お酒の代わり、ではない魅力とノンアルコールブームと言われる理由
平日毎日自宅のキッチンでつくったドリンクをTwitterに投稿しているのですが、ノンアルって実際どうなの??と聞かれることが増えてきました。
ノンアルコールビールなど、スーパーにノンアルコーナーが設けられているのは珍しい光景じゃなくなり、ディナーやオンラインでの飲み会でお酒を飲むひととノンアルを飲むひとが混ざって乾杯することもよく目にするようになってきました。
ノンアルコールのD2Cブランドやノンアルコール専門のバーが生まれ、各飲料メーカーも新たなノンアルコール商品を打ち出すなど、新たな商品が続々と生まれています。2020年、ノンアルコール、オルタナティブ・ドリンク専門商社の株式会社アルト・アルコは、は4月1日に「2020はノンアル元年」とApril Dreamのプレスリリースを出しました。
昨年からの感染症の影響により健康意識の高まりが加速した事に加え、バー営業自粛中にモクテルのテイクアウトを行ったりノンアルコールメニューを充実させたりするお店も多く見られました。
ネット上でもノンアルコール市場やモクテルに関する説明する記事が増えるなど、期せずして以前よりノンアルコールが受け入られやすい状態になってきたと感じています。
とはいえ、ノンアルコール業界は創造期。流行ってるって実際どういう状態でどういった物であるのかが一見わかりにくい部分もあるのかな、と思います。(ジュースじゃないの?など)
日々どんどん進化するノンアルコール飲料はいまやお酒を飲めない人のためだけではありません。あらためていま、わたしが感じていることをまとめたいと思います。
いくつかの参考文献からわたしなりの考えや推測も加えたところもありますが、よければ参考にされてみてください。
2020年のノンアルコール市場の変化
これまでノンアルコールビールをはじめとするノンアルコール飲料は、体質や妊娠、ドライバーの方などあらゆる状況で飲酒ができない時の飲み物、というイメージが大きかったように思います。
しかし感染症拡大以降、生活の変化で運動不足や体重の増加、飲酒量が増えた、などの理由から普段アルコールを飲む人が健康面を意識してノンアルコール飲料を選択する事が増えたとの統計が出ています。(ノンアルコール飲料に関する消費者飲用実態・意識調査サントリー ノンアルコール飲料レポート2020)
ステイホーム中に晩酌時間が増え、ついつい普段よりビールを飲みすぎてしまったという方も少なくないのではないでしょうか。日常的に晩酌をするわが家でも家で飲むお酒の量が増え、そして体重も増えました。。
ノンアルコール商品の売り上げは対前年101%、市場規模は引き続き拡大傾向にあると予想されています。
米国では、国内でノンアルコールビールの5月の売上高は前年同月に比べ44%増えました。当初各メーカーは主にミレニアル世代をターゲットに考えていましたが、パンデミック以降、あらゆる世代の人がアルコールを控えるのに関心があることがわかってきたといいます。
単にアルコールの代替え品ではなく、飲み物の選択肢のひとつとして、アルコール以外に炭酸飲料や水、ジュースに加え『お酒を飲むときのように楽しめる、満足感のあるドリンク』の需要が高まり、広がりをみせています。
アルコール戦略からうまれた『モクテル』
「ノンアルコールカクテルを意味する『モクテル』という言葉は、2016年頃ににイギリスの若者たちによりうまれ、世界の健康思考の流行りによって知られるようになってきました。」モクテルを調べるとこういった説明をよく目にします。
どうして『ノンアルコールカクテル』ではなく、言葉をもじった『モクテル』という言葉が生まれたのでしょう?気になって背景を探っていったところ、2010年にWHOが採択した「アルコール世界戦略」が少なからず関係しているのではないかと考えます。
近年、世界全体でのアルコール消費量が年々増加しており、ワインやウィスキー、ビール等、主にお酒の生産国が多いヨーロッパを中心に飲酒による健康被害、犯罪率が深刻化し、大きな社会問題となっています。
飲酒量が多く、アルコールの過剰摂取による社会問題が深刻化していたイギリスでは2016年にアルコール摂取量を抑えるためのガイドラインが新しく制定されました。
アルコール量をコントロールするための団体や禁酒月間をもうけ、ノンアルコールビールやドリンクを推奨するイベントなども行われています。仲間や家族と過ごす時間のコミュニケーションの場で起こる飲酒行動を、個人ではなくコミュニティで取り組む事で全体的な意識改革を行っています。
そういった流れのなかで、酒類を取り扱うバーやパブなどの飲食店でもアルコールの入らないドリンクメニューを充実させるためにクラシカルなノンアルコールカクテルのレシピをアップデートさせ、お酒を飲むような体験のできる新しいノンアルコールカクテルを提供し始めました。
新しいノンアルコールカクテルは『mock(真似)+coctail』を掛け合わせ、『mocktail(モクテル)』と呼ばれるようになります。
モクテルやノンアルコールのブームの背景には社会問題や政策、それに対応していくなかで生まれました。ノンアルコールであるにも関わらずお酒を飲んでいる時のようにバーを楽しむ事ができる新鮮さが受け、拡散されるようになりました。
ちなみに、2018年飲酒量ランキングで186ヵ国中63位だった日本での厚生労働省の飲酒に関するガイドラインは「節度ある適度な飲酒」と提唱されています。
日本のように規制がなく、お昼からビールが注文できたりどの時間でもコンビニやスーパーで手軽にお酒が買える環境は他の国ではあまりなく、めずらしいようです。(世界のアルコール消費量 国別ランキング・推移(WHO))
急成長しているノンアルコール商品
アルコールではクラフトビールやクラフトジンが増え、「酔うためのお酒」から、味の違いやブランドストーリーを楽しむアイテムが好まれるようになってきていますが、ノンアルコール商品もどんどん香りや味わいを楽しめるものに変化してきています。
フルーツやハーブなど、繊細な素材の味わいをより感じることができるところがノンアルコールの魅力ではないでしょうか。
果実やボタニカルを使用したビネガードリンクや蒸留技術を駆使したノンアルコールスピリッツ、食事とのマリアージュを意識したワインオルタナティブなど、複雑な香りや満足度の高いノンアルコール商品が国内外で生まれています。
-オルタナティブドリンク
アルコールの代わりの飲み物、という意味で「オルタナティブドリンク」「オルタナティブアルコール」と呼ばれるノンアルコール商品が増えてきました。お酒のようなパンチのある味わいや奥行きのあるフレーバーが特徴です。
ワインのように料理とのペアリングをイメージして作られたオルタナティブワイン「ノン(NON)」や、アメリカの禁酒法時代に酒の代わりに飲まれ、カクテルの材料にも使われていた“シュラブ”というビネガードリンクを現代に合うようにアレンジを加えた英国発の「シュラブ(/shrb)」など、単にドリンクとしてだけではなくペアリングやお酒のように飲める体験の提案をしているところがこれまでのノンアルコール商品と違うところ。
日本でも日本酒の吟醸香を再現したノンアルコール日本酒や、ビネガードリンク など、続々と商品が出てきています。
-ノンアルコールスピリッツ
ミシュランの公式パートナーにもなったイギリスのseedlip、ノンアルコールジンNEMA、のんなどのノンアルコールスピリッツはモクテルの材料として、カクテルのようにトニックウォーターやジュースなどと割ることを前提につくられています。
ノンアルコールスピリッツは、ジンやウィスキー、ウォッカなど蒸留酒(スピリッツ)をつくる蒸留技術を駆使して作られており、基本的に甘みはありません。蒸留により濃縮されたボタニカルがダイレクトに香り、好みでシロップを加えたり、果汁やお茶など組み合わせによって様々な味わいの変化を楽しめるところが特徴です。
ノンアルコールに求めるのは「選択肢のある時間」と「生活」
アルコールの過剰摂取による社会問題、バーテンダーや各飲料ブランドの味わいの追求により、従来のノンアルコールとは違った楽しみ方を提案する「モクテル」や「オルタナティブアルコール」が生まれました。
WHOの取り組みがどれほど影響しているかはわかりませんが、先進国では近年、ミレニアル世代の飲酒量が減少傾向にあります。「若者の酒離れ」や、飲みニケーションの場が以前より少なくなったとも言われていますね。
また、経営者やアーティストなどの著名人がSNSなどで禁酒をしているといった発言を目にすることも増えてきました。
一概には言えませんが、理由としてはSNSが生活の一部となり、オンラインでのコミュニケーションの場が増えたためと考えられています。
Instagramでは「暮らし」に関するハッシュタグが流行り、普段ではあまり見ることのなかった他の人の生活の部分がぐっと身近になりました。生活や暮らしぶりが自身のイメージと直結するようになったことでお酒を飲んだ時の行動をより気にすることが増えたように思います。
以前はバーが待ち合わせに使われたり飲食店や情報交換、コミュニケーションツールとしてお酒が飲まれたりしていましたが、欲しい情報がすぐ手元で得られる時代、飲酒行動の位置づけが変わってきているのではないでしょうか。
また、お酒を飲まないことで「選択肢のある時間の確保」が求められているのではないかと思います。
飲んだ後も運転ができたり仕事に集中できたり、フィットネスができるのはノンアルコールならでは。
生活様式が変わり、各々のライフスタイルや働き方が変化した現在、仕事とプライベートの時間がグラデーション化したという方も多くなりました。時間の使い方が自由になったことで、チルアウトできて飲んだ後も仕事に戻れる飲料としてノンアルコールドリンクが今後ますます注目されると思います。
ノンアルコールブームと飲食店
今後ますますノンアルコール市場が伸び、プロダクトや専門のバーやお店がもっと増えてくると思います。
ですが、ドリンクを扱う側としては現時点では飲食店で単純にモクテルやオルタナティブドリンクのメニューを増やすだけでは難しいなとも感じています。
ノンアルコールブームと言われているとはいえ、まだ認知度の低いノンアルコールメニューは、お酒のように量が飲めず二杯目以降の注文が入りづらい、アルコールが入っていないぶん保存ができない、素材にこだわるほど原価が高くなってしまうなど。。。話題としてはホットですがノンアルコールならではの弱点がいくつかあり売上となかなか比例しにくい部分があります。
まだまだおうち時間が大切とされる時期。飲料メーカーやECで購入できるノンアルコール商品やWebの記事などをメインに人の目に触れられる機会が増えてくるでしょう。
モクテルやオルタナティブドリンクが世間に浸透し市場が潤ってくると、更に専門性の強いお店が凝ったドリンクが増えるだろうな、と個人的にもわくわくしています。
引きつづき、ドリンクづくりをしながらノンアルコール業界の動きを見つめていきたいと思います。各国のノンアルコール事情や面白い商品など見つけたらぜひ教えてくださいね。
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華やかなシーンにぴったりのノンアルコールドリンクとアレンジレシピの記事の執筆をしました。よければこちらも合わせてぜひ。
https://www.vogue.co.jp/lifestyle/article/non-alcohol-drink-christmas2020
▽twitterで平日毎日オリジナルモクテルの投稿をしています#週日モクテル→#mixdrinkweekday
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