役に立たないは素敵なこと。
すべてにおいて自分のことが、信じられなかったあの頃。仕事をしていても何も役にも立たず、何もかもがうまくいかなくて、その先の道が見えなくなっていた。
「元気がないね」って、その人がやさしく声をかけてくれた。頑なに閉ざしていた心が、我慢できずに、そのときすでに心は叫んでいたのだと思う。
今までの辛い気持ちが、一気に私からあふれてしまった。気付けば私はその人に、いろんな想いをこぼしていた。
「僕はひょっとして、もう、ダメなのかも」
そんな私の情けない言葉に、その人はこう答えてくれた。
「ダメじゃないって思える人が果してこの世にいるのかしら?誰もがみんな、それで悩んでいるんじゃないの?」
「でも僕は、実際こうしてみんなに迷惑ばかりかけているし、何一つとして役に立っていないし…」
あの頃、私は思いもしなかった転職で、しかも、それまでとは全く違ったはじめての職場に、慣れない仕事をしていた。あの頃、私は確かにただの足手まといでしかなかった。その人は、忙しそうにしながらも、独り言みたいにこう言ってくれた。
「それも同じよ。役に立っている人なんて、本当は誰一人としていないわよ。もちろん私もね。だって、そうでしょう?みんな、互いに迷惑をかけるからこそ、こうして誰かと生きているんじゃない。役に立たないってことはある意味、人としてとても素敵なことなのよ」
”役に立たない”が、素敵だなんて…そんなこと、私はそれまで思いもしなかった。
あの頃、私はいつも自分のことを、ダメな人間だと思っていた。いつも、どうしようもない存在だって心のどこかで嘆いていた。こんな私なら、生きていても仕方ないんじゃないか…そんなことさえ思った時も…
誰かを想って書いた詩のように、人はみなその心を、ひとり秘密にしたままで、誰にも言えずに抱えこむのだろうか?だから人は、誰かを愛さずにはいられないのだろうか。だから人は、ひとりでは生きては行けないのだとしたら、こんな私はどうすればいいのだろう。
人はダメでいいんだ。そんな単純なこと、私もたぶんわかっている。けれども、それが私には、なぜか答えとして映らなかった。その人は私の前で、ずっと忙しそうに商品を補充している。時折「いらっしゃいませ」って、いつものように明るく声を出している。そして、そっと、その人は最後に私にこうつぶやいた。
「ダメなあなただからこそ、私はほっとけないんでしょ」
そのときはじめて気がついた。
人は、ではなく、私が、ひとりじゃないってことを。
ダメな私そのものを、ただ、許すっていうことを。
最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一