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【第2弾】「いきいきとした教室」づくりを目指して ~歴史的非常事態の中で~

埼玉県熊谷市立熊谷東中学校
校長 伊藤 幸男 先生

慣れ親しんだ霞が関の庁舎から教師としてのホームグランド埼玉県に5年ぶりに戻った。熊谷市立熊谷東中学校長を拝命し、4月1日に着任した。しかし、学校の主人公である子どもたちの姿はなかった。新型コロナウィルス感染症対策の関係で3月に始まった学校の臨時休業措置は、解除の見通しがなかなか見いだせずほぼ3か月が経過した。子どもたちの学習の機会をどう保障すべきかどこの学校も思い悩み、試行錯誤の取組に挑んできたにちがいない。私自身も、一教師、かつ学校経営者として、35年の教員生活で一度も経験したことのない子どもたちのいない味気ない空白の日々を体験した。そのような状況の中で、休業、分散登校、通常登校の3つの段階において本校で取り組んだ英語教育の一端を紹介したい。

1.デジタルな支援

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情報化により学校と家庭を結ぶ連絡手段は、電話以外は「学校メール」や「学校HP(ホームページ)」に移行した。例えば、本校のHP閲覧回数に関して言えば、150万件を超えている。(2018年12月~2020年5月)このため、4月よりHP上に「東中(がっちゅう)チャンネル」というページを設け、YouTubeを利用した授業動画の配信を始めた。教頭と情報教育主任が校内の推進役となり、「一人一動画作成」を合言葉に、全教職員で授業動画を作成した。もちろん、校長の私も2つの動画を作成した(現在は、市内各学校で作成したものと教育委員会が作成した動画をとりまとめ、市教委主管【WEB版「くまなびスクール」】として公開されている)。先日行った本校保護者生徒対象のICT環境調査によると、多くの家庭でインターネットに接続できる環境があり、4人に3人の割合で「東中チャンネル」または「くまナビスクール」を見たことを回答していた。学校は、今回の臨時休業で、この「新しい学習様式」を学んだと言える。文科省のGIGA構想とぜひ繋げていきたい経験である。

2.アナログな支援

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本校では、分散登校【第1フェーズ】期間中、1学級を3分割し、授業を展開した。つまり、職員には同じ指導案による授業を3回、学年が4学級編成のため、3×4のコマ数の同じ授業に取り組んでもらったことになる。(同様に【第2フェーズ】では、学級を2分割し、授業を展開した。)「教えること」が本業とはいっても、当初は先生方の様子にかなりの戸惑いと疲労が感じられた。緊急事態宣言解除後の6月22日より通常登校が始まり、いよいよ平常のペースで授業に取り組むことができるようになった。しかし、まだまだ感染症対策に関して油断は禁物であり、管理職として教室訪問を実施しながら子どもたちの様子を見守っているところである。
教頭職までは、臨時的任用教員等の指導を兼ねながらティームティーチングの形で授業を数時間担当していたが、現在は教室訪問以外、年間をとおした計画的な指導には携わっていない。このため、校長室前に右のようなコーナーを設置し、生徒とのコミュニケーションを深めることを狙って英語指導に取り組んでいる。名前の一文字を取り入れ「幸NAVI」(ラッキーナビ)の展開である。校長として、子どもたちの英語力の後押しをさらにどう進めてくか今後も策を考え続けていきたい。
また、どこの学校にでも存在する特別な支援を必要とする生徒への対応にも参加する。学ぶ意欲はあるものの、アルファベットの文字を正しく認識できなかったり、日本語も英語も多くの文字を目にすると頭が痛くなってしまったり、気分が悪くなってしまういわゆるディスレクシアの生徒の手だてをどうしていくかである。保護者の同意のもと、週4コマ中2コマを教室から校内通級指導教室で指導することに取り組み始めたが、私も校務の都合がつく限り英語授業に協力していく予定である。

3.5ラウンドシステムの英語授業のアップグレード

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熊谷市は市をあげて5ラウンドシステムの学習に取り組んでいる。市内全校で指導にあたるようになって5年目になる。そろそろその成果をエビデンスベイストな形で示されなければいけない時期であるとも感じている。
本校では、分散登校を含めて現在までの指導で1stラウンドの後半に差しかかったという段階である。臨時休業のため教科部会で打ち合わせも時間をかけて行ってきたものの、分散登校中の特別日課授業や年度当初の人事異動の影響もあり、なかなか学校全体で統一した指導には取り組めていないのが現状である。「英語授業でいかに生徒をかまうことができるか」「教師の説明型の授業から生徒が見つける授業への転換」がラウンドシムテム導入の基本的な考え方である。「従来型の授業より生徒の表情が変わった」だけでなく、知識・技能の確実な定着とともに、思考力・表現力・判断力の向上を目指した英語の総合力向上策のための手立てを考えていくことが喫緊の目標である。

4. 思いがけない壁~臨時休業の打撃

小学校英語教育の改革の大きな波を中学校の英語科職員はどれくらい受け止めているだろうか。前職にあった際、大きく気にかけていた点の一つである。「『小学校のことまで学べない。学校現場は忙しんだ』で済まされては大変なことになる。小学校の変化を知るとともに、新CS実施に向けて中学校の英語教師として移行期間にすべきことは何か」を常に英語科職員は意識すべきだ。前職では全国のいくつかの学校で外国語活動の取組を拝見する機会があった。小学校の先生の真摯な取組を見て、小学校の英語教育の実践も着実にアップグレードされてきたと実感した。中学校はこれをどう受け止めて、さらに子供たちの英語力向上に結び付けていくかを考えねばならない。

臨時休業を明けて初めての英語授業。当然音声のやりとりを中心とした授業を用意していた本校英語主任。しかし、生徒たちの反応に愕然とした。想定したレスポンスがない。「学んで身に付けてきているはずなのに、これはどういうことでしょうか?」英語科主任に尋ねられた。コロナ禍によって、学校ごとに取り組んでいた日々10分~15分のモジュール学習の途切れ、正規に位置づけられている授業の中断が、小学生の学習習慣に大きく影響したにちがいない。「聞いて」「話して」活動していた習慣が3か月も空いてしまったら当然かもしれない。強い海風に砂城が崩されるように一生懸命積み重ねてきたものが無に近い状態になったのか。『We Can』のキーフレーズをスモールトークで意識して扱いながら、少しずつ彼らの勘を取り戻していくことを考えている。「あせらず中学校のペースに慣らせていきます。」英語科主任の熱い眼差しに期待している。

『いきいきとした教室、これは全部の先生の悲しいほどの願いです。 (中略)「いきいきとした教室」というのは、ひとりひとりが、それぞれに、確実な成長感というのでしょうか、一歩一歩高まっている、自分が育っている、という実感といったらよいでしょうか、それが持てる教室のことなのです。』(「日本の教師に伝えたいこと」より 大村はま著 筑摩書房)

これは、今年度の校長室通信「志高く」第1号で全職員に紹介し、読んでもらった文章の一部である。教室訪問をした際、垣間見る生徒たちの表情でその授業がわかる。スタートは遅れたが、これから展開される多くの授業で、生徒たちの生き生きとした表情と出会えることを楽しみにしたい。そして、私もそんな彼らを一人でも多く生み出せるよう先生方や生徒たちの支援に精一杯取り組んでいきたいと思う。