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【詩】モダン・ネオ・ロマンティシズム

秋晴れの午後三時
近くの喫茶店へ詩を書こうと
雑然とした自分の部屋を後にした

習慣となっていることだが
まず空から降る光の色を確かめた
あえて言うとパステル・イエロー
乳白色したマンションが
うっすらと黄味がかっているようだった

喫茶店まではバスで5分くらい
ショッピングモールの中の
小さな部屋の戸をそっと開ける

選んだのは段差のある喫煙席
壁に掛けられたセザンヌの名画
「トランプをする人々」 の複製画
その中の男がにやりと笑う

スティーリー・ダンの音楽以外は
ひっそりとしている店内
そっと席に着くと
ペンとノートを取り出して
とりあえずといった感触で
思いつくまま情景を書き出した

 秋陽が西に暮れようとしている
 パステル・オレンジのような
 光を前に微かな疲れを味わっている

そしてこう続けた

 千里で過ごした平凡な日々
 つまらないのではない
 これこそが平和なのだ
 この平穏な日々を
 内なる情熱で支えて
 必死で守らなければ

サラサラとペンの流れる音が
しばし止まった
僕は沈黙している
目の前のモカを飲む

執筆のことなど
忘れそうになるくらい
この喫茶店のモカは美味しい

持ち込んだ詩集に目をやる
詩行を夢中になって読んでみた

言葉の連なり方と
行から湧き出すイメージと
どういう綾を成しているのか
分かる 分かるんだけど 書けない
僕にはこんな風には書けない
ただ自分の書く詩行の
綾なんてものは
今もってさっぱり分からない

ああ 喫茶店は各々の宇宙だ
束の間 空間を買うという
ある種のエンターテイメントだ

僕はサッと席を立ち
そのまま戸を開けた
惜しかったが僕は
その宇宙を去ることにした

秋陽が西に暮れようとしている
パステル・オレンジのような
光を前に微かな疲れを味わっている
この瞬間の木漏れ日の
暖かな陽だまりの優しさに
まさる恵みはないのだから
平和な日々を守らなければならない

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