いきなり男たちの叫び声が。
昔、住んでいたマンションで、こんな驚いた出来事があった。ある朝、いきなり男の叫び声が聞こえたのだ。怒鳴ってるような叫び声。しかも、それは複数だ。
な、なんだ!これは事件なのかっ!
仕事に出掛けようとしていた私は玄関先で、まさにドアを開ける瞬間だったのだけど、思わずまたドアを閉め、ガチャリと思いっきりカギを閉めたのだった。
はぁ、はぁ、はぁ・・・
たったそれだけの行動で息が上がる。
何なんだ一体?
また、聞こえる。ぎゃーとも、うわーとも判別できないような声。まるで事件を起した犯人が、逃げてる最中といった雰囲気か?またはその被害者が犯人を追いかけてるといった感じか?かなり近くだ。というか、これはかなりやばい状況だ。玄関の魚眼レンズで外を見るけれど、声の主は見当たらない。
どうやらこのマンションの隣から聞こえてくるようだった。
警察は、まだ、来てない様子。明らかに異常なのに、何をしてるんだ?警察はっ!住民はっ!誰も通報してないのか?それとも私が第一発見者なのか?
とにかく私は勇気を振り絞るようにして、隣のアパートが見渡せる部屋の窓を小さく開けて、覗いてみた。
なぜだかいくつも旗が立っている。うまく読み取れないけれど、太い文字で何か書いてある。なんなんだ?これは何かの主張なのか?(政治とか年金とか生活保護とかなのか?)
男達の叫び声がまた響く。バシバシと何かを叩くような音も聞こえる。どうやら部屋の中からのようだ。何をしてるんだ、彼らは一体?大きく開けられた窓から男達の影がちらほら見えてくる。かなり大柄な若者ばかりだ。
右往左往している。行動不審で上半身は裸。やばいって絶対やばいって!こりゃ大事件に違いないって!しかも足を振り上げている!シコを踏んでいるときたもんだ!
はぁ? シコ?
なんだ・・・。
よく見ると、彼らはお相撲さんだった。
まったく事件とかけ離れたような
屈託のない明るい笑顔で、二十歳そこそこの若者達が
一生懸命に稽古をしていた。
どうやら隣のアパートの一室が相撲部屋(かな?)になったようだ。
・・・そりゃないだろう。
いや、べつにお相撲さんが嫌いなわけじゃないけれど、でも、いきなりこんな事態を、誰が想像できるだろう?
あなたも想像してもらいたい。
「朝起きたら、いきなり隣が相撲部屋」
・・・やっぱ、そりゃないよなぁ。
ま、でも、少し新鮮な、
それでいてとても微笑ましいような
そんな不思議な光景だった。
最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一