暖かい雪



子供の頃からそうだ。この町の朝に降る雪はふわふわと舞い降りる。

雪の結晶が優しく重なり合って、お互いの形を守っている。

コートの表面に着いた雪は長らくその結晶のままだった。分厚いコートは、肌の熱なんか通さない。コートに様々な形の結晶が付着する。朝の雪は肉眼で結晶の細部まで観察できる。

しかし見入って近づきすぎてしまうと、吐息がかかって、結晶はじんわりと端から溶けていく。溶けないように、溶けないように、息をひそめて、一瞬の美しさを目に焼き付ける。

ひとまとまりの雪の中に沢山の結晶が身を寄せ合っている。お互いの美しさをたたえ合いながら、空から地面までを共に過ごす。

いつか溶けてしまうのなら、誰かの心に残るように舞っていたい。隣の素敵な結晶と違うからと嘆かないで、与えられた形を冷えた空気で研ぎ澄まして、輝きを増せたらいいのに。

いつか溶けてしまうのなら、いくつかの結晶とひとつの形になって、この寒い季節を共に過ごせる喜びを分け合えればいいのに。

いつか溶けてしまうのなら、一緒に舞い降りようよ。きっとこの町の朝を少しは明るくできると思うから。暖かな気持ちで、寄り添うように、朝日に照らされながら。

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