復縁できなかったら死のうと思ってた➀復縁地獄と目が合った日

私の人生で一番幸福な思い出は、元彼である。
元彼は2022年からわずか一年足らずしか付き合っていなかったが、間違いなく私の人生の中で一番幸せをもたらしてくれた人であり、一番どん底の深淵に突き落としてくれた人でもあった。

別れの時は、何気ない日常に突然やってきた。忘れもしない、2022年の10月である。2人は同い年の23歳だった。
「私に何か言いたいことある?」と聞いた時、まさか「別れよう」だなんて、そんな言葉が彼の口から飛び出すと思わなかった。私の直近の言動が彼を深く傷つけてしまったのか?と焦ったが、そうではなくて元から別れを考えていたとのことだった。
突然すぎたその言葉が受け入れられるわけもなく、夜の公園で二時間は話し合ったが、彼の決意は話し合えば合うほど固まるばかりだった。
別れたい決定的な理由は、「〇〇のことは嫌いじゃない」「君が親と仲が悪くて将来が見えない」「僕の両親とも仲良くして欲しいけど、君は僕の親にもあまり気に入られていない」といったものだった。

彼らしいなと思った。周りの人間を大事にしそれがアイデンティティとなっている彼から出た正直な気持ちだと思った。私が毒親と絶縁状態なのは、もう十年単位で積み重なった闇に背を向け、やっとの思いで逃げた結果なので正直どうにもできないと思った。彼のご両親に気に入られていないことは自分のコミュ障な態度が招いたことだから自分のせいだが、今振られようとしているほど難色を示されているのだとしたらここから挽回するのは無理だろと率直に思った。

私が過呼吸になるくらい泣きわめいても、彼の結論は一ミリも動かせずに終わり、私たちは駅まで歩いた。私たちは別れることになったらしかった。現実感がなく、「でも正直に言ってくれてよかった」「最後まで優しいね」などと、まるカットがかかるのを期待しているかのように台本みたいなセリフをひたすら呟いていた。

その日から、彼が私の人生から消えた。
死んだわけじゃない、ただ別れただけだと頭では理解しているはずなのに、食べ物は一口も喉を通らなくなった。全くお腹が空く気配もなく、水以外受け付けない日が一週間続いた。
眠れば彼が夢に出てきた。夢の中ではいつも通り、幸せな時間が流れた。彼の睫毛の長い目がこちらを見て、優しく笑いかけた。起きて現実に引き戻されるたび号泣して、こんな残酷な夢を見せてくる自分の脳みそを呪った。

ご飯が食べられないので顔は青く表情はなくお腹は痛く、ぼーっとしていると彼の顔が浮かんできて号泣&発狂し、人間の形を保っていられなかった。ふと、「復縁」というワードが頭を掠めた。「復縁」できたら、私は人間に戻れるだろうか。彼という光がなければ、私はこの部屋のカーテンすら開けられないまま死ぬと思った。

その日から、「復縁」というワードが私の生きるためのお守りになった。完全に復縁地獄と目が合った瞬間だった。

復縁について調べられることは調べ尽くした。webサイトは調べ尽くし、YouTubeを見漁った。復縁させ屋とか、復縁アドバイザーとか、ニッチなビジネスが意外と世の中にはあることがわかった。Twitterでは復縁垢を作り、同じような境遇の人たちの呟きを見ては心の拠り所にした。

復縁と調べると必ず出てくるのは、「冷却期間」「自分磨き」の二つだと思う。私は別れてから一カ月間、彼には一切連絡せず、大学の授業や内定者イベントに出席し、バイトをハードにこなした。
ふとした瞬間にどうせ無理だと死にたい気持ちになったら、彼のまだブロックされていないインスタを見て新しいフォロワーが増えてないとか、私と行った場所の投稿が消えてないとか、LINEの壁紙が二人で行った場所のままとか、そんな些細な事実を一日に数十回は確認して、ようやくまともに食べたり寝れるようになった。

この時点では全く吹っ切れたとは言い難い。ただ彼という存在を神様のように崇め、復縁というお守りを手に入れて信仰し始めただけだ。そもそも吹っ切れたと言い切れるようになるには一年かかった。それだけ私は彼に、復縁できる可能性に、自分の未来を託し依存していた。

我ながらしょうがない人間だと思う。他人がこの状態だったら説教して頭をはたいてやりたい。生き方が危なっかしすぎる。見ていて恐怖を感じる。近年流行りの「依存先を分散させる」とかいう素晴らしき大人な生き方の真逆をいっている。友達もいなく、どこにも自分の居場所もなく、彼氏どころか元彼と復縁できる可能性にしがみつくなんて。

これは、私が復縁できなかった物語だ。復縁を否定するわけではなく、復縁できたら一番良かったけど、できなくて諦めたのだ。それでも立ち直り、彼がいなくても生きていけるようになってしまったのだ。
復縁できなかったら死のうと思っていたかつての私に、復縁できなかったら死のうと思っているあなたに捧げたい。

第一章おしまい



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