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1.シャーンタヌとガンガー女神

昔むかしのそのまたむかし。
インドにはクル族の子孫で、たくましく壮健なシャーンタヌという王様がいました。
シャーンタヌの唯一の趣味は狩りでした。
その日も狩りに夢中になって、
いつの間にやらガンジス川のほとりまで、さまよい出てしまいました。

するとそこには、この世のものとは思えないほど美しい女性が立っていました。
彼女の名前はガンガー

天界の女神であるガンガーは、金色の肌を輝かせ、
さらには豊かでゴージャスな黒髪をたなびかせ、シャーンタヌに向かって微笑んでいました。

シャーンタヌ、大いに衝撃を受けます。
恋のノックアウトです。
一瞬で気持ちを持っていかれてしまい、その場で愛の告白をします。
自分の財産も、名誉も、何もかもなげうってでもいいから、私と結婚してくれないか、と。

するとガンガーは、まるでそうなることを知っていたかのように、彼の愛の告白を受けました。

ただしこう付け加えたのです。

「嬉しいわ。あなたのお気持ちお受けします。でも、条件があるのです」

その条件とは、これから何があっても、シャーンタヌはガンガーがやることに対して文句を言わないこと。もし何か言ったら、その時点ですぐにシャーンタヌの元から去る、と言うのです。

もちろん絶賛恋わずらい中の彼にとっては、イェス以外の答えはありません。
シャーンタヌはその条件を飲んで、めでたく二人は夫婦となりました。

しばらくして、二人の間に子供が生まれました。
シャーンタヌは大喜び。
出産の報告を受けて、生まれたばかりの赤ちゃんの顔を見ようと、
シャーンタヌは急いでガンガーの元に向いました。
ところが、産後直後であるはずの彼女は、なぜかガンジス川にいると言うじゃありませんか。
不審に思いながらも、シャーンタヌは彼女の後を追いました。

するとそこで彼が見たのは、衝撃的なシーンだったのです。
というのも、母親であるガンガーが、
生まれたばかりの赤ちゃんを川に投げ込むところだったのですから。
「・・・!!」

シャーンタヌは言葉を失いますが、彼はあの条件を忘れてはいませんでした。何も文句は言えないのです。言ったらガンガーは、彼の元からいなくなってしまうのです。
目の前で起きた出来事は、あまりに不可解ですし、
理不尽な出来事ではありましたが、
ガンガーを失いたくない一心で、シャーンタヌは何も言わず、ただただぐっとこらえたのでした。

彼は悲しみの日々を過ごしていましたが、
しばらくすると二人目の赤ちゃんができたので、なんとか喜びを取り戻します。
ところが悪夢は繰り返す。
またもや生まれるとすぐに、ガンガーは赤ちゃんを川に投げ込み死なせてしまったのです。
しかも、三人目も、四人目も、五人目も。
というか六人目も、七人目も。

そうです。なんとガンガーは七人身ごもり、結局七人すべてを死なせてしまったのでした。

それでもシャーンタヌは変わらずガンガーとの盟約を守り、変わらず愛し続けたのか。
・・・いいえ。
さすがに無理でした。

八人目の王子が生まれたとき、ついにシャーンタヌはガンガーを問いただしたのです。
「ガンガー!もう私は耐えられない!その子もまた川に流すんじゃないだろうね?頼むからもうやめてくれ。その子はハスティナープラの大事な世継ぎなんだから・・・」

それを聞いたガンガーの表情は曇り、しばらく沈黙したのちに、彼女はゆっくり言いました。
「せっかくここまで来たというのに・・・あなたは私との約束を破ったのね。
決して私のすることに意見をしないで、と言ったはずよ。
私はあなたのもとを去らなくちゃいけないわ」

「どうしてなんだ?なぜ自分の子供を殺すのだ?」
シャーンタヌが不思議に思うのも当然です。

すると、ガンガーはおとなしやかに、話し始めました。

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「あなたは覚えていないかもしれないけれど・・・
私たち、昔は天界でも結ばれていたのよ。

ある時、神々が集う会があって、沢山の神々が集結したわ。会の最中たまたま突風が吹いて私のスカートがめくれ上がったの。みんなは儀礼として、目を背けたのに、あなただけは背けず私のことを直視してしまったから、ブラフマー神に怒られ、呪いをかけられそうになったことがあったでしょう。

どんな呪いになるかはらはらして見ていたけれど、あなたは王仙プラティーパの子供(つまりシャーンタヌ)になるという呪いなら受け入れると訴えたの。それがなんとか認められて、あなたはこの世界にシャーンタヌとして生まれたのよ。覚えてないのね・・・」

そうなのです。
そんなしょうもない事で天界から人間界に追放された上、一切覚えてないシャーンタヌなのでした。

ところがガンガーは、シャーンタヌが人間界にいったあとも、一途に彼のことを想っていたのでした。
どうにかシャーンタヌに会いにいけないだろうかと考えあぐねていた時、
偶然にも、8人のヴァス神たち(ヴァス神というのは自然現象を神格化した神々のこと)に出会ったのです。
彼らは非常に困った状態にいて、わらにでもすがる気持ちで、
ガンガーに相談し始めました。

まあなんだかんだあったのですが簡単に言うと、
8人のヴァスたちは、ヴァシシュタ仙に悪さをしたせいで呪いをかけられてしまったのですが、
その呪いというのは
『人間界に追放』
という天界に住む者たちにとってはがっかりなもの。
とはいえ、その呪いには救済措置的な条件がついていました。

『ただし、人間の子供として生まれた瞬間に死ぬと、
呪いが解けて、また天界に戻れる』

なんて言う、若干ややこしいものでしたが。

ヴァスたちはそこで、ガンガーにこのような願いをしました。

ガンガー女神よ!
私たちを天界に戻すために、人間界にいってシャーンタヌと夫婦になり、私たちの母になってくれないか。そして私たちを生んで、すぐに死なせてくれないか。そうしたら、私たちは呪いが解けて天界に戻れるんだ、と。

ガンガー的にはシャーンタヌに会いたかったので、いいでしょう!と二つ返事で、人間界に降り立ちます。

このような経緯があって、最初に描かれたあのシャンタヌとの出会いが始まり、ガンガーの謎の赤ちゃん投げ込み事件が行われたのでした。

遠い空を見上げていたガンガーは、シャーンタヌへと振り返りました。
「7人の子供たちはみんな天界に帰っていったわ。だけど8人目だけは、もともとの呪いが人間界で末永く生きるというものだったから、最初から川に流すつもりはなかったのに。あと少しだったのよ?でも決まりだからしょうがないわ。私はあなたのもとを去ります。
この子と一緒に。
でも、安心して。
必ずこの子を天界で立派に育てて、あなたのもとに送り届けてあげるから」

そういい残すと、本当に子供を連れて天界に去っていってしまったガンガー。

シャーンタヌは、とても立ち直れるというものではありませんでした。
途方に暮れ、未来への一切の希望を失った彼は、一切の肉体的な欲求をなくし、ただただ国を治めることだけに、専念するようになりました。

【ガネーシャのひとりごと】
僕、恋のことはよくわからないけど、
好きな人と別れるのって、すっごくつらいんでしょうね。
しかも、彼は前世でも一回ガンガーと離れ離れになっているでしょう?
まあ、彼、前世のことは忘れちゃっているみたいだけど。

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