仲村トオルと同じ種類の人間と。
「仲村トオルに似てるって言われない?」
ふいに、私はそう言われた。それが例えば、若いアルバイトの女の子に言われたのだったら、それなりに私はうれしいのだけど、これがうちの奥さんじゃ・・、ねぇ、今更ときめきやしないです。
「へぇ?何?いきなり?」
寝転んで本を読んでいた私は、彼女を見上げながらそう聞いた。
「さっきね、テレビに出てたんだけど、なんか似てるな~と思って」
一応、断っておくけど、お世辞にも私は似てるとは思わない。まぁ、確かに無口で無愛想(ファンの方、ゴメンナサイ。)なところは似てるかもしれないけど、それが全体的に似てるとは言えない。(むぅ、なんか自分で書いておきながら、だんだん悔しくなってきた。)そんなことを彼女に言うと、彼女はやれやれ、って感じで私にこう言った。
「いや、それもそうなんだけど、そうじゃなくてね、仲村トオルはね、きっと、あなたと同じ種類の人間なのよ」
彼女は時々、意味不明なことを私に言う。ちょっと理解に苦しんでしまう。同じ種類の人間?なんだそれ?彼女に言わせれば、人間には数多くの”種類”というものがあるらしい。別にそれは肌の色とかじゃなくて、うまくは言えないらしいのだけど、例えばそれは、その人から発せられるオーラのようなものらしい。
「同じ種類の人間は、お互いにひかれ合うの。だから、友達とか、恋人は、同じオーラみたいなのが発せられていて、お互いにくっつくの。そう言う人達ってどこか似てるでしょ?」
ふむ。確かにそれは言えてるかも。人はなぜか自分と似ている人を探してしまう。中には性格とか趣味がまったく違っている人達もいるけれど、それは同じオーラのようなものが互いに流れているからと彼女は言う。犬が飼い主に似てくるのは、犬は邪念がないから、飼い主のオーラと同調するからよ。なんて言ってる。(あのう、念の為に言っておきますが、これは彼女の勝手な思い込みなので何の根拠もありません。さらりと流してください。)
「だからね、友達とか、恋人は、一見偶然に出合ったように見えるけど実は、ちゃんとお互いがひかれ合って出会ったの。出会うために、お互いがそういうパワーを出し合っているのよ。きっと。ねぇ、そういうのって素敵だと思わない?」
やれやれ、どうやら彼女の心の中には、勝って気ままな幸せホルモンに満たされているようだ。まぁ、結局それは感じ方の問題なのだろうけど、でも、同じ思うだけなら、こんなふうに前向きなほうがいいに決まっている。
「でもさ、結局別れてしまう恋人達もいるけれど、それはどう説明するの?」
なんて、私は聞きたくなったけど、鼻歌を歌ってる彼女にとって、それはたぶん、何の意味も持たないのだろうと思い言葉にしなかった。
「でもね、お互いにうまく行かない時があるけれど、それはね、オーラみたいなものが一時的に風邪をひいてしまっただけなの。または、最初から間違ってたかのどちらかね。きっと」
私の心が読めたのか、彼女はそんなふうに答えていた。そうだな。まぁ、風邪なら時間がたてば、いつか直るのだろう。そう考えれば、今、ケンカ状態の最悪な恋人達も、必ずいつものふたりになって、思わず笑ったりするんじゃないのかなぁ。
相手が風邪の時は、たっぷり休養を取ってたっぷり眠って、それから自分に風邪がうつらないように、少しばかり距離をおいて。こう考えると、奥さんのたわごともまんざらウソでもなさそうだ。
なんてね。私ってどうかしているな。結局、彼女にだまされてしまうんだ。でも、もし風邪じゃなく、ふたりのオーラが間違っていたら…。と彼女と違ってやはり、マイナス的部分も私は考えてしまう。
「それはね、オーラが違っていても、その二人はたぶん宝くじに当たったようなものね。だからうまくいくの。それは、”違った”と言うよりも、”当たった”ということなの」と彼女は言った。
なるほど。そういうことか。たぶん、オーラが違っていても、幸せならそれでいいんじゃない?って、実に単純なことなんだと思う。
どっちにしたって幸せなんだ。
同じ種類の人間も、違うオーラの恋人たちも。
彼女の魔法にかかれば・・・ね。
最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一