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美しい神社と28才のお爺さんと。

奥さんと二人で古いテーマパーク(かな?)へ出掛けた。二人ともその日は特に予定もなく、旅行雑誌にも載っていないようなところだけど、ドライブがてら出掛けてみた。

辿り着くと、そこには古い実術品のようなの造形物がいくつも飾られていて、意外とお金がかけられていた。園内にはだれもいない。昔は賑わっていたのだろうなと思う。平日とはいえ、時の流れは寂しいものだ。

しばらく二人で歩いていると、不意に声を掛けられた。

かなりお年寄りの男性だった。後ろにいたことに気づかなかった僕らは、とても驚いてしまった。

「梅がきれいでしょう?」と聞いてきた。

「はい、そうですね」と彼女がニコッと答える。

昼前のとてもいい天気だ。いや、それよりも、この人は一体誰なんだ?関係者かと思ったら、ネームプレートもないし。それでも彼女とお爺さんの会話は続いてゆく。他愛のない世間話をしているようだ。

ただの一般客だろうか?まぁ、ニコニコといい人そうだったので、私は構わず、一人でさっきの梅を撮っていた。

気が付くと二人がいない。どこだろう?と思ったら、随分と離れた場所でベンチに座って笑っていた。何であんなところにいるのだろう?と思ったけど、私の方が知らないうちに、どんどんと離れてしまったようだ。

慌てて彼女に駆け寄ると、お爺さんがこう言ってくれた。

「すぐ近くに美しい神社があるのですよ。行きませんか?」と。

「素敵!」って喜んだのは彼女の方で、今度は彼女とお爺さんが、どんどんと離れてゆく。私は仕方なくついて行った。

神社は確かに美しかったけど、随分と古いものだった。前日の強風で、枯れ葉と枝がたくさん散らばっていた。それを手でお爺さんが払いのける。僕たちも一緒になってきれいにしてゆく。

お賽銭箱に小銭を入れて、3人で拝む。

「この神社はね、30年前は本当に美しい神社だったのですよ」とお爺さんが僕らにつぶやいた。その瞳はまるで少年のように輝いていて、そしてどこか寂しそうに見えた。

お爺さんは、私のカメラを見ながらも、しんみりとこう、尋ねてきた。「ご主人は写真が好きなのですね。私も昔、写真を撮っていたのですが、この神社の古い写真もあるのですよ。見ませんか?」

「はい、ぜひ!見たいです!」と私は明るく答えたのだけれども、どうも別のカバンに入れてたみたいで「あとでね」ってバツが悪そうに笑ってた。

気づけばとっくに昼を過ぎていた。園内には食べるところがなかったので、僕らは帰ることにした。

いろんな話をたくさん聞かせてもらったお爺さんに、僕らはお礼を言うと、互いに手を振りながら、明るくさよならをした。駐車場に戻り車に乗り込むと、彼女が楽しそうに私に話してきた。

「ねぇ、あなたが写真に夢中になっているときに、さっきのお爺さんにお歳を聞いたの。おいくつなんですか?って。そしたらね、『僕は28歳だ』って言うの。当然、冗談だって思ったから『えー!とてもお若いですね!』って調子を合わせたら『僕は歳を逆から言うんだけどね』だって。つまり、次の誕生日には38歳になるんだって!『1年で十才も歳をとって大変ですね』って言ったら大笑いしてたわ!」なんて・・・そんなふうに笑っていた。

本当に面白いお爺さんだなぁ。

それにしても一体誰だったんだろう?もしかしたら園長さん?それともガイド役の人?もしやただの地元の人?まぁ、そんなことはどうでもいいや。こんな幸せな気持ちがあれば、それだけで僕らは友達なんだ。

あぁ、しまった!そういえば、お爺さんの写真を見せてもらうのを忘れていた。僕らが急いでいたのできっと、お爺さんは遠慮したのだろうな。悪いことをしてしまった。

別れるときにお爺さんは僕らにこう言ってくれた。「春先にまた、来るといいですよ。ここには美しい桜が咲くのですよ」と。

それは淡い小さな約束。
そうだ、僕らはまた、ここへ来よう。
美しい神社とお爺さんに、また、ここで会うために。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一