黄昏の秋、届かぬ想い
夕暮れ時、夏弥(かや)は決まって療養院の中庭にあるベンチに腰掛け、ただ独り、庭の中心に立つ梧桐の木を物憂げに見上げていた。
秋が深まるにつれ、梧桐の葉は徐々に黄金色に染まっていく。初秋の夕風が吹き抜けるたび、2、3枚の葉が梢から舞い降りる。大きく成長した梧桐の葉は地面に触れると、カサリという乾いた音を立てる。まるで世界の終わりを思わせる静寂の中、その音は驚くほど大きく響いた。
カサリという音が耳に届くたび、夏弥は自分の命もまた、あの葉のように一枚ずつ幕を下ろうとしているのだと