のっぽ雲の夏の宇宙人

午前中とはいえ、日差しが強い。カーエアコンに救われながら、信号待ちの交差点でぼんやりと遠くの空を眺めていた。

大きな雲がビルとビルの谷間をゆっくりと流れてゆく。その様が不思議なんだけど、私はそれが雲に見えなくて、なんだか得体の知れない物体のように見えた。そう思うと面白いもので、わざと雲だと思わないようにした。するとなんだか心がワクワクしてきた。

勝手に想像してみる。

そうだな、あの雲は実は、かつて宇宙から来た謎の生命体で本当は宇宙戦争みたいに、地球を侵略しようと人類に攻撃を仕掛けたのだけど、なにせ、体は雲のような浮遊体なので地上に降りれず、ただ、ぼわわぁぁんと漂うだけ。

「うへぇ、これじゃ地球を攻撃できないじゃん!」

のっぽの雲のような宇宙人が悔しがる。

「でも、やつら、俺達のこと、怖がってるだろ?」

太った雲のような宇宙人が、自慢げに言う。

「いや、なんか、おいら達のこと、ぼんやり眺めているだけっすよ」とのっぽの雲の宇宙人があくび交じりに答える。「ちくしょう、こうなったら、これは使いたくなかった武器だけど、この武器で一気に片付けるしかないか。それ!いけー!」

「隊長!」「ん?なんだ?」「なんか、効果ないみたいっすよ!」「ん、俺達のあの最強の武器が、か?」「えぇ、なんかあいつら、手に何か持ってますよ。どうやらあいつら、バリヤーを持っているみたいっすよ。あいつらの言葉では”日傘”っていうものらしいっすけど」

「なんだって?やつらの科学はそんなにも進歩してるのか?」「なんか調子狂いやすね、どうしやす、隊長?」「でも、せっかくココまで来たんだしな。もう少し様子を見てチャンスを待つか」「そうっすよね、それがいいっすよ。でも隊長、それにしてもこの地球の空って、とっても気持ちいいっすよねぇ」

「そうだなぁ、確かに気持ちがいい。広くて、のんびりしてて・・・」「ねぇ、隊長。どうせ、俺達、もう行くあてはないんだから長期休暇だと思って、ここでのんびりしやせんか?」「ばかもん!!今の若いもんはこれだから・・・」「うへぇ、もう、いいっすよ!その隊長の小言、もう聞き飽きたっすよ!それより、隊長、あそこに随分と広い青い液体が広がってますよ。人間のいる場所は、ずいぶんと狭苦しいのに、ここは人間の手が付けられなかった場所みたいっすね」

「ほう、そうだな、確かにきれいだなぁ。この場所はなんていうんだろうな・・・いやいや、そんなことを言ってる場合じゃない。早く地球を侵略するぞぉ!」「これだから隊長は、若い子にもてないんっすよ」「なんか、言ったか?」「いえいえ、おいらのひとり言っす・・・」

なんて、一昔前のドラマみたいに、のんきなやり取りをしているうちに、すっかり地球の空に居座った・・・みたいな感じじゃなかろうか?

あぁ、随分とくだらないことを書いちゃったなぁ。でも、あののっぽの雲の宇宙人だけは、あの口調で、やさしく私を励ましてくれたりして。

「大丈夫っすよ、おいら、そういうくだらないの、好きっすよ」

私の妄想は、魔法みたいに青信号で消える。さぁて、行くか。と気持ちを新鮮なものにする。

それにしても
平成最後の夏だというのに
熱い暑い夏だなぁ。

まるで忘れないでいてって
甘えん坊の子供みたいに
誰かに訴えているみたい。

それでも
あののっぽと太った雲の宇宙人は
今年も好きなあの海の上で
入道雲のようなものに
なっているんだろうなぁ。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一