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『けーねと妹紅の解説部屋』 これまでのふりかえり②『発達障害&反ワクチン』シリーズ

わたしがニコニコ動画とYoutubeで運用しているゆっくり解説動画の、楽屋話のつづきをここに記す。前回は↓である。


発達障害①発達障害の概要

『学問ノススメ』に飽きてきた(?)のか、次なるテーマとして選んでしまったのが「発達障害」である。といっても、本来は前振りに過ぎなかった。

そもそもTwitterでニューロダイバーシティこと「脳多様性」という概念を知ったので、それを解説するために「発達障害」から話をはじめる必要があっただけである。

「脳多様性」とは、1990年代に欧米の自閉症者のグループがネット上で創始した、あらたなダイバーシティを提唱する運動である。
一部の精神障害者において顕著に観察される、人格の総合的な独自性を、人種、性別、宗教などと等しい不可侵のアイデンティティとして認めるべきだと提唱する。
脳の神経線維の構造に基づく人格の多様性は、能力の多様性と一体であり、「脳多様性」に基づいて、マイノリティの「脳」をもつ者に最適な社会活動の場をあたえれば、社会の生産性を最適化して向上させられるとする。

「脳多様性」の概念を理解するには、まず「発達障害」という概念をよく理解しておかなければならない。

というわけで入り口の「発達障害」からはじめたこの動画も、今見ると解説が拙すぎる。わたしの動画としては再生数が伸びているほうだが、伸びている動画ほど修正したくなるのが無念である。

この動画のために買った資料のなかに、これ以後の『発達障害』シリーズの元ネタになった本があった。
BLUE BACKS の『自閉症の世界』(スティーブ・シルバーマン著)がそれである

この本では、自閉症者の奇妙な振る舞いと翻弄される家族、ハンス・アスペルガーとレオ・カナーからはじまる「自閉症」の概念の混迷と発展の歴史、そして発達障害の概念が普及され始めた現代の自閉症者の活動が、アメリカを中心にして総合的に語られている。
「自閉症」の概念の発展史が平易な記述でまなべる、すばらしい名著なのだ。

もっとも、これに語られているハンス・アスペルガーの人物像は古い。翻訳にも問題がある。にもかかわらず、自閉症と発達障害、「脳多様性」を理解するための大いなる骨格となってくれる教科書である。このテーマに興味がある人ならば一読するべきだろう。

『自閉症の世界』の末尾近くですこしだけ触れられている「脳多様性」にゆきつくために、けっきょくこの本の過半の内容を動画化するはめになった。

発達障害②「ハンス・アスペルガーVSレオ・カナー」【前編】偉大な精神科医はなにを見たか。

あくまで“「脳多様性」にたどりつくために”、『自閉症の世界』に収録されている、自閉症をめぐる精神医学者たちの物語をなぞることになった。じつに迂遠な話である。なぜそうなったか、今では自分でも覚えていない。

ハンス・アスペルガーについては以下の名著をもとにしてあたらしい動画を上げたいが、いつ実現するやら。

この動画以来ながながと続けることになった『発達障害(および反ワクチン)』シリーズの主人公は、以下の三名だった。

・人呼んで「発達障害の始祖」たる、ナチ政権下のオーストリアの小児精神科医ハンス・アスペルガー(Hans Asperger 1906-1980)

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・レオ・カナーが唱えた『冷蔵庫マザー仮説』を独力で論破した、米国の素人医学研究家バーナード・リムランド(Bernard Rimland 1928–2006)

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・アスペルガーとレオ・カナー両名の仮説を結合して、現代の自閉症スペクトラムひいては発達障害の概念を提唱した、英国の精神科医ローナ・ウイング(Lorna Gladys Wing 1928–2014)

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途中で反ワクチンにテーマが逸れすぎて、わたしとしてはシリーズが未完のままで完結したかのようになっているが…

発達障害③「ハンス・アスペルガーVSレオ・カナー」【中編】冷蔵庫マザーたちの悲憤

カナーの『冷蔵庫マザー仮説』に乗っかって一時的な名声を得た山師
ブルーノ・ベッテルハイムの話は、『自閉症の世界』の記述がソースである。

動画映えするあくが強い人物なので助かった。こんなレアな傑物を解説する人はほかにあまりいなかろう。彼の悪行は、反ワクチン編まで活躍してくれたリムランドおじさんの登場につながってゆく。

発達障害④『行動主義心理学とビタミン仮説。リムランドのその後』

バーナード・リムランドの登場から、彼の堕落、反ワクチン編でときおり見せる暗躍までは、主なソースが『自閉症の世界』である。日本語のWikiすら執筆されていない彼には、ほかに日本語のソースがありそうにない。
反ワクチン編で語られた『DAN!(Defeat Autism Now!)』のあたりまで来ると、『自閉症の世界』では記述が尽きているので、自分で英語サイトを捜索して情報をまとめた。Google翻訳がある今日だからこそできる芸当だった。
わたしの性分として、だれもやっていないネタばかり盛込みたくなるので、非日本語ソースしかないネタは大好物である。

発達障害⑤『ローナウイングの使命』

ローナ・ウイングが登場した、この回はわたしの推しなのだが、再生数とコメントの伸びがわるくて残念だった。わたしが自信をもって出した動画ほど伸びないように見える、また自信をもって盛りこんだギャグほどスルーされるのはいつものことである。

ローナ・ウィングが自閉症の人々のために生きることを決意した今回は、後二篇につづいてゆく。

発達障害⑥『アスペルガー症候群と自閉症スペクトラム/ハンス・アスペルガーの運命』

ローナ・ウィング篇PartⅡの今回は、ウィングが「アスペルガー症候群」、そして「スペクトラム」という概念を誕生させるまでを語る。

なにげに「脳多様性」も、ここでサラッとやってしまった。本来の目的が達成されたようなものだが、もうそれどころではない。「自閉症の世界」を動画化するプロジェクトはまだまだ続くのだ。

ハンス・アスペルガーの墓所も訪ねてみたい場所である。海外旅行にもともと興味はないが、敬愛する偉人のゆかりの地ならば…つまり墓参りならばしてみたい欲がある。

発達障害⑦『ロバートスピッツァー:DSM-Ⅲに至る道』【ゆっくり解説】

アメリカ精神医学会が発行する精神障害の診断マニュアル『DSM』の成立ちの回は、もちろん『自閉症の世界』がおもなソースである。この本はじつに守備範囲が広いのだ。

この動画をつくったことで、ロバート・スピッツァーという人が知れたのがよかった。自閉症患者の自分として親しみが持てる人物だった。このような人物でなければ、真の科学は実践できない。

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wikiによると、スピッツァー氏は若いころにヴィルヘルム・ライヒという人物に関する論文を書いて、雑誌に掲載を拒否されたそうだが、このヴィルヘルム・ライヒという人物は傑作なので動画のネタになると、いまこの原稿を書いていて気づいた。彼のオルゴン理論は後世に語り継ぐべきだろう。

発達障害⑧『DSM-Ⅳ & DSM-5 自閉症スペクトラムの完成』【ゆっくり解説】

DSM-ⅠからDSM-Ⅲまでの開発史をたどった前回につづき、今回はDSM-ⅢRからDSM-5(DSM-Ⅳまで?)までを追った。

この辺で、現代精神医学の解説者みたいになってきた。『自閉症の世界』一冊を動画化して手探りでつくっているだけなのだが、自分でもおどろくほど、視聴者から動画に高い評価をもらっていた。
バズるわけではないので視る人を選ぶのだろうが、視てくれる人からは確実にお褒めいただける動画をつくるべきだと、このDSM篇あたりで悟った。

上記の『自閉症の哲学 構想力と自閉症からみた「私」の成立』は、自閉症を形而上学の視点から考察する“自閉症の哲学”の入門書として最適な書物である。ローナ・ウィングの弟子たちと精神分析の大家の概念を引用して、「自閉症」をより深く理解する助けになってくれる。

自閉症、ひいては「発達障害」という概念を理解したい初学の人間は読むべきである。

まとめ

次回は、反ワクチン篇の裏話を書きます。

この「発達障害」篇は、ほかならぬわたし自身が発達障害者だから発達障害に興味をもってテーマに選んだのだ、と視聴者に思われているだろうが、わたし本人にとってはべつにそんなわけでもなかった

最初に記したように発達障害を解説し始めたのは「脳多様性」の前段であり、一つ目の動画を作りはじめてから、自分が『自閉症スペクトラム』の診断書を持っていることを思い出した
『自閉症スペクトラム』の患者になったのも、もともと自分のことで悩んでいて医者に“発達障害の診断をクレクレ”君をしにいったのではない。人にそう勧められたので行ってみただけである。
おもいかえすとあの人は恩人だろう。発達障害の資格(?)を得たから、障害者枠でA型作業所に通うことができている。発達障害は人を救う概念なので、クレクレ君をしに行く人たちの気持ちもわかる。医学的な厳正さを失うわけにはいかないが、より多くの隠れ障害者たちに幸があれかし。


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