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11.クンティーの過去

クンティーがまだパーンドゥのもとへ嫁入りする前のお話。

ドゥルヴァサという聖者がいました。
彼は、怒りっぽいことで有名な人でした。

それはもう世界中で噂されていて、その結果彼は旅をすると行く先々で手厚いおもてなしを受けました。要はだいぶ怖がられていたというわけ。

ある時その聖者ドゥルヴァサが、クンティーの養父クンティーボージャの家を訪れました。
クンティーは父からドゥルヴァサをもてなすように言いつけられます。ドゥルヴァサが満足するように努めることは大層難しいものでしたが、クンティーは見事にやってのけました。

気難しいドゥルヴァサも彼女の働きにえらく感心し、快適な日々を過ごさせてもらったお礼に何かお返しをしたいと考えました。そこで彼女を自分の元に呼び出すと厳かに申し伝えたのです。

「おまえに一つ、マントラ(真言、聖典の言葉)を授けよう。
このマントラはな、神の顔を思い浮かべながら唱えるとな、
なんとその神がおぬしのもとにいらっしゃり素晴らしき命を授かる、というありがた~いマントラなんじゃ。
わはは、すごいじゃろ?お前はこのわしのためによく働いたからな、特別に託すんじゃぞ~~」

そう告げると、ドゥルヴァサは、大満足してまた旅立たれました。


はは~とありがたくそのマントラを受け取ったものの、
実はなんのことやらよく分かっていなかったクンティー。まだその頃はうら若き少女だったものですから無理もありません。

このマントラを唱えると何が起きるのかよくわからないけれど、ちょっと試してみたい!ときょろきょろ回りを見渡して誰もいないのを確かめました。

「確か神様のことを想いながらこのマントラを唱えるって言っていたっけ。
う~ん、誰にしようかな。ちょうど朝だし、太陽の神様を想ってみようっと」

何が起こるのかしら・・・とわくわくしながら、一心に太陽神スールヤを想いながら教えてもらったばかりのマントラを唱え続けました。

目を固くつむり手を合わせて祈ります。
すると彼女の瞼に黄金の光が差し込んでくるではないですか。

恐る恐る薄目を開けるクンティー少女。彼女の前には奇跡が起きていました。あまりの眩しさに息が詰まりそうになるくらい、神々しい輝きを放って、そこには太陽神スールヤが立っていたのです。

いたずらっ子のような笑顔を浮かべながら、
クンティーを見つめるスールヤに対して、思わず彼女は歓声を上げました。

「まあ!ドゥルヴァサ様の言うことは、本当だったのですね!ドゥルヴァサ様は神様のことをお祈りしながらこのマントラを唱えていると、その神様に会える・・とかなんとか?(それ以外にも何か仰っていたような気もするけれど忘れたわ)スールヤ様に実際にお会いできるなんて、なんて幸せなことなんでしょう!」

それを聞いた太陽神は、そっと手をあげて彼女の言葉をとどめると、
「そのマントラとお前の祈りを聞いて、私はやってきたのだ。
さあ、それではお前の願いを聞き入れよう」

「願い?願いなんてございませんわ。お会いできるだけで感動です」
クンティーは紅潮した頬のまま返答しました。

けれども太陽神は困ったように首を振ります。
「そんなことはないだろう。お前がそのマントラを唱えたということは、
そのマントラがどういう意味のマントラか知っているはずだ」

「え?意味・・・ですか?ドゥルヴァサ様は、ただ、このマントラを唱えると、私の元に神様がやってきて、、、とかなんとかしか仰っていませんでしたけど・・・」

「そうだ。お前の元に神と素晴らしき命が訪れる」
クンティーは困惑しました。
「もうスールヤ様はいらっしゃっています」
「さては、お前は本当に知らずに唱えたのか。私が現れるだけじゃない。そのマントラが発動すると神がお前の元にやってきて命を授ける、つまり、お前と子作りをするということなのだ
それを聞いてクンティーはびっくり仰天です。

「おお!お許しください。そのような意味だとは露知らず、スールヤ様に会いたい一心でマントラを軽々しく唱えてしまいました。どうか子供の間違いとお思いになって、今日はお帰り頂けないでしょうか」

事の重大さに気づいてきたクンティーでしたが、時すでに遅し。スールヤは首を振っていいました。
「いいや、だめだ。一度来てしまったからな。
約束は約束だ。守らなくてはならない」

(※祈りや呪いなどは一度発動してしまったら神も止められないのです。キャンセルもクーリングオフも一切不可!ただし注釈などを付け加えることはできますよ「お前なんてカエルになれ!という呪いをかけたあと、もしカエルのままジャンプ1億回したら人間に戻ってよし」とか。ここでは全然関係ない話ですが)

泣きながらクンティーは訴えました。

「でも、でも、私は、まだ結婚しておりません!
未婚で子供ができたなんで知られたら、世間はどう思うのでしょう?父はどう思うのでしょう??もう自分の娘が処女でないと知ったら、父は心労で倒れてしまうかもしれませんわ!」

「クンティーよ、それは大丈夫だ。私との間に子供は生まれても、処女を失ったことにはならない。子供を産んだらまた、今と同じように処女に戻れるから安心しなさい。誰もこのことを知るものはいないから」

もう拒む理由も反論する材料も見つかりませんでした。
さらに太陽神スールヤの魅力も相まって、
ついには、クンティーはスールヤの言葉に押され、彼を受け入れることになるのです。

スールヤは立ち去る前にこう言いました。
「私たちの子供は、いかなるものも貫通できない甲冑(カヴァチャ)と耳輪(クンダラ)を身に着けて生まれてくる。彼は素晴らしい弓使いとなりしかも不死身だ。我に誓って彼以上の弓使いはいない。世界に名を轟かす戦士となるだろう!」


しばらくして、クンティーは赤ちゃんを産みました。
スールヤが言う通り、生まれたばかりなのに既に立派な甲冑と耳輪をつけていて脱がすことができません。赤ちゃんをどうしたらいいのか途方に暮れてしまった彼女。親にはもちろん誰一人として相談することができず、思い余ったあげくに川に赤ちゃんを流してしまおうと決意します。

甲冑と耳輪を付けた黄金に輝く赤ちゃんを木の箱に入れ、
そっと川に入れました。まるで運命に翻弄されるかのように水の流れに乗って、どんどん遠くへ行く子供。
その子を見てはただただ心を痛め、クンティーは泣き崩れるのでした。

この赤ちゃんの名こそが、カルナ
のちに主人公アルジュナの世紀のライバルとなる男が、
どうやって数奇な運命をたどり成長していくのかは、また別の章にて。

《ガネーシャのひとりごと》
甲冑を着たまま生まれるって、どんな感じなのかな。金属アレルギーじゃないといいよね。

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