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花火と作り笑顔の彼女と。

8月の終わり頃。夜になって奥さんが「近くの公園で花火大会があるから行こうよ!」ということで、まぁ、散歩がてら、いいかと思って、ふたりで出かけた。

すると・・・なんてことだ!そこにはものすごい人ごみであふれていた。近くの公園だからと思っていたら、こんなにも有名な花火大会だったなんて。いつもの道が大渋滞。おまわりさんも、もう必死。背の低い奥さんが、人波に埋もれないように、久しぶりに二人で手をつないで歩いた。

祭りの会場では踊りをやっていて、私たちはそれを横目で見ながら、芝生の広場へ向かった。やがて、花火を見るためのいい場所に、腰を下ろして祭りを眺めていた。

すると、目の前には1組のカップルが・・・かなりイチャイチャしていた。男は35才って感じかな?女性は22才って感じで年齢の大きな差が感じられた。女性のほうは、おとなしそうな美人系。男性のほうは髭を生やしたワイルド系。ふたりとも、座って足を伸ばした状態で、男性はうしろから女性に抱きついた格好をしていた。

ま、祭なんだから、大目に見てあげなきゃいけないんだろうけど、とにかく目のやり場に困ってしまった。うちの奥さんは、「あなたがあんなタイプじゃなくてよかったわ」なんて、ワケのわからないことを言っている。私は「あぁ、そうですか」とプシュッと缶ビールを開ける。奥さんがケラケラと笑い出す。ま、とりあえず、そのまま私たちは芝生の上に居つづけた。

昔からの私の悪い癖なのだろうけど、気になると、どうしても私は人間観察をしてしまう。じっと誰かを見つめてしまう癖があるのだ。(今では意識的に止めるようにしているけれど。)今回も、別に変な意味じゃなく、ただ、その女性の表情がとても気になったのだった。

彼に甘えられて、うれしいはずなのに、どこか寂しげな感じ。その微笑みは、まるでよく出来た彫刻作品のようだった。

彼女は今、幸せじゃないんだな、と思った。他人の私がそう思っても、ただの余計なお世話であって、別にどうなるものでもないのだけど。

するとそこに、3人の子供達がやって来た。どうやらあのカップルの子供のようだ。いや、ちょっとまて。10才くらいの子供もいる。その女性が、母親にしては若すぎる。

軽く私はビックリする。あぁ、そうか、男性は再婚したのだなと勝手に想像する。若い女性は子供たちと、同じような笑顔ではしゃいでいる。

やがて花火が、広い夜空を飾ってゆく。音が体にビシビシと当たってくる。その美しさと迫力に、気持ちは徐々に高ぶってゆく。

そんな中、あぁ、そうか、と私は思った。

私たちはこうして同じ時を生きている。それぞれの人生を、それぞれに生きている。自分の正しさが、相手の正しさとは限らない。花火も同じ美しさは、何ひとつとしてないのだ。

他人の人生は、いつも誰かとは違うんだ。
それは比べるものじゃない。
そして、それを選んだのは彼女自身なんだ。

ただ、私は思う。
幸せは決して作ってはいけないと。
自然な流れの中にあるものと
作り笑顔のその彼女に
私は小さくエールを送った。

最後の花火に、人々の拍手の音が響く。
私たちも精一杯の拍手を送る。

でも、彼女は黙ったまま
花火の消えた夜空を見上げていた。


最後まで読んで下さってありがとうございます。大切なあなたの時間を使って共有できたこのひとときを、心から感謝いたします。 青木詠一