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もう、どこにもいないや。

時々、嫌な自分が顔を出す。

「よぉ、呼んだか?」

「いや、呼んでない。来るな」

「まぁ、そう言うなよ。朝から機嫌が悪いな?
昨日のことか?怒鳴りたい気持ちなんだろ?
今日は誰だ?どこのどいつなんだ?」

「頼むから消えてくれ」

「消えてくれ?どうやって消えるんだい?
そもそも、オレを呼んだのはお前さんなんだよ・・・」

いきなりさめた夢のように、現実に戻る。
昨日の嫌な自分と仕事での最悪な出来事が・・・

と、ここまで書いていたら、うちの奥さんが
私の部屋のドアをノックした。

(しばし、エッセイを中断。)

「ちょっと、早く来て!」

何ごとだ?と思ってついてゆくと、
ベランダに、大きなイモムシがいた。

洗濯物を干そうとしたら、見つけたみたいだ。

「早くとって逃がしてちょうだい!」

「なんだよ、未来のきれいな蝶々じゃん」

「そういうのいいから、早く!」

「しょうがないなー!」

何か取るのにいいものはないかと探していたら、
ちょうどいい大きさの紙コップを見つけた。

「ごねんな、うちの奥さん、君が苦手なんだって」

そう言って、彼(イモムシ君)をそっと
紙コップの中に入れた。

彼をじっと見ていると、形といい
背中に伸びた細い黄色いラインといい
意外とキレイだなって思った。

写真を撮って、投稿しようかと思ったけれど
彼女のように、苦手な人もいると思うので
やっぱりやめた。

それに彼も、”僕はどうなるんだ?”と
心配で仕方がないだろうからね。

どこが一番いいだろうかと思いつつ、
あちこち外をうろうろして
結局、ここがいいだろうと、
近くの草むらに逃がしてやった。

誰にも邪魔されないように
きれいな蝶々になってね、と
彼にそう願いながら。

やれやれ。ひと仕事終わった。
家に戻ると奥さんはもう、
テレビを見ながらゲラゲラ笑ってる。

さて、続きのエッセイを書くか。
何を書いていたんだっけ?と
書き出しの文章を読む。

”時々、嫌な自分が顔を出す”

あれ?
もう、どこにもいないや。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一