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「よい教師」再考

かつて、自分の恩師から「よい英語教師になってください」と言われたことがあります。当時は学部3年生頃のことで、半ば斜めに構えて世間を見ている私には、その含みのある言葉の意味がよく分かりませんでした。

きっと、当時の「今だって現職の教員以上の実力はある」という傲慢な態度から来る開き直りが、その真意を見えなくしていたのだと振り返ります。

それから5年後に英語教員として約5年、さらに1年を Power Platform や Microsoft 365 の講師として過ごしてきました。ずっと辞めるつもりでいましたが、結局、自分は「教える立場」であり続けました。

その間、よい教師になろうなどと殊更意識したわけではありません。むしろ、自分を「先生」と呼んで欲しくないと考えていました。

ところが、日本で議論される「英語」と「プログラミング」の影がどうしても重なって見えてしまう機会が増えたことにより、どういうわけかその度に恩師の言葉が脳裏で明滅を繰り返しています。

一体、よい教師とはどんな人のことなのか。英語教員を仕事としていた頃には以下のような矜持がありました。

  • 英語教師とは、何よりもまず英語ができなければならない

  • その前提に立って初めて、指導力、指導技術、人間性を語ることができる

英語教師として第一に求められるのは英語力です。英語ができなければ、いくら人柄が良くても、また指導力や技術に才があっても、英語教師としてのスタートを切れません。

理屈は単純で、自分の尻を叩く方便として丁度よいと考えていたからです。しかし、現実の世界はもっとややこしいです。上の箇条で挙げた要件は全て「程度」の問題だからです。

実際、英語教師一人ひとりを単純な物差しでは測ることができません。要件のいずれについても超えるべき絶対的基準を示せないからです。

客観性が高いはずの英語力も、その線引は思うほど簡単ではありません。文部科学省が示す TOEIC 730点は英語教師として備えるべき最低基準であって、それで満足して良いという意味ではありませんし、また、その点数が具体的な英語力を説明するわけでもありません。

加えて、教師としての技術や知識は絶えず変化しています。新米教師と古株教師を同列に置くこともできません。新米教師には経験や知識・技能を磨く猶予期間も必要でしょう。

かと言って、いつまで待てば良いかは判然としませんし、時間が経てば皆よい教師に育つわけでもありません。新米教師が古株教師を凌ぐ例はいくらでもあることです。

かくして「よい英語教師」の姿は混沌に沈みます。余談ながら、それに輪をかけるのが学校現場の忙しさです。教師の意気を阻喪せしめる材料には事欠きません。英語指導とそれ以外の仕事の間でどう折り合いをつけていくのかは、英語教師の悩みどころであると云えるでしょう。

私は、真によい英語教師になれるかどうかは、この悩みをどう悩むかにかかっていると考えています。もちろん、簡単ではありません。

英語力には際限がありませんし、指導力も「これでよい」というものではありません。人間性となると量よりも質の問題になってしまいます。悩みの相手は底なしの強者なのです。

英語教師としての個性は、この底なしを相手に形作られます。倒せない相手と承知で土俵に上がり、跳ね返せされてもなお立ち向かう教師がいます。敵わぬと見て早々に土俵を割る教師もいます。周囲を彷徨くだけで、一向に土俵に上がってこない教師もいます。

これらの程度はまちまちです。みな、彼ら自身がつけた現実的な折り合いであり、その折り合いの中で彼らは自らの「よい教師」を演じています。

このようなことを書いた上で、自戒のつもりで念を押すのですが、Power Platform の講師(≒エヴァンジェリスト)として前に立つには、まず Power Platform の専門家でなければなりません。

そして、そのPower Platform の専門家は、非IT業務の専門家でもあることが望ましいと考えています。

そのいずれの要件も満たしていない私は、何年経っても闇の中でしょうし、講師業を続けながらもこの苦悩に苛まれ続けていることだと思います。

上に引いたコミュニティは、その苦悩に向き合うために設立されたものです。他、関連のコミュニティと同じくして「市民開発(者)の普及・浸透」と「Power Platformを楽しむ」ことを目標と掲げていますが、自身の純粋な情報収集と共有が目的となっています。

初回は、自身が3月3日を境に、初めての Power Apps 講習の任期を満了することになるので、その報告も兼ね、6日(月)以降で行う予定でいます。イベントの告知は今しばらくお待ちいただけますと幸いです。

得てして、こういう長文はきちんと読まれないものです。念のために繰り返しますが、当コミュニティは、筆者が「講師とは」や「市民開発者とは」という人間性や理想像を語る場所ではありません。また、優れた指導法を語る場所でもありません。

その役割は他の有識者に全てお任せし、筆者は、筆者なりの考えで Power Platform を起点とした市民開発者の普及と浸透をお手伝いするつもりです。

文章をまとめていて少しスッキリしました。駄文にお付き合いいただきありがとうございます。

それでは皆さま、良い Power Platform ライフを!

Power Apps Weekly News 〆の挨拶より拝借

kuro.


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