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【詩】かくれんぼ

もういいかい
もういいよ

朝7時起床するなり
こんな声を聞いた
一体誰の声だろう?

そそくさとサンドイッチを平らげて
外に日課の散歩に行くことにした

まず出会ったのは
バス停近くの寒緋ザクラ
辺りを照らすほどに明るい
濃い桃色の花が
ホクホクと咲いている
僕は夢中になって
カメラのシャッターを押す

もういいかい
もういいよ

次に出会ったのは
道端のユキヤナギ
真っ白で可愛らしく
控え目に小さな花々が
群れて咲いている
僕はその小さな小さな世界の
小さな小さな一輪を
接写するべく慎重に
シャッターを押した

もういいかい
もういいよ

最後に出会ったのは
ソメイヨシノ
たった一本爛々と枝を広げ
見事なまでに花を咲かせている
花盗人……花盗人……
そう呼ばれながら
この豪奢な木の前で
シャッターを押した

もういいかい
もういいよ

まだ聴こえるあの声
約一年間かけて
花々が楽しんでいたかくれんぼ
悠久の時の流れの中で
行われる盛大な遊び

晩春に逃げて
枝の中に 茎の中に
隠れていた花々を
僕は花盗人となって
次々に捕まえていく

もういいかい
もういいよ

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山下英治
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