彼女と小さな鳴き声と。

「また、チュン太がやって来た!」

今朝のこと、明るく奥さんがそう言った。

この頃、朝になると、決まって台所の換気扇近くから、スズメの鳴き声が聞こえるようになった。もちろん、外から鳴いているのでスズメの姿は見えない。通風口から聞こえてくるのだろうか?まるで音律の調整された楽器のように、とてもはっきりとしたきれいな鳴き声だ。

ほぼ毎朝、聞こえてくるものだから、とうとう「チュン太」なんてあだ名も出来た。(時々、彼女は「チュン太郎」とも呼んでいる。名前はひとつにして欲しいと思う)

うちの子供たちは、大学に、就職にと、巣立ってしまったので、今、私たちは、夫婦二人で暮らしている。マンションなのでペットは飼えないけれども、特にペットが欲しいとも思ってはいない。けれども今や、このチュン太(あるときはチュン太郎)が、わが家のペットのような存在になってる。

「ちょうど稲刈りの時期だから、チュン太は笑いが止まらないだろうね!」なんて彼女が少しイタズラっぽく笑いながら話している。

そういえば、もうそんな時期になるのかなぁ?確かこの先の散歩道に、稲穂が実っていたような気がする。その通り道にチュン太はわが家に立ち寄ってくれているのだろうか?居心地のいい場所だなぁなんて、思っていてくれたらうれしいな。

空が高くなってきた。朝が少しだけ肌寒くなった。
こんな小さな生き物も秋を感じているのかなぁなんて・・・。

実りの秋がやってきた。
あったかい季節がやってきた。

わが家の小さな幸せは
毎朝、小さな鳴き声ではじまる。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一