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『子プリvol.1』 雑記①

年賀状を出さなくなって、もらわなくなって、今年の干支は何年なのかいよいよ分からなくなりました。
仕方がないので一回一回年齢から逆算しています。自分だけが拠り所です。年齢すら忘れた日にはもう散々ですが。
みなさんは今年が何年か分かりますか?
まだ1月だから大丈夫ですかね?(というかもうすぐ1か月が過ぎようとしているという事実よ)
はい、ねずみ年ですね。

おやおや?なにやらネズミさんたちが集まって『子プリ』なるものを作っているみたいですよ!?(隙のない完璧な導入だぁ...)

子プリとは?

子年歌人による短歌アンソロジー。です。受け売りです。
ねずみ年生まれが今回は13人集まって、それぞれ『ねずみ』の題詠1首と12首からなる連作を寄せています。しめて13^2=169首。
vol.1とありますが、去年にも発行されていて実はこれが第2号。
ネットプリント形式で今年の1月9日から1週間公開されていました。
ネットプリントでの公開期限は過ぎましたが、なんと!PDFで引き続き読むことができます。↓コチラ
https://drive.google.com/open?id=1csiGZGzuMV3BhTjQyoOHwkoS3SErmouq

僕も去年から2年連続で参加させていただいております。
結構頑張ったつもりです。いや、どうかな。うん、頑張りました。
いずれにしても読み応えのある作品集だと思うので、気が向かなくてもぽちっと開いてみてくださいな。


といったところで、参加者の連作の感想を書いていこうかというのがまあこの記事の趣旨で御座います。
基本的にいいなと思ったところをただただほめていくスタンスで行こうかなと思います。
癒着っぽいですか?いや、僕自身否定的な言葉の方が簡単に出てくるんですけど、別にいい気がするものでもないのでね。重みのあるありがたい批評かといわれるとすぐに否定できますし。
もし突っ込んだ意見が欲しい方がいたらお知らせください。業務連絡でした。


全体として

前回もそうだったんですが、デザインがすごく素敵です。
連作には背景の画像がついていて一人一人の連作に存在感があるところが、このネプリの強い特徴として定着した感じがありますよね。
それが企画、主催から編集までを行った、参加者の一人でもある若枝あらうさん一人の手によってなされていることを考えると、改めて驚かされますし、参加者としてただただ頭の下がる思いです。
テーマ詠の並ぶ順番がその後の連作の順番に従っているところなんかも細かい気配りが行き届いていて良かったと思います。

詠草の締め切りや発行日が年末年始に設定されていたため、年末年始や冬を題材にした連作が多かったですね。
一つのネットプリント作品として考えれば当たり前っぽくもあるんですけど、一参加者として、子年生まれという無いようなあるような微妙なつながりがあるメンバーがいて、それぞれが自由勝手になんかしてるみたいなところに子プリのおかしみを感じていまして。
だから季節感による統一感みたいなものが少し生まれていたな、まあ冬のネプリのひとつですよみたいな雰囲気がちらちら見えちゃっているなと思いました。
もちろん一人一人を見ればそれぞれ特徴がしっかりと出ているんですけれどね。
後ほどでそれぞれの素晴らしさは語らせていただくとしまして、つまり何が言いたいかというと、
…いや、無責任なことは口が裂けても言えないです、ええ。


さて、ここからはネタバレありです。ご注意を。

いいですか?では。

『TT』 キール

中学校の国語教師が主体の職場詠。
学校という多くの人になじみのある場所が舞台なので、描かれている光景が共通認識のようなものとしてすぐに浮かんできます。
だけども教師の視点を通すとまた違った可笑しさがあったり感情が表れたりと、お仕事小説のような要素も感じました。
そういったこのテーマだからできるいいとこどりにちゃんと成功していてすごいなと思います。
たぶんそれは歌のシーンの選び方が巧みなのと、淡々と書いているので読者がいろいろなことを思う余地があるからなのではないかと思いました。

黒板にうっすらのこる「黒船」の上に「メロスは激怒」と書けり

淡々と描いているのが特に活きているなと思うのがこの歌です。
前の授業の板書が消え切れていなくてうっすらのこっている。あるある。
ではうっすらといってもどのくらい残っているのか?
僕は最後の「けり」から、先生くらいにしか見えないくらいの残り方が浮かんだんですがどうですかね。十分に消されていなくて怒りたくなるようなものではなく、一人気付いてふふってなるくらいな。
このくらいの空気感がシーンにあっているように思いました。
しかも激怒って書いているから読んだときに受ける印象が強くなりそうなものですけど、そこはかぎかっこがうまく効いていると思います。
書かれた2つの言葉の選択も面白いなと思います。日本人が書いたペリーの肖像画がぱっと浮かびました。

『今年も持久走』 深山静 

恋愛短歌の連作です。
すごく純粋。
違う言葉で言えば「普通」になるんですけど。主体の行動とか感情とか。
普通に笑うし普通に好意を示しているし、けど過度に気を引く行動もしないしオーバーな感情表現があるわけでもない。それは性格としてそうなのだと思うし、だから持久走の恋愛が続けられた、続けられる、のだろうなという気がします。
だから連作中にたびたび見せる寂しい感情が刺さるよ。
要するに何が言いたいかというと、連作の中で一貫した主体の描写が見事なのと、連作中にワードとして1度も出てこないタイトルの「持久走」がうまいなということです。

あと、連作の5,6首めくらいでこの連作は冬の光景なのだとわかったんですけど、始めのほうの歌を冬の作品だと思って読み返すと、寒さが加わっていいなと思いました。
(タイトルからして年末年始の話ととらえる人も多そうとは思いますが)
(背景の画像からして冬ですね。今気づきました。それにしても本当にいい画像を選んできますね~)

約束は上書きをして痛みすらなかったことにスタンプ連打

軽率にエモいって言っていいですか。エモいです。
「なかったことに」で止めているのがいいですね。
なかったことになるわけではない。そうなんだけどならないわけでもないような気がして。どっちにも振られていないような。
すると感情の部分がぽつっと白抜きになって、この歌の状況だけが切り取られて強調されてくる感覚になったんですよね。でさらに痛みが切り取られて僕にまで刺さってくるような。
うーん、大丈夫かな...エモいを言語化するの難しいですね。
この歌は先ほど言った始めのほうの歌なのですが、冬を付け加えて読むと、むき出しの手の冷たさまで浮かんでくるようでした。

『少女風花』 花房香枝

ストーリー仕立ての作品。作者のへきを感じました。
...褒めてますよ?ほんとに。好きなものを語る人の熱さが僕はたまらなく好きです。
(別にそういうわけではないのだったら申し訳ないのですが。)
どうしてそう感じたかというと、連作の中で流れる時間が短いこと。そして物語の主役である少女の描写を並べていること。なんと12首のうち11首に「少女」と詠み込まれているのです。
なので初読時はちょっとびっくりしたんですけど、惹かれるものがありました。

正直に申し上げますと、タイトルの意味が全く分からなくて。ふうかって誰ですかって思ってました。
というわけでこれを書くにあたって調べさせてもらったのですが。
まず読み方がふうかではなくかざはななんですか。しょうじょかざはな。6文字ではなく7文字なことが分かりました。タイトルは6文字より7文字の方が嬉しい感じがしませんか。
風花とは、晴天時に雪が舞うようにちらちらと降ること。またその雪。
なるほど。
これを知らないでこの連作を読むことはできないなとさえ思いました。無知ですいません。
というのも、風花というイメージがあるだけで、描かれている少女のリアリティが段違いで。
ごめんなさい、これだけ書いてやっとスタート地点に立ったというだけの話でした。
とはいえ遠回りをしたものの、この挑戦的な連作は作者の巧みな表現力によって確かな成功を収めたとはっきり言うことができます。素晴らしい。

つめたいと少女は笑うそこだけに冬の気配が降っていました

連作の性質的に1首を切り取ってこれがいいって言うことがあまり大事ではないようにも思うのですが簡潔に。
風花を調べた後で特に大きく印象が変わった歌です。
短歌の中に出てくる「だけ」、結構見かけるのですが、本当かよって思ってすごく気になってしまうんですよね。
この歌も最初はそうだったんですけど、今はむしろだけしか無いなと思っているほどです。
風花たる少女を丁寧に描く上での言葉選びを凄く考えたのだろうなと思います。それがこの歌を筆頭に至る所で光っているなと思いました。

カレンダーを捲る ことり

最初の「カレンダー捲らず」がすごい。これは一番始めに言いたかった。
説明すると、この連作は1首が月を表していて、1月から始まり12月までを12首で一巡りする展開になっています。
1番始めの歌の初句からいきなりカレンダー捲らずと来る。
言葉遊び的、遊ばれている感覚になる面白さももちろんあるんですけど、僕が触れたいのはいわば謎を提示していること。この早さで。捲るのか捲らないのか。
そして答えがでるのは1首目の中なんですよ。速い。
1首目には「睦月」と読み込まれていて、だからこの歌は1月の歌で、だからカレンダーも捲る必要がなくて、これからカレンダーを捲るように展開していくのかと。すべて謎が解けてしまうのです。
そしてこの謎が解けた結果、最初に説明したこの連作の構造が1首終えた段階で早くも理解できる。
だから2首目を読んで、予想通りバレンタインデーの歌が来てちょっと嬉しさがある。
そして何よりこれ以降は歌の鑑賞に集中できる。これが大きいなと思います。
12首連作、12と聞いて、干支と同じくらいに月は連想しやすいから、意識的もしくは無意識的にこういう流れで読めた人は多いんじゃないかなって思ってます。
僕も参加するにあたってどういう連作にしようか考える中で、1月から12月までで1首ずつ作るというアイデアはあったんですけど、こうも上手くはできなかったでしょう。

もう夏じゃないけど秋でもない季節あなたは私のなんなのと問う

ここまで触れていなかったんですけど、この連作は恋愛の歌がほとんどを占めています。
あるいは恋人の存在がない歌にも、女心と表現していいような描写があります。
この連作の特徴である2つの要素が特に色濃く表れ、さらにそれが季節にうまく乗っている、この連作の特徴的な1首だと思いました。
確かにちょうど夏と秋の間だなと思う季節ってありますよね。
でも実はそれってどの四季の間でも感じることはあると思うんですよね。
そしてこの歌の季節にどれを当てはめても歌として成立すると思うんですよ。メタ的なことを言ってしまうと。
でも女心みたいなことを言うならば、秋のどことなく寂しくなる季節に向かっていくような、夏から秋の間が一番しっくりとくるななんて思いました。

ノクターン 己利善慮鬼

初読時に去年と似てる!って思いました。それについては後で。

ノクターンのように、静かな夜を思わせる連作です。
そしてそれこそがこの作品のすごいところだと思います。まるで本当にクラシックの1曲を聞いているような気分にさせてくれます。
個人的に触れたいポイントが2つあって、まずは連作の中の歌同士が近いこと。
作品の中に「雪」「星」「夜」「空」といった単語が繰り返し出てきます。(確認したら12首すべてにいずれかの文字は入っていました。)そもそもこの4つの単語自体近い感じがしますしね。
9首目と10首目は上句が視覚的にも対比していたりもします。
そして2つ目のポイントとして、展開があること。
例えば、「雪」が入る歌は前半にほぼ集中しています。
そして、5首目の、

知らぬ間に降り止んでいたその雪が今年最後の雪だったこと

この歌で雪がぱたっと出てこなくなるのです。
こういったことを意図的にやっている。読者にも明らかにわかるくらい。
その結果、歌自体はどれも静かな雰囲気があるのですが、それが情熱的なうねりを帯びて連作の中に存在している感覚になりました。

傷跡は夜の帳に隠されて名も知らぬ星を辿り歩いた

傷ではなくて「傷跡」なのがいいです。
傷は絶対に黒じゃないけど傷跡は黒と言われたらそのイメージがしっかりできます。
そして傷は癒えても傷跡は残り続けるといった意味で、いつまでも続くような夜のイメージと近い気がします。
歌の中で「傷跡」に「夜」がしっかりと寄り添っていて、下句の壮大な展開をも支えるに足る強さを持っているなと思いました。

最後に、前回の子プリとの比較について。
慮鬼さんは前回『セレナーデ』という連作で参加していました。
ちなみに今回の連作の最後に「小夜曲(セレナーデ)」が読み込まれていてふふっていう気持ちになりました。
似てるなと思ったのは、前回も雪の歌が多かったのを覚えていたからですね。
見返してみたらやはり「雪」が多く、ほとんどの歌に入っていました。
そして以前はあまり意識していなかったのですが、「夜」も後半に集中して詠み込まれていて、そのまま今回の世界に入っていけるような、『ノクターン』が『セレナーデ』の続編と言われてもおかしくないような、構成になっていることに感嘆してしまいました。
個人的には展開といった点で、それを強く感じられる今作の方が好みでした。

『ハッピーニューあたし』 ちーばり

僕が個人的に、特に歌集を読んで以降ちーばりさんの大ファンなので、暴走したらごめんなさいと先に言っておきます。
参加者としてそういう人と一緒の紙面にいる嬉しさ、みたいなこともありました。

僕が思っているちーばりさんの良さを簡潔に表すと、強いことなんですよね。重たい一発がずどんと刺さる感じです。
この作品では、それがどれもまっすぐストレートで刺さってきます。
どの歌も主体の意思が正面から描かれていて、新年とともに新しい自分になるための決意がありありと伝わってきました。
加えて、歌の多くが読者に直接伝わりやすい話し言葉で出来ていることも強さの一つの要因になっていると思います。
実は今回は特にその話し言葉の恩恵が大きいと思っていて。
話し言葉だと漢字で表す言葉が少なくなって、相対的にかなが多くなります。(意図的にひらがなに開いているところもあると思いますが)
つまり、表記したときに一首が長くなります。
それが今回の枠の大きさと見事うまい具合にかみ合って、紙面に余白が少なく文字の密度が高くなっている。
それによって連作がさらに強さを増しているように思えました。
いや、今回ほんとうに編集がすごいんですよね。あらうさんありがとうございます。

弱かった頃の自分と似てるからあなたが嫌い、ごめん、さよなら

似た感覚は大体の人が持っている、いわばあるあるだと思ってるんですがどうですかね。
それを韻律に乗せて、さらには離別をはっきりと言い切ってしまう強さですよね。
「嫌い」「さよなら」あと「頃」なんかもワードとして強いなと思います。
そして「ごめん」が凄い。
一瞬だけ主体が「あなた」のところまで降りてくるようで。
ガードが緩んだところで放たれる「さよなら」はもうオーバーキルとしか言いようがないです。
さらっとここまで思い描かせるリアリティの高さもこの歌のいいところだと思います。



えっ、長くない?まだあと書いていない参加者が7人いるんですけど。
でもさすがに僕も疲れたのでいったん切ります。残りの方についても書いて近いうちにあげますので。よろしくお願いします。


(↑続き)

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