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間違えた彼女のこと。

久しぶりにレンタルCDショップに行って、CDを借りたときのこと。レジでお金を支払おうとしたら、今から思えば、すぐに言えばよかったのだけど、レジの女の子が言った金額が、ちょっと高かったんだよね。

「値上がりしたのかな?」くらいにしか私は思わなくて、素直に支払ったのだけど、レジの女の子がレジ操作した後で「あ!」とちょっと大きな声を出して、私に「少々、お待ち下さいませ」って言ったのだった。

何やらガチャガチャと、レジを一生懸命に操作している。やはり、さっきの金額が間違ってたみたいだ。お釣りももう、もらってしまったし、私はぼんやり立ったままで、レジの彼女(二十歳くらいかな?)のしていることを見ているしかなかった。

どうもまだ慣れていないせいか、彼女はあせってるばかりで、レジはその度にピーピーと同じ音で泣くばかりだった。

今度は電話でどこかにかけている。誰も出ないみたいだ。今度は他の人を呼ぼうとしている。でも、店内には彼女以外、店員は誰もいない。そんな中、「すみません、すみません」と彼女は私に何度も頭を下げて謝っている。私は微笑んだつもりなのだけど、私をいつまでも待たせていることと、レジ操作がわからないせいか、彼女はかなりパニックを起こしていた。

「こういうときはね、とりあえず差額分をご返金して、あとで誰かに教えてもらって処理したらいいよ。いつまでもレジで待たせたら、怒るお客さんもいるからね」と同じ接客業として、アドバイスしてあげようかと思ったけれど、まぁ、今はお客の立場の私がそう言うわけにもいかないし、それに、そう簡単に出来ない何か事情があるのかもしれないし・・・

余計なおせっかいは止めた方がよさそうだった。

それにしても、目の前の彼女の姿は、あまりにも可哀相な感じだった。いっそのこと私が「このレンタルはキャンセルするよ」と言ってしまったほうが
彼女自身が楽になるかな?とも思ったけれど、それで彼女が後から店長に、叱られるのかもしれないし、私が怒ってクレームを言ったと勘違いされたら
それはそれで、彼女に辛い思いをさせてしまうかもしれなかった。

”普通、そこまで気を使うお客もいないよなぁ”とちょっと自分を微笑ましく思ったけど、その辛さがわかる私には、早く彼女を解放してあげたいような気持ちでいっぱいだった。

ようやく、何か思いついた彼女は慌てたままに、チンと思いっきりレジのドロアーを開けて、私に差額分のお金を返しながら「金額を間違えていました。申し訳ございません。それと、大変お待たせしてごめんなさいっ!」と、泣きそうな顔をして言っていた。

年上の私に(というかお客に)「ごめんなさいっ!」はないよなぁ。でも、うれしかった。めでたし、めでたし・・・私も彼女も、それでやっと解放されたのだった。

しかし・・・・後でレシートをよく見てみたら、返金額がなぜか、わずかに40円足りなかった。あんなに努力したのに間違えちゃったか・・・と、私は彼女のことを微笑ましく思った。

本当なら随分とお待たせしたことと返金額が違っていたこととで、普通ならクレームになるところだけど、その不器用でも、お客さんの為を思う一生懸命さは、その程度のことならば、帳消しにするくらいのパワーがあると思う。たとえお客が同じ接客業の私じゃなかったにしても・・・。

それにしても結局のところ、レジの誤差は出ちゃっただろうな。あの女の子、店長に叱られていなければいいのだけど・・・。

最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一