03/11
あの日、私は高校3年生。大学入試の後期日程を控える同級生も多かったが、近い友人たちはみんな進路が決まって悠々自適に過ごしていた。中学校の友人たちとカフェやファミレスに集まって勉強をする習慣があった。今思えば迷惑な話だが、学習塾に通わなかった私たちの勉強場になっていた。でももう、これからは集まって勉強することはない。それぞれ進学先が違うので散り散りになる。毎週のように会っていた友人たちと、これからは良くて年1回、もしかしたらそれも無いかも知れない。最後に"いつものカフェ”で喋ろうよと集まった。勉強するために利用していたカフェをやっと本来の目的で使用する。お昼。4人がカフェに集合した。将来の真面目な話もしていたが、結局は他愛もない話になっていた。盛り上がっていた時、地響きを感じた。周囲を伺う。会話が途切れる。誰もが違和感を察知して黙る。地面が揺れる。大きい地震だ。悲鳴。私たちは揺れの中、走って建物の外へ出た。これは初動として良くなかったなと今なら思えるが、ひとりが外に駆け出すとみんなそれに倣った。集団心理というやつ。カフェの隣りにある本屋を横目で見ると、平積みされた漫画が根こそぎ落ち、本棚から本が溢れていた。これは大変なことになった。駐車場で揺れが収まるのを待った。収まってからしばらく放心状態。友人たちと一緒だったのが救い。友人がカフェの椅子にジャケットを忘れたようで取りに行くタイミングを伺う。店員さんに話したら一緒に行きましょうということになり建物へ入っていった。戻ってくるまで不安でならなかったが無事に戻ってきた。早く家に帰ろうと、家が近い友人同士で分かれてできるだけ長い距離を一緒に帰った。私たちは徒歩だったのですぐに動けたが、車を駐車場に停めた人たちは出口のゲートバーが停電で動かず閉じ込められていた。どうにもならず焦った男性がゲートバーを折ろうとしていた。それは流石に世紀末だなと思ったが、人間焦ると理性が無くなる。怖いねと言いながら早足でその場から離れた。家に着くと母親が玄関から出てきた。とりあえずは無事、大きな損壊も無いとのこと。家の外を回ってガス漏れがないかチェックし、家に入る。こけしが棚から飛び出して転がっていたのでバスタオルの上に寝かせた。しばらくしたら兄と父が帰ってきた。家族が揃い安心して涙が出た。この日を一生忘れないだろう。なにもない日々が本当に幸せだ。
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