違いだからいいんじゃない?」
「その程度の違いしかないってことよ。全体のテイストは同じ。どうして、日本人は判で押したように同じになっちゃうのかしら。あたしが声かけたら、全員がHello って答えそうで怖い」
「まあ、ひとりぐらい、Hiya! って言ってほしい気はするけど、言わないだろうねぇ」
「でしょうぉ」
 わが意を得たりとCatherineは大きくうなずく。 特に個性の際立った(笑)Catherineとしては、日本人が一様に同じようなものを持ち、同じような格好をし、同じようなことを言うのが不思議でならないのだ。
「でも、それが、日本人の個性だから」
 と、徳田はやんわりと言った。

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